万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その131改)―奈良県橿原市雲梯町の河俣神社―万葉集 巻十二 三一〇〇

●歌は、「思はぬを思ふと言はば真鳥棲む雲梯の社の神し知らさむ」である。

 

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河俣神社万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、奈良県橿原市雲梯町の河俣神社境内にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆不想乎 想常云者 真鳥住 卯名手乃社之 神思将御知

     (作者未詳 巻十二 三一〇〇)

 

≪書き下し≫思はぬを思ふと言はば真鳥(まとり)棲(す)む雲梯(うなて)の社(もり)の神し知らさむ

 

(訳)思ってもいないのに思っているなど言おうものなら、恐ろしい鷲(わし)の棲む雲梯(うてな)の社の神様が見通して処分されることであろう。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)まとり【真鳥】:鳥の美称。多く、鷲(わし)をさす。(weblio辞書 三省堂大辞林

(注)しらす 【知らす・領らす】( 連語 )〔「しる」に上代の尊敬の助動詞「す」が付いたもの〕① お知りになる。知っていらっしゃる。

②  国を統治される。しろす。しろしめす。(weblio辞書 三省堂大辞林

 

 河俣神社は、南都銀行ポータルサイト「ええ古都なら」によると、「曽我川の畔に建つ万葉の古社。曽我川の東岸、近鉄坊城駅から歩いて15分ほどのところに鎮座する。曽我川の堤は春は桜並木、秋は紅葉が美しい。祭神は鴨八重事代主神(かものやえことしろぬしのかみ)。延喜式内社(えんぎしきないしゃ)にある高市郡高市御県坐鴨事代主神社(たかいちみあがたにいますかものことしろぬしじんじゃ)と考えられている。現在も、大阪の住吉神社畝傍山(うねびやま)の埴土(はにつち)を採取しに来る行事の際のお旅所となっており、ここで装束を整えることから「装束の宮」の名前でも親しまれている。」とある。

 

 磐余神社から、雲梯町(うなてちょう)の河俣神社(かわまたじんじゃ)を目指す。神社には、駐車場がないので、「河俣神社」名碑が立っている、曽我川にかかる戎智橋の手前のちょっとしたスペースに車を止める。

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河俣神社名碑

 参道があり、途中に鳥居が立っている。さらに奥に、境内を囲むように石柱塀が立っている。石柱塀から少し奥に入ったところにも鳥居が立っている。

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参道ほぼ中央の鳥居と境内入口の石柱塀

拝殿に向かって右手、曽我川側の石柱塀のうしろに歌碑がある。

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鳥居と石柱塀と万葉歌碑

 歌碑と反対側の石柱塀にそって左に進むと、畑があり、視界が広がる。畝傍山がくっきりと見える。

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河俣神社からの畝傍山の眺め

曽我川に沿って桜の木が何本も植えられているので、春は見事な景色を見せることだろう。

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曽我川

 

「真鳥住 卯名手乃杜」と詠いこんだ歌が一三四四歌である。

◆真鳥住 卯名手之神社之 菅根乎 衣尓書付 令服兒欲得

                   (作者未詳 巻七 一三四四)

 

≪書き下し≫真鳥(まとり)棲む雲梯(うなて)の杜(もり)の菅(すが)の根を衣(きぬ)にかき付け着せむ子もがも

 

(訳)鷲が棲(す)む雲梯(うなて)の杜(もり)の長い菅(すげ)の根、その根を衣(きぬ)に描き付けて着せてくれるかわいい子がいたらいいのになあ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)もがも:終助詞 《接続》体言、形容詞・断定の助動詞の連用形などに付く。

〔願望〕…があったらなあ。…があればいいなあ。

weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 鷲が住むような森があり、雲に届かんばかりの高い木々が、梯子のように見えたので雲梯(うなて)と名付けられたのだろうか。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「橿原の万葉歌碑めぐり」(橿原市観光政策課)

★「ええ古都なら」(南都銀行ポータルサイト

 

※20211230朝食関連記事削除、一部改訂