●歌は、「ぬばたまの黒髪山の山草に小雨降りしきしくしく思ほゆ」である。
●歌碑は、奈良市法蓮佐保山 万葉の苑にある。
●歌をみていこう。
◆烏玉 黒髪山 山草 小雨零敷 益ゝ所思
(作者未詳 巻十一 二四五六)
≪書き下し≫ぬばたまの黒髪山(くろかみやま)の山菅(やますげ)に小雨(こさめ)降りしきしくしく思(おも)ほゆ
(訳)みずみずしい黒髪山の山菅、その菅に小雨が降りしきりるように、あの人のことがしきりに思われてならない。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)上四句「烏玉 黒髪山 山草 小雨零敷」は序、「益ゝ(しくしく)」を起こす。
(注)しくしく(と・に)【頻く頻く(と・に)】副詞:うち続いて。しきりに。(学研)
鴻ノ池運動公園にある陸上競技場の東側の「万葉花の径」の碑があるところから少し上った小高い所である。万葉集の歌にちなむ植物が植えてあり、植物の名前と歌が書かれた札が何本も建てられていた。
奈良ドリームランド跡地やその北側の丘陵は昔から黒髪山と呼ばれてきた。鴻ノ池運動公園の前の道は、奈良から京都に行くのに越えていく山路である。「国境食堂」という店があるが、奈良と京都の国境にあるからだろう。
もう一首、黒髪山を詠んだ歌を紹介してみる。
◆黒玉之(ぬばたまの) 玄髪山乎(くろかみやまを) 朝越而(あさこえて) 山下露尓(やましたつゆに) 沾來鴨(ぬれにけるかも)
(作者未詳 巻七 一二四一)
(略訳)黒髪山を朝越えてきた、山かげから落ちてくる露に濡れてしまったことよ
堀内民一氏は「大和万葉―その歌の風土」の中で、「露や山の雫は、人間関係の表出に大いに役立っている」と述べいくつかの歌を紹介されている。
◆吾勢祜乎(わがせこを) 倭邊遣登(やまとへやると) 佐夜深而(さよふけて) 鷄鳴露尓(あかときつゆに) 吾立所霑之(われたちぬれぬ)
(大伯皇女 巻二 一〇五)
(略訳)わが弟を大和へ帰るのを(見送っていると)夜も更けてしまって暁の露に濡れてしまった
◆二人行杼(ふたりゆけど) 去過難寸(ゆきすぎかたき) 秋山乎(あきやまを) 如何君之(いかにかきみが) 獨越武(ひとりこゆらむ)
(大伯皇女 巻二 一〇六)
(略訳)二人で一緒に行ってもなかなか行きがたい秋山をどのような思いをしながら一人で越えて行かれていることだろうか
◆足日木乃(あしひきの) 山之四付二(やまのしずくに) 妹待跡(いもまつと) 吾立所沾(われたちぬれぬ) 山之四附二(やまのしずくに)
(大津皇子 巻二 一〇七)
(略訳)山の雫の中で愛しい君を待うと立っているとすっかり濡れてしまったよ山の雫に
題詞は、「石川郎女奉和歌一首」
◆吾乎待跡(あをまつと) 君之沾計武(きみがぬれけむ) 足日木能(あしひきの) 山之四附二(やまのしずくに) 成益物乎(ならましものを)
(石川郎女 巻二 一〇八)
(略訳)私を待っていてあなたが濡れてしまった山の雫になりたいものですよ
(参考文献)
★「萬葉集」鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「大和万葉―その歌の風土」 堀内民一 著 (創元社)
★「万葉の恋歌」 堀内民一 著 (創元社9
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「万葉ゆかりの地を訪ねて~万葉歌碑めぐり」 (奈良市HP)
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