万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

梅花宴の参加者32名の歌はもちろん当時の役職など記録として残っており、それが万葉集に収録されていることに改めて驚かされる。これも万葉集の魅力の一つであろう。(万葉歌碑を訪ねて―124の5―)

●梅花宴のメンバーの席順を想像してみると、上席グループと下席グループに別れ、大伴旅人が上席グループの上座、総幹事の小野淡理が下席グループの下座に座っていたと考えられる。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫を参考に作成)

八一五歌は「梅を招きつつ楽しき終へめ」と冒頭、宴の永続と盛り上げを詠い、八二九歌は、「梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべく」と梅に次は桜もで宴の永続を上席グループの締めと提起を行い、八三〇歌で、「梅の花絶ゆることなく」と前歌を受けて梅の花を讃え上げ下席グループとしての冒頭を飾るのである。八四六歌で「いやなつかしき梅の花」と全体を打ち上げる形で歌い上げてお開きにもっていっている。メンバーそれぞれが、前の人の歌を承け、いわばリレー式に次々と詠いあげて宴を盛り上げている。筑紫歌壇と呼ばれる所以であろう。

驚くべきは、こういった記録が残っており、それが、万葉集に収録されていることである。

このような所にも万葉集の計り知れない魅力がある。 

 

●サンドイッチの中味はロメインレタスと焼き豚である。デザートは、りんごの縦切りのあわせを十字状に置き、それをベースとして、クリムゾンシードレスを中心に加飾。まん中にはレッドグローブを配した。干しぶどうも使い模様状に飾った。同じようなトーンであるがそれぞれの色合いと形状を組み合わせた。

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7月3日のザ・モーニングセット

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7月3日のフルーツフルデザート

 

●万葉歌碑を訪ねて―その124の5―

 今回も梅花宴の歌をみていこう。(八三八~八四六歌)これで、すべての歌をみたことになる。

 

◆烏梅能波奈  知利麻我比多流  乎加肥尓波  宇具比須奈久母  波流加多麻氣弖  [大隅目榎氏鉢麻呂]

                    (榎氏鉢麻呂 巻八 八三八)

 

 

≪書き下し≫梅の花散り乱(まが)ひたる岡(をか)びにはうぐひす鳴くも春かたまけて  [大隅目(おほすみのさくわん)榎氏鉢麻呂(かじのはちまろ)]

 

(訳)春の花の入り乱れて散る岡辺には鴬がしきりに鳴いている。今はすっかり春の季節を迎えて。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)かたまけて<かたまく【片設く】:(その時節を)待ち受ける。(その時節に)なる。▽時を表す語とともに用いる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典より)

(注)目(さかん):四等官(しとうかん)のこと。

 参考➡四等官:『大宝令』における4階級の官司。すなわち,長官 (かみ) ,次官 (すけ) ,判官 (じょう) ,主典 (さかん) をいう。唐の制度に範をとり,その用字は官司によって異なる。

 主典(さかん)は、神祇官は「史」、省は「録」、寮は「属」、坊と職、「属」、衛府、「志」、国司は、「目」などと記すが、すべて「さかん」と読む。(コトバンク デジタル大辞泉より引用)

 

■榎氏鉢麻呂:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ収録されている。

 

 

◆波流能努尓  紀理多知和多利  布流由岐得  比得能美流麻提  烏梅能波奈知流  [筑前目田氏真上]

                    (田氏真上 巻八 八三九)

 

≪書き下し≫春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る  [筑前目(つくしのみちのくちのさかん)田氏真上(でんじのまかみ)]

 

(訳)“あれは春の野に霧が立ち込めて真っ白に降る雪なのか“と、誰もが見紛(みまが)うほどに、この園に梅の花が散っている。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

■田氏真上:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ収録されている。

 

 

◆波流楊那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓  [壹岐目村氏彼方]

                  (村氏彼方 巻八 八四〇)

 

≪書き下し≫春柳(はるやなぎ)かづらに折りし梅の花誰(た)れか浮かべし酒坏(さかづき)の上(へ)に  [壹岐目(いきのさくわん)村氏彼方(そんじのをちかた)]

 

(訳)春柳、この柳のかづらに挿そうと、みんながせっかく手折った梅の花、その花を誰が浮かべたのか。めぐる盃の上に。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

■村氏彼方:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ収録されている。

 

 

◆于遇比須能  於登企久奈倍尓  烏梅能波奈  和企弊能曽能尓  佐伎弖知流美由  [對馬目高氏老]

                   (高氏老 巻八 八四一)

 

≪書き下し≫うぐひすの音聞くなへに梅の花我家(わぎへ)の園に咲きて散る見ゆ  [對馬目(つしまのさくわん)高氏老(かうじのおゆ)]

 

(訳)鴬の鳴く声をちょうど耳にしたその折しも、梅の花がこの我らに園に咲いては散っている。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)なへ:接続助詞[事柄の並行した存在・進行〕…するとともに。…するにつれて。…するちょうどそのとき。

 

■高氏老:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ収録されている。

 

 

◆和我夜度能  烏梅能之豆延尓  阿蘇▼都々  宇具比須奈久毛  知良麻久乎之美[薩摩目高氏海人]             ※▼は「田+比」=び

                    (高氏海人 巻八 八四二)

 

≪書き下し≫我がやどの梅の下枝(しづえ)に遊びつつうぐひす鳴くも散らまく惜しみ  [薩摩目]さつまのさくわん)高氏海人(かうじのあま)]

 

(訳)この我らが庭の梅の下枝を飛び交いながら、鴬が鳴き立てている。花の散るのをいとおしんで。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

■高氏海人:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ収録されている。

 

 

◆宇梅能波奈  乎理加射之都々  毛呂比登能  阿蘇夫遠美礼婆  弥夜古之叙毛布[土師氏御道]

                     (土師氏御道 巻八 八四三)

 

≪書き下し≫梅の花折りかざしつつ諸人(もろひと)の遊ぶを見れば都しぞ思ふ  [土師(はにし)氏御道(うぢのみみち)]

 

(訳)梅の花を手折り髪にかざしながら、人びとが誰もかれも楽しく遊ぶのを見ると、そぞろに奈良の都が偲ばれる。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

■土師氏御道:土師氏宿祢水道(はにしのすくねみみち)。伝未詳。

万葉集には、四首(巻四 五五七-五五八、巻十六 三八四五、巻八 八四三)

収録されている。

 

 

◆伊母我陛邇  由岐可母不流登  弥流麻提尓  許ゝ陀母麻我不 烏梅能波奈可毛[小野氏國堅]

                 (小野氏國堅 巻八 八四四)

 

≪書き下し≫妹(いも)が家(へ)に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも  [小野氏(をのうじの)國堅(くにかた)]

 

(訳)いとしい子の家に行(ゆ)きというではないが、雪が降るのかと見紛(みまが)うばかりに、梅の花がしきりに散り乱れている。美しくも好もしい花よ。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)ここだ【幾許】:副詞 

    ①こんなにもたくさん。こうも甚だしく。▽数・量の多いようす。

    ②たいへんに。たいそう。▽程度の甚だしいようす。

            (weblio古語辞典 学研全訳古語辞典より)

 

 

◆宇具比須能  麻知迦弖尓勢斯  宇米我波奈  知良須阿利許曽  意母布故我多米[筑前拯門氏石足]

                   (門氏石足 巻八 八四五)

 

≪書き下し≫うぐひすの待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため  [筑前拯(つくしのみちのくちのじよう)門氏石足(もんじのいそたり)]

 

(訳)鴬が待ちかねていたせっかくの梅の花よ、散らずにいておくれ。そなたを思う子、鴬のために。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)拯(じよう):律令制で、四等官(しとうかん)の第三位。庁内の取り締まり、

主典(さかん)の作る文案の審査、宿直の割り当てなどをつかさどった。

「丞」「掾」など官司により用字が異なる(コトバンク デジタル大辞泉より)

 

■門氏石足:門部連石足(かどべのむらじいそたり)。伝未詳。万葉集には二首(巻五 五六八、巻八 八四五)収録されている。

 

 

◆可須美多都 那我岐波流卑乎 可謝勢例杼 伊野那都可子岐 烏梅能那奈可毛[

小野氏淡理]

                (小野氏淡理 巻八 八四六)

 

≪書き下し≫霞立つ長き春日(はるひ)をかざせれどいやなつかしき梅の花かも  [

小野氏淡理(をのうじのたもり)]

 

(訳)霞の立つ長い春、この一日中、髪に挿しているけれど、ますます離しがたい気持ちだ、この梅の花は。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

■小野氏淡理:小野田守朝臣(をののたもりのあそみ)と同じか。万葉集にはこの一首のみ収録されている。巻二〇 四五一四の題詞に「渤海大使小野田守朝臣」とある。

 

 

●梅花宴のメンバーを整理してみよう。歌の順に名前を列挙してみる。これらを参考に席順を想像してみると、上席グループと下席グループに別れ、大伴旅人が上座、総幹事の小野淡理が下座に座っていたと考えられる。下記のような席の配置であったかもしれない。歌に興じる面々の声が飛び交ってきそに思える。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫を参考に作成)

 

◎上席グル―プ

            八二二歌 大伴旅人(主人)

 八一五歌 大弐紀卿               八二三歌 大監伴氏百代   

 八一六歌 少弐小野大夫             八二四歌 少監阿氏奥島

 八一七歌 少弐粟多大夫             八二五歌 少監土氏百村

 八一八歌 筑前守山上大夫            八二六歌 大典史氏大原

 八一九歌 豊後守大伴大夫            八二七歌 少典山氏若麻呂

 八二〇歌 筑後守葛井大夫            八二八歌 大判事丹氏麻呂

 八二一歌 笠沙弥                八二九歌 薬師張氏福子

 

◎下席グループ

 

 八三〇歌 筑前介佐氏子首            八三八歌 大隅目榎氏鉢麻呂

 八三一歌 壱岐守板氏安麻呂           八三九歌 筑前目田氏真上

 八三二歌 神司荒氏稲布             八四〇歌 壱岐目村氏彼方

 八三三歌 大令史野氏宿奈麻呂          八四一歌 対馬目高氏老

 八三四歌 少令史田氏肥人            八四二歌 薩摩目高氏海人

 八三五歌 薬師高氏義道             八四三歌 土師氏御道

 八三六歌 陰陽師磯氏法麻呂           八四四歌 小野氏国堅

 八三七歌 算師志氏大道             八四五歌 筑前拯門氏石足

              八四六歌 小野氏淡理(総幹事)

 

 

 

 (参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社

★「かしはら探訪ナビ」(橿原市HP)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉