万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

ザ・モーニングセット&フルーツデザート190228(万葉集 巻第十四 東歌)

●朝から雨である。サンドイッチとデザートを作った。トレーにセットする。窓の外の雨に濡れた庭も趣がある。万葉集巻第十四は、東歌である。東歌だけで一巻を形作っている。素朴で生活に密着した歌謡的な歌が多い。富士山は、都人にとっては、山辺赤人の歌のように「田子の浦ゆうち出て見れば真白にそ不尽の高嶺に雪は降りける」(巻三 三一八)と感嘆する対象であるが、東国人にとっては、「高く貴き」山ではなく、「富士の嶺にいや遠長き山路をも妹がりとへばけによばず來ぬ」(巻一四 三三五六)というように、恋人に逢いに行くのに「いや遠長き山路」であった。

 

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2月28日のモーニングセット

 デザートはりんごの縦切りを波状に並べバナナ、ブドウ、八朔、干しぶどうで飾り付けた。

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2月28日のデザート

万葉集巻第十四 東歌

 これまでのブログの中で、万葉集の時代区分第1期から第4期まで概括したが、東歌は巻第十四として収録されている。今回は、この東歌についてみてみる。

 巻十四はすべて短歌であり、二百三十首が収録されている。東歌は一字一音で記されている。下の写真のように体裁がそろっている。比較のため巻第一も掲げたが、長歌なども収録されているので体裁の雰囲気を見ていただければと思う。

 巻第十四において一字一音で書かれていないものは、「信濃」「駿河」「相模」などの国名がほとんどで例外は、「筑波」の山の名前である。細かく言えば、難訓とされる2,3の単語があるが、ここでは省略する。

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萬葉集」巻第十四 の一例

   

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比較参考 巻第一

 一字一音で体裁が整っているので、このことから、東国から中央に送られた記録が変貌したり、編者によって「書き改め」られた可能性などについても言われているが、例えば東国の方言などは一字一音で書かれていると思われる。いくら、万葉集は「貴族の手に成る、貴族の世界の享受する、貴族の文学である」が、だからといって、東歌に見られる、洗練されていない感情表現やごくごく普通のふだん着の感覚を否定してまで、改変されているとはいいがたい。

 家持は、越中時代に東歌の未整理資料(本?)を持って行ったといわれている。越中時代にほぼ現在の形に近いものになったといわれている。

 

 巻十四は、230首の最初90首が地名のわかっているのを集め、残りは地名のわからないものが集められている。

 巻頭の歌は、「奈都素妣久(なつそびく) 宇奈加美我多能(うなかみがたの) 於伎都渚尓姒(おきつすに) 布祢波等杼米牟(ふねはとどめむ) 佐欲布氣尓家里(さよふけにけり)(作者不詳 巻十四 三三四八)」であり、左注に「右一首上総國歌」とある。次の歌の左注は「右一首下総國歌」とある。巻一四 三四三七は、同「右一首陸奥國歌」とここまでは左注に「右○首○○○國歌」と書かれている。

 

◆筑波祢尓(つくばねに) 由伎可母布良留(ゆきかもふらる) 伊奈乎可母(いなをかも) 加奈思吉兒呂我(かなしきころが) 尓努保佐流可母(にのほさるかも)

                     (作者不詳 巻一四 三三五一)

 

 略訳「筑波山に雪が降っているのか いや違う 愛しいあの娘が 布を乾しているのかな」

 

 東歌は、土地に直結した歌が多いがそれだけ土地自慢的な色彩が強いといわれている。「常陸國歌」は12首あるが、そのうち11首が筑波山を詠ってる。この歌の「尓努(にの)」は「布(ぬの)」のことで、当時の方言あるいは訛りといわれている。「雪かも降らる」は、都言葉では、「雪かも降れる」であり、「乾さるかも」は同様、「乾せるかも」であり、「訛り」があることから一層素朴な感じになっているのである。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集東歌論」 加藤静雄 著 (桜楓社)

★「万葉の人びと」 犬養 孝 著 (新潮文庫

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社