万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

ザ・モーニングセット&フルーツデザート190216(万葉集・歌のこころ 「待つ」)

●サンドイッチの中身は、サンチュとサラダ菜そして焼き豚。信楽焼の長方皿に並べる。サラダ菜の葉を一枚敷いてみた。

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2月16日のモーニングセット

 デザートは、細かい作業を行った。りんごの縦切りを横スライスして中心にいくほど皮の長さを短めに切る。お皿の周辺から円周上に並べていく。りんご、スイーツ、りんご、ブドウ、りんご、りんご、そして中心は2色のブドウの切り合わせを飾った。

 りんごの外周にバナナの輪切りの半分を並べ、干しぶどうとブドウを配した。

 

万葉集についてもう少し、自分なりの勉強してみようと、文庫本の類を5冊本棚から引っ張り出してきた。

 万葉集といえば、犬養 孝氏がまず頭に浮かぶ。「万葉の人びと」(犬養 孝 著 新潮文庫)を読んで、万葉集の歌の接し方を改めて学んだ。

 

◆将ㇾ来云毛(こむといふも) 不ㇾ來時有乎(こぬときあるを) 不ㇾ来云乎(こじといふを) 将ㇾ来常者不ㇾ待(こむとはまたじ) 不ㇾ來云物乎(こじといふものを)

                (大伴坂上郎女 巻四 五二七)

 

 この著のなかで、「歌の意味は、『やって来ようといったって、やって来ない時があるんだもの、やっては来るまいと相手が言ってのを、やって来ると思っては待ちますまい、やっては来るまいと言っているんだもの』」と訳してみても何のことかわからない、うらみたらたらの気持ちであるから、「『来るったって来ないことがあるのに、それを来ないっていうものを、来るとは思っては待ちますまい。来ないって言っているんですもの』って早口に言えばわかりますね。」と書いておられる。そのうえで、「来(こ)・来(こ)・来(こ)・来(こ)・来(こ)と頭韻をそろえ、脚韻も一つだけを除いて揃えている、と分析、うらみたらたらであるが、冷静に愛情を訴えている」と述べておられる。祝辞が荘厳な感じがするのは、「お」音、「う」音が多いからとして、この歌の三一音中二三音が「お」「う」音であると指摘、郎女の語感の鋭さに触れておられる。

「万葉の歌というのは、ただ口語に訳したりしたのではつまらない。それでは歌は生きてこない。やっぱり、歌は音楽であるということを忘れてはいけないと思います。だから歌の律動、格調、温感というものを大切にしなければいけないわけです。」と述べておられる。歴史の中に身を置き、詠われた現地をみて理解しなければ、歌は生きてこない」、とも書かれている。

 歌のこころに迫れということである。重い言葉である。「三現主義」にも通じる見方である。

 これまでのブログの中で、万葉の小径シリーズとして万葉の歌碑を紹介してきたが、歴史的背景を知り、歌の現地を訪れるのが一番であるが、可能な限り調べ、時間軸、空間軸を合わせていく努力をすることで、歌のこころに近づけるように再度読み返してみることもしていきたい。

 

 万葉の時代は、男が女のところに通ってくる、通い婚である。従って、女の立場で見ると「待つ」という時間軸が存在する。これを基軸とした歌の展開がある。郎女の歌も然りで、他にも額田王、磐姫皇后の歌などを見てみる。「待つ」をキーワードに思いをめぐらせてみると、歌のこころが少しは理解できたような気になって来る。

 

◆君待登(きみまつと) 吾戀居者(わがこひをれば) 我屋戸之(わがやどの) 

 簾動之(すだれうごかし) 秋風吹(あきのかぜふく)

                    (額田王 巻四 四八八)

訳:「今にもあなたがお越しになるかと、待ち焦がれていると、秋風が人の來る先ぶれのように、私の家の簾を動かして吹き込んできた」

 

◆君之行(きみがゆき) 氣長成奴(けながくなりぬ) 山多都祢(やまたづね) 

迎加将ㇾ行(むかへかゆかむ) 待尓可将ㇾ待(まちにかまたむ)

                  (磐姫皇后 巻二 八五)

 

犬養訳「あの方のお出かけはもう日が長くなった。じっとしていられないから、山をたずねて自分から出かけて迎えに行こうかしら。それとも、待ちに待とうかしら。」

 

◆如此許(かくばかり) 戀乍不ㇾ有者(こひつつあらずば) 高山之(たかやまの)

 磐祢四巻手(いはねしまきて) 死奈麻死物呼(しなましものを)

                    (磐姫皇后 巻二 八六)

 

犬養訳「これほどまでに恋い続けてなんかいないで、いっそのこと、(もう迎えに出よう。途中で、もう、高山の磐根を枕として死んでしまおうものを(のたれ死にしたってかまやしない))

 

◆在管裳(ありつつも) 君乎者将ㇾ待(きみをばまたむ) 打靡(うちなびく) 

 吾黒髪尓(あがくろかみに) 霜乃置萬代日(しものおくまでに)

                     (磐姫皇后 巻二 八七)

 

犬養訳「こうやってい続けて、あの方をお待ちしていよう。この靡いている私の黒髪に夜の霜が置くまでも」

 

◆秋田之(あきのたの) 穂上尓霧相(ほのへにきらふ) 朝霞(あさかすみ)

 何時邊乃方二(いつへのかたに) 我戀将ㇾ息(あがこひやまむ)

(磐姫皇后 巻二 八八)

 

犬養訳「秋の田の穂の上にかかっている朝霧のように、どちらを向いたら、私の恋心はなくなるのだろうか」

 

◆誰彼(たそかれと) 我莫問(われをなとひそ) 九月(ながつきの)

 露沾乍(つゆにぬれつつ) 君待吾(きみまつわれを)

                      (作者未詳 巻一〇 二二四〇)

 

訳:「誰だあれはと私のことを問わないでくれ 九月の霧に濡れながらあの人を待つ私を」

 

 潮もかなひぬ万葉の歌の海に漕ぎ出でなである。

 

(参考文献)

★「万葉の人びと」 犬養 孝 著 (新潮文庫

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉の恋歌」 堀内民一 著 (創元社

★「古代の恋愛生活」 古橋信孝 著 (NHKブックス