万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その145)―奈良県高市郡明日香村 飛鳥坐神社(3)―万葉集 巻十三 三二二九

●歌は、「斎串立て神酒すえ奉る神主部がうずの玉蔭見ればともしも」である。

 

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飛鳥坐神社拝殿近くの万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、奈良県高市郡明日香村 飛鳥坐神社にある。

 

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拝殿

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拝殿から本殿を見る

 

●歌をみていこう。

◆五十串立 神酒座奉 神主部之 雲聚玉陰 見者乏文

       (作者未詳 巻十三 三二二九)

 

≪書き下し≫斎串(いぐし)立て御瓶(みわ)据(す)ゑ奉(まつ)る祝部(はふりべ)がうずの玉(たま)かげ見ればともしも

 

(訳)玉串を立て、神酒(みき)の甕(かめ)を据えてお供えしている神主(かんぬし)たちの髪飾りのひかげのかずら、そのかずらを見ると、まことにゆかしく思われる。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)いくし【斎串】名詞:榊(さかき)や小竹に麻や木綿などをかけて神前に供えたもの。玉串(たまぐし)。「いぐし」とも。◆「い」は神聖の意を表す接頭語。

(注)みわ(御瓶):神酒を入れる甕

(注)うず 【髻華】名詞:奈良時代、草木の枝葉・花などを髪や冠に挿して飾りとしたもの。挿頭(かざし)。

(注)ともし【羨し】慕わしい。心引かれる。

 

 巻十三は基本的には、長歌集である。この歌も、長歌(三二二七歌)と短歌(反歌)二首(三二二八、三二二九歌)とから成り立っている。

 

 長歌と他の短歌をみてみよう。

 

◆葦原笶 水穂之國丹 手向為跡 天降座兼 五百万 千万神之 神代従 云續来在 甘南備乃 三諸山者 春去者 春霞立 秋徃者 紅丹穂経 耳甞備乃 三諸乃神之 帶為 明日香之河之 水尾速 生多米難 石枕 蘿生左右二 新夜乃 好去通牟 事計 夢尓令見社 劔刀 齊祭 神二師座者

                   (作者未詳 巻十三 三二二七)

 

≪書き下し≫葦原(あしはら)の 瑞穂(みずほ)の国に 手向(たむ)けすと 天降(あも)りましけむ 五百万(いほよろず) 千万神(ちよろずかみ)の 神代(かみよ)より 言ひ継(つ)き来る(きた)る 神(かむ)なびの みもろの山は 春されば 春霞(はるかすみ)立ち 秋行けば 紅(くれなゐ)にほふ 神なびの みもろの神の 帯(お)ばせる 明日香の川の 水脈(みを)早み 生(む)しかためかたき 石枕(いしまくら) 苔(こけ)生(む)すまでに 新夜(あらたよ)の 幸(さき)く通(かよ)はむ 事計(ことはか)り 夢(いめ)に見せこそ) 剣(つるぎ)大刀(たち) 斎(いは)ひ祭れる 神にしいませば

 

(訳)この尊い葦原の瑞穂の国に、手向(たむ)けをするための天降られた五百万(いおよろず)千万(ちよろず)神の、その神代の昔から、手向けの山と言い継がれきた神なびのみもろの山は、春が来ると春霞が立ち、秋になるともみじが照り輝く。この神なびのみもろの神が帯にしておられる明日香の川の、水の流れが早くて苔のつきにくい、その石枕に苔が生(む)す遠く久しい先々まで、来る夜来る夜の、幸福に通い続けられるような計らい、そんな事の計らいをどうか夢にお示しください。身を清めに清めてお祭りしている、われらの神様でいらっしゃるからには。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)石枕:ごろごろと並んでいる石ころ

 

◆神名備能 三諸之山丹 隠蔵杉 思将過哉 蘿生左右

 

≪書き下し≫神なびのみもろの山に斎(いは)ふ杉思ひ過ぎめや苔(こけ)生(む)すまでに

 

(訳)神なびのみもろの山で、身を慎んであがめ祭る杉、その杉ではないが、私の思いが消えて過ぎることなどありはしない。杉に苔が生すほどに年を経ようとも。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

 

 左注は、「右三首 但或書此短歌一首無有載之也」<右の三首。ただし、或る書には、この短歌一首は載(の)することあるなし。>とある。

(注)此の歌:三二二九歌のこと

 

 

 伊藤 博氏は、これらの歌の脚注に、新婚者の末永き多幸を祈る歌であり、貴族の饗宴の賀歌らしいと書いておられる。三二二八歌については、新婚者の立場に立った歌であり、三二二九歌は、婚礼に奉仕する神官たちへの賛美を通して新婚を祝う第三者の立場の歌とされている。左注に関しては、三二二七、三二二八歌が何度も歌われている間に加えられたのであろうと書いておられる。

 このことは、本来、三二二七、三二二八歌で一つの歌群であったものに結婚式という共通性から、三二二九歌を加え、一つの歌群に仕上げたものであると考えられる。

万葉集における、「さまざまなこころみ」がなされたものと受け止めることができる。

 ここにも、万葉集万葉集たる所以が見いだせると思える。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集をどう読むか―歌の『発見』と漢字世界」 神野志隆光 著 

                        (東京大学出版会

★「犬養孝揮毫万葉歌碑マップ(明日香村)」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)」

 

●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート

 サンドイッチは、ロメインレタスとキュウリそして焼き豚である。デザートは、りんごのスライスの型抜きしたものの上に、トンプソンとクリムゾンシードレスの切合わせで加飾した。

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7月25日のザ・モーニングセット

 

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7月25日のフルーツフルデザート