2025-11-01から1ヶ月間の記事一覧
「(巻十四・三四三九)(歌は省略) 駅亭のあるところには、こんこんと湧き出る清い泉があり、そのほとりには、この水を管理する清らかなをとめがいると、万葉びとは空想していた。つつみ井というのは、土や石などで周囲をかためて、用水を湛(たた)えた、…
【聖水を管理する処女】 「信濃には、埴科(はにしな)の石井のてこがいた。 (巻十四・三三九八)(歌は省略) 村中の男たちから、ボイコットされたってかまわない、・・・しかし、そのてこに対しては一転して、心弱く、どうか俺を捨てないでくれ、と哀願し…
【神との結婚】 「真間のてこなの方にも問題がある。それは、真間のてこなの伝承には、てこなが、まったくの処女のままに過ぎたのかどうか、疑わしく思われる文句があるからである。 それは、山部赤人が・・・作った歌(巻三・四三一)・・・で、・・・てこ…
【死にゆく処女】 「菟原処女にも真間のてこなにも、それぞれ問題を残している。 菟原処女の場合、虫麿の長歌では、ことの進行の途上で、処女が死ぬことを母に告げているという、奇異な詞章がある。 (巻九・一八〇九)(歌は省略) ・・・菟原処女が、その…
【処女塚】 「高橋虫麿が作ったと伝え、その歌集から、『万葉集』の編者が巻九に採録した長歌(一八〇七)によると、この伝承の美女は、言い寄る男たちに身をまかすことなく、真間の海に身を投じて、清らかな処女のままに死んでしまったのである。・・・こう…
第六章 伝承の女 【『聖なる処女』真間のてこな】 「男の求愛を受け入れることなく、清らかな処女のままで、その生を了(お)えたと伝えられている、いわば『聖なる処女』が、『万葉集』の中に・・・『伝承の女』として、影を濃く投じていたことはたしかであ…
「(巻十一・二八二〇)(歌は省略)・・・ そして、・・・<この歌は>問答の、問いかけの方なので、女の答の歌がある。 (巻十一・二八二一)(歌は省略) 一般てきな、男女のかけ合いの場合とは、男女がとり違えられているようにさえ思われる。こういう、…
【婿入り婚】 「男が女を訪れる・・・『婿入り婚』の形が、万葉びとの生活においては、一般的な結婚形式でであった。 (巻十二・二九〇六)(歌は省略) 遠々しき越の国まで、はるばるとよばひに行ったのは、大国主命の結婚の伝承だが、・・・それが正式な、…
【ユーモラスな民謡の味】 前稿の二三六四歌は、必死に逢おうとする女性の、「母」という壁に挑む歌といえる。それだけに、なにか微笑ましさも伝わって来る歌である。おっかさんが聞き咎めたら、風だと言って「取り繕う・・・知恵を人々に教えているわけで、…
前歌のような、母に叱られてふさぎ込んでいる女の「境遇を想像することが、また楽しかったのだ。そこで男は言う。 (巻十一・二五一九)(歌は省略) せっかくわたしがここまで来たんだ。思い切って出て来なさい。今、この時をはずしては、後になってはもう…
【母の目をかすめて】 「母の監視のきびしさについて、男の側からの、ぐちっぽい言い分も聞かれる。 (巻十二 三〇〇〇)(歌は省略) 「・・・ししは鹿も猪もししで、食肉用の獣のことだ。それらの獣が出没する田のことを、しし田と言ったのだ。そして母親…
第五章 民謡の母 【空想の所産、民謡の母】 「作者不詳の歌を集めた、巻十、十一、十二、十三、十四などになると、・・・歌に登場する『母』は、防人歌に出てくる母とは、異なった顔を見せている・・・それは、慕われる母よりも、避けたがられ、けむたがられ…
前稿で、歌では、防人の召集は、本人の意志を無視した、寝耳に水のような慌ただしいものであったかのように見えるが、「実情はそうではなく」四三七六歌にある「言申さずて」のような言い方が、「作品以前に先行していたのだろう」と紹介していたが、「その…
続いて、四三九二、四三四一歌をみていこう。 ■巻二十 四三九二歌■ ◆阿米都之乃 以都例乃可美乎 以乃良波加 有都久之波々尓 麻多己等刀波牟 (大伴部麻与佐 巻二十 四三九二) ≪書き下し≫天地(あめつし)のいづれの神を祈らばか愛(うつく)し母にまた言(…
続いて、巻二十 四三四八、四三五六、四三七七、四三八三、四三八八歌をみていこう。 ■巻二十 四三四八歌■ ◆多良知祢乃 波々乎和加例弖 麻許等和例 多非乃加里保尓 夜須久祢牟加母 (日下部使主三中 巻二十 四三四八) ≪書き下し≫たらちねの母を別れてまこと…
前稿に引き続き、巻二十 四三四六・四三七八・四三九三・四三二三・四三三八歌をみていこう。 ■巻二十 四三四六歌■ ◆知々波々我 可之良加伎奈弖 佐久安例弖 伊比之氣等婆是 和須礼加祢豆流 (丈部稲麻呂 巻二十 四三四六) ≪書き下し≫父母(ちちはは)が頭(…
【『かへりみなくて』】 「(巻二十・四三七三)(歌は省略) この歌は、先ごろの戦争中、戦意昂揚の歌として喧伝された。天皇のお召しに預かったからには、今日からは、もはやすべての私的な感情は、一切顧慮することなく、家を捨て、家族を捨てて、いさぎ…
【家に残していく魂】 「・・・古語のいはふには普通『斎』という字をあてて、今日のいわうとは少し違うことを示している。これは、魂を封じ込めて、そとに出さないようにすることで、そのために、清浄に保って、慎み深い言動を心掛けねばならない。謹慎生活…
【父母の長命を願う心】 「親子の仲が率直に歌われ、しかも大きなまとまりをもっているのは、防人歌である。巻二十の天平勝宝七(七五五)年に、交代要員として筑紫に遣わされた諸国の防人歌、長歌一、短歌八十三首のまとまりの中で、二十数首、その四分の一…
【父母にとってのまなご】 「親子の仲をそれぞれに歌うのだから、素材としては、さまざまな関係や事情があってもいいはずなのだが、『万葉集』に歌われた親子の仲は、・・・類別を試みると意外に変化がない。・・・親は子の誕生を、・・・子は親の死の悲しみ…
【防人の父】 「・・・(巻二十・四三四七)(歌は省略) 防人に召された者の父の歌というのは、数は少ない。 ほかに二首、召されて行く者が、父であって、子をあとに残していく場合の歌がある。防人は平均して年が若かったから、家郷に、自分の子を残してい…
【憶良の親心】 「天平五年に山上憶良(六六〇~七三三)が、父親として、子を思う歌を作っている。 (巻五・八九九)(歌は省略) 老年にいたって長くわずらい、そして子を思っての歌、という詞書のある、長歌一首六首の短歌のついたものの一首である。・・…
第四章 母子抒情 【変らぬ親子の情愛】 「親と子との間の情愛には、万葉びとにしても、現代のわれわれにしても、本来、異なるところがあるはずはない。・・・ (巻九・一七九一)(歌は省略) 「・・・この歌は、母親の純粋な愛情と、それにともなう一脈の哀…
【男女関係のしるし】 「<三方沙弥の一二三歌>の『たけばぬれ』の・・・ぬるは、ものが容易に抜けてしまう状態であって、『ひかばぬるぬる』『ひかばぬれつつ』などの用例が『東歌』にある。 (巻十四・三三七八)(巻十四・三四一六)(歌は省略) 蔓(つ…
【掻き入れ髪】 「はなり髪は、見ようによっては『振り分け髪』となるだろうと言ったが、それについては、こういう歌がある。 (巻十一・二五四〇)(歌は省略) 結い上げるのには短いので、青草(若草と訓む説もある)を添え毛にして、かき上げている、と言…
万葉集の世界へ飛び込もう(その3083)―書籍掲載歌を中軸に(Ⅴ)―髪上げの儀式を待つ女性 【髪上げの儀式を待つ女性】 「はなりという髪は、結い上げずに、ばらばらになっている状態だから、『放』『放髪』と書いているのだろう・・・いわば、もう、一人…
【わらはとうなゐ】 「・・・わらはとうなゐとの結びつきは、・・・もう一つ『万葉集』にある。それは巻十六にある『竹取の翁』の長歌(三七九一)である。・・・この歌には、・・・うなつきの童が身(頸着之童子蚊見)と・・・ある。うなつきは髪の毛がやや…
第三章 成人扮装 【をとこに対するをとめ】 「今日では、一般的に男性女性を指して、をとこ・をんなと言っているが、万葉びとの世界では、をとこに対する語はをとめであった・・・『万葉集』の・・・表記<は>・・・ をとこの場合は、男・壮士・丁子・士・…
【『冠』の完了と『婚』の成立】 「成年戒の惨虐さ・・・いったん『死』の状態にはいり、そこから『復活』・・・つまり、一人前になったといういうことは、そこに新たなる『誕生』があったとみるべきである。・・・成年戒を通過した者に与えられる、・・・大…
【年齢通過儀礼】 「元来、日本人の一生を、年その組織する社会の組織の上にのせてみると、・・・年齢階級(『あかご』⇒『こども』⇒『若者』⇒『おとな』⇒『としより』)というべき階級がみられる・・・そしてこの年齢階級の通過、つまり、一つ上の段階に進む…