万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉の歌碑を訪ねて(その31改)―奈良市佐保台西町JR平城山駅前―万葉集 巻三 三〇〇

●歌は、「佐保過ぎて寧楽の手向に置く幣は妹を目離れず相見しめとそ」である。

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JR平城山駅前万葉歌碑(長屋王

●歌碑は、奈良市佐保台西町JR平城山駅前にある。

 

●歌をみていこう。

奈良市姫町の添御懸坐(そうのみあがたにます)神社境内の歌碑と同じである。

 

◆佐保過而 寧樂乃手祭尓 置幣者 妹乎目不離 相見染跡衣

                   (長屋王 巻三 三〇〇)

 

≪書き下し≫佐保(さほ)過ぎて奈良の手向(たむ)けに置く幣(ぬさ)は妹(いも)を目離(めか)れず相見(あひみ)しめとぞ

 

(訳)佐保を通り過ぎて奈良山の手向けの神に奉る幣は、あの子に絶えず逢わせたまえという願いからなのです。

(注)佐保:奈良市法蓮町・法華寺町一帯

(注)ぬさ【幣】名詞:神に祈るときの捧(ささ)げ物。古くは麻・木綿(ゆう)などをそのまま用いたが、のちには織った布や紙などを用い、多く串(くし)につけた。また、旅には、紙または絹布を細かに切ったものを「幣袋(ぬさぶくろ)」に入れて携え、道中の「道祖神(だうそじん)」に奉った。(学研)

 

 この歌の題詞は、「長屋王駐馬寧楽山作歌二首」<長屋王(ながやのおほきみ)、馬を奈良山に駐(と)めて作る歌二首>である。

 

 もう一首も見てみよう。

 

◆磐金之 凝敷山乎 超不勝而 哭者泣友 色尓将出八方

                  (長屋王 巻三 三〇一)

 

≪書き下し≫岩が根のこごしき山を越えかねて音(ね)には泣くとも色に出(い)でめやも

 

(訳)根を張るごつごつした山、そんな山を越えるに越えかねて、つい声に出して泣くことはあっても、あの子を思っていることなど、そぶりに出したりはすまい。(同上)

(注)こごし 形容詞:凝り固まってごつごつしている。(岩が)ごつごつと重なって険しい。 ※上代語。(学研)

(注)めやも 分類連語:…だろうか、いや…ではないなあ。 ⇒ なりたち 推量の助動詞「む」の已然形+反語の係助詞「や」+終助詞「も」(学研)

 

 

 長屋王の歌は、万葉集に五首収録されている。他の三首もみてみよう。

 

◆宇治間山 朝風寒之 旅尓師手 衣應借 妹毛有勿久尓

                     (長屋王 巻一 七五)

 

≪書き下し≫宇治間山(うぢまやま)朝風寒し旅にして衣(ころも)貸(か)すべき妹(いも)もあらなくに

 

(訳)宇治間山、ああ、この山の朝風は寒い。旅先にあって、衣(ころも)を貸してくれそうな女(ひと)もいないのに。(同上)

(注)あらなくに【有らなくに】分類連語:ないことなのに。あるわけではないのに。

⇒ 参考 文末に用いられるときは詠嘆の意を含む。 ⇒ なりたち ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の未然形の古い形「な」+接尾語「く」+助詞「に」(学研)

 

 共寝をしてくれそうな女(ひと)もいないといった意味合いである。

 

 

◆吾背子我 古家乃里之 明日香庭 乳鳥鳴成 嬬待不得而

                    (長屋王 巻三 二六八) 

 

≪書き下し≫我(わ)が背子(せこ)が古家(ふるへ)の里(さと)の明日香(あすか)には千鳥鳴くなり妻待ちかねて

 

(訳)あなたがの古家(ふるえ)の残る里の、ここ明日香では、千鳥がしきりに鳴いています。我が妻を待ちわびて・・・。(同上)

 

 

◆味酒 三輪乃祝之 山照 秋乃黄葉乃 散莫惜毛

                       (長屋王 巻八 一五一七)

 

≪書き下し≫味酒(うまさけ)三輪(みわ)の社(やしろ)の山照らす秋の黄葉(もみち)の散らまく惜しも

 

(訳)三輪の社(やしろ)の山を照り輝かしている秋のもみじ、そのもみじの散ってしまうのが惜しまれてならぬ。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)うまさけ【味酒・旨酒】分類枕詞:味のよい上等な酒を「神酒(みわ)(=神にささげる酒)」にすることから、「神酒(みわ)」と同音の地名「三輪(みわ)」に、また、「三輪山」のある地名「三室(みむろ)」「三諸(みもろ)」などにかかる。「うまさけ三輪の山」 ⇒参考 枕詞としては「うまさけの」「うまさけを」の形でも用いる。(学研)

 

 

 

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JR平城山駅

 

 

 

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

★「國文學 万葉集の詩と歴史」 (學燈社

★「万葉ゆかりの地を訪ねて~万葉歌碑めぐり」(奈良市HP)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」