万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

ザ・モーニングセット&フルーツデザート190225(万葉集時代区分・第3期<その2>))

●サンドイッチはサンチュと焼き豚、4分割しサラダプレートに盛り付けた。サンチュはサニーレタスのように暴れないので比較的きれいに仕上がる。実は、驚いたことに、デパ地下で買ってくるのだが、近所の卸値に云々とうたうスーパーや同様の店の半値ないしはそれ以下である。最近は家内の有名ブランドの紙袋とポリ袋から野菜が丸見えのやつを持つのがファッションと勝手に考えている。デパ地下恐るべしである。

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2月25日のモーニングセット

 

 デザートは、材料は同じであるが、切り方で幾通りものバリエーションがある。頭の中の当初のイメージと作っている間にすっかり変わっていることもしばしば。今日もその口である。

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2月25日のモーニングセット

 万葉集の時代区分第3期<その2>が、今日のテーマである。

 山上憶良筑前守に任命され九州の赴任したのは67歳の時とある。上司にあたる太宰師の大伴旅人は64歳。万葉集の時代の老人パワーに驚かされる!

 

万葉集時代区分・第3期<その2>

 山上憶良筑前守に任ぜられたのは、神亀3年(726年)のことで、すでに67歳であった。

 大宰師大伴旅人が赴任して間もなく、神亀5年(729年)、妻の大伴郎女をなくしてしまう。旅人64歳の時である。

 この時旅人が詠んだ歌がある。

 

◆余能奈可波(よのなかは) 牟奈之伎母乃等(むなしきものと) 志流等伎子(しるときし) 伊与余麻須万須(いよよますます) 加奈之可利家理(かなしかりける)

                    (大伴旅人 巻五 七九三)

 略訳「世の中というのはみなしいものだと思い知らされて、さらに一層深い悲しみにくれていくことだなあ」

 

 山上憶良は、いうなれば上司の大伴旅人に挽歌をおくるのである。

◆大王能(おおきみの) 等保乃朝庭等(とほのみかどと) 斯良農比(しらぬひ) 筑紫國尓(つくしのくにに) 泣子那須(なくこなす) 斯多比枳摩斯提(したひきまして) 伊企陁尓母(いきだにも) 伊摩陁夜周米受(いまだやすめず) 年月母(としつきも) 伊摩陁阿良祢婆(いまだあらねば) 許ゝ呂由母(こころゆも) 於母波奴阿比陁尓(おもはぬあひだに) 宇知那眦枳(うちなびき) 許夜斯努礼(こやしぬれ) 伊波牟須弊(いはむすべ) 世武須弊斯良尓(よむすべしらに) 石木乎母(いはきをも) 刀比佐氣斯良受(とひさけしらず) 伊弊那良婆(いへならば) 迦多知波阿良牟乎(かたちはあらむを) 宇良賣斯企(うらめしき) 伊毛乃美許等能(いものみことの) 阿礼乎婆母(あれをばも) 伊可尓世与等可(いかにせよとか) 尓保鳥能(にほどりの) 布多利那良眦為(ふたりならびゐ) 加多良比斯(かたらひし) 許ゝ呂曽牟企弖(こころそむきて) 伊弊社可利伊摩須(いへざかりいます)

                        (山上憶良 巻五 七九四)

 略訳「遠く離れた筑紫の国に、泣く子のようについてきて、息も休ませないで年月もいくらも経ってないのに、思いがけず臥してしまわれた どのように言ったらよいかもわからない 岩や木に問いかけても (奈良の)家にいたならば元気でいただろうに、恨めしいことよ 愛しい妻が私にどうせよというのか オシドリのように二人並んで語らったその心に背いて家を離れていったのか」

 

 そして、短歌五首詠むのである。(巻五 七九五~七九九)

 

◆伊弊尓由伎弖(いへにゆきて) 伊可尓可阿我世武(いかにかあがせむ) 摩久良豆久(まくらづく) 都摩夜佐夫斯久(つまやさぶしく) 於母保由倍斯母(おもほゆべしも)

 略訳「家に帰って私は、いかにしようか 枕を並べた妻屋が寂しく思われることよ」

 

◆伴之伎与之(はしきよし) 加久乃未可良尓(かくのみからに) 之多比己之(したひこし) 伊毛我己許呂乃(いもがこころの) 須別毛須別那左(すべもすべなさ)

 略訳「このように慕っていた愛しい妻の気持ちにもうこたえられないことよ」

 

◆久夜斯可母(くやしかも) 加久斯良摩世婆(かくしらませば) 久奴知許等其等(くぬちことごと) 美世摩斯母乃乎(みせましものを)

 略訳「悔しい、こうなると知っていたら国中のことを見せたかったのに」

 

◆伊毛何美斯(いもがみし) 阿布知乃波那波(あふちのはなは) 知利奴倍斯(ちりぬべし) 和何那久那美多(わがなづくなみだ) 伊摩陁飛那久尓(いまだひなくに)

 略訳「愛しい妻が見たセンダンの花は散ってしまいそうだ 私の悲しい涙はまだ乾かないというのに」

 

◆大野山(おおのやま) 紀利多知和多流(きりたちわたる) 和何那宜尓(わがなげに) 於伎蘇乃可是尓(おきそのかぜに) 紀利多知和多流(きりたちわたる)

 略訳「大野山に霧が立上る 私の嘆きの息の風に霧が立ち上る」

 

 このような挽歌を送ったことにより、友情が芽生えたとも言われている。

 犬養 孝氏はその著「万葉の人びと」の中で、第3期に「歌壇は、一時九州に移ったみたいになる。なぜかといえば、太宰師(だざいのそち)大伴旅人が九州全体の長官となり、その下に、筑前国山上憶良がいる」、と書いておられる。

 

 「万葉の小径シリーズ21 さくら ヤマザクラ」でも書いたが、万葉集八一五~八四六として三二首が収録されている。

 題詞は、「梅花歌卅二首幷序」とあり、序は次の通りである。

 「天平二年正月一三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和 梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲松掛羅而傾盖 夕岫結霧 鳥封縠而迷林 庭舞新蝶 空歸故雁 於是盖天坐地 促膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異牟 宜賦園梅聊成短詠」

  

  ※帥老=大伴卿=大伴宿祢旅人

  

 略訳は次の通りである。「天平二年正月一三日、旅人の邸宅に集まって宴を催した。時は初春の良き日、空気はすみ、風も穏やか、梅は鏡の前で(化粧の折に舞う)白粉のように、蘭は身に着けた香りのように、その上、明け方の峯には雲が流れ、松は雲を貫き、天蓋を傾け、夕べには、霧が立ち込め、鳥は霧に閉じ込められ林の中で迷っている。庭には新しい蝶が舞い、空には雁が帰っていく。ここに天を天蓋とし、地を座として、人々は膝交え酒酌み交わしている。一同言葉を忘れ胸襟を開いて、それぞれが淡々と心のままにふるまい満ち足りている。もし筆に記すのでなければどうやって言い表すことができよう。詩経にも落梅の詩篇が記されているが、古今異なるはずもなく、庭の梅を読んで、いささかの短歌を作ろう」

 大伴旅人宅に集まって宴を催し、梅を愛でて歌を詠ったのである。多種多様の人が集まったようである。

 注目すべきは、この序は、漢詩風である。しかし、「短詠」と和歌を敢えて歌おうと言っている点であろう。

 また、先の山上憶良の挽歌(七九四)の題詞は「日本挽歌一首」とある。敢えて「日本」と記してある。当時の上層階級に漢詩を学ぶ今日でいうエリート意識(大陸風文雅の意識)に対し、日本的な文学の必要性を提起したといっても過言ではないように思える。

 

 参考までに、梅花宴に出席した面々の名前は次の通りである。⑧主人が、大伴旅人であり、④筑前守山上大夫が山上憶良である。(注:役職の読みは省略している)

 

 ① 大貮紀卿(きのまへつきみ)(八一五)

 ② 小貳小野大夫(八一六)=小野老朝臣(おののおゆあそみの)

 ③ 小貳粟田大夫(あはたのまへつきみ)(八一七)

 ④ 筑前守山上大夫(やまのうえのまへつきみ)(八一八)=山上憶良

 ⑤ 築後守大伴大夫(八一九)

 ⑥ 築後守葛井大夫(八二〇)

 ⑦ 笠沙弥(かさのさみ)(八二一)

 ⑧ 主人(八二二)=大伴旅人

 ⑨ 大監伴氏百代(八二三)=大伴宿祢百代(おほとものすくねももよ)

 ⑩ 小監阿氏奥嶋(あじのおきしま)(八二四)

 ⑪ 小監土氏百村(とじのももむら)(八二五)

 ⑫ 大典史氏大原(しじのおほはら)(八二六)

 ⑬ 小典山氏若麻呂((さんじのわかまろ)八二七)

 ⑭ 大判事丹氏麻呂(たんじのまろ)(八二八)

 ⑮ 薬師張氏福子(八二九)

 ⑯ 筑前介佐氏子首(さじのこびと)(八三〇)

 ⑰ 壹岐守板氏安麻呂(八三一)

 ⑱ 神司荒氏稲布(こうじのいなしき)(八三二)

 ⑲ 大令史野氏宿奈麻呂(八三三)

 ⑳ 小令史田氏肥人(でんじのうまひと)(八三四)

 ㉑ 薬師高氏義通((かうじのよしみち)八三五)

 ㉒ 陰陽師磯氏法麻呂(八三六)

 ㉓ 笇師志氏大道(しじのおほみち)(八三七)

 ㉔ 大隅目榎氏鉢麻呂(八三八)

 ㉕ 筑前目田氏真上((でんじのまかみ)八三九)

 ㉖ 壹岐目村氏彼方(そんじのをちかた)(八四〇)

 ㉗ 對馬目高氏老(かうじのおゆ)(八四一)

 ㉘ 薩摩目高氏海人(かうじのあま)(八四二)

 ㉙ 土師氏御道(はにしうじのみみち)(八四三)

 ㉚ 小野氏國堅(をのにしくにかた)(八四四)

 ㉛ 筑前拯門氏石足(もんじのいそたり)(八四五)

 ㉜ 小野氏淡理((をののうじたもり)八四六)

 

 これを見ても、九州の歌壇の一端が垣間見られる。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「太陽 特集・万葉集」 (平凡社

★「万葉の人びと」 犬養 孝 著 (新潮文庫

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社