万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その149)―奈良県高市郡明日香村 万葉文化館(3)―

●歌は、「ふさ手折り多武の山霧繁みかも細川の瀬に波の騒ける」である。

 

f:id:tom101010:20190729230448j:plain

万葉文化館庭園万葉歌碑(3)(作者未詳)

●この歌碑は、奈良県高市郡明日香村 万葉文化館にある。3つ目である。

 

歌をみていこう。

◆捄手折 多武山霧 茂鴨 細川瀬 波驟祁留

                               (作者未詳 巻九 一七〇四)

 

≪書き下し≫ふさ手折(たを)り多武(たむ)の山霧繁(しげ)みかも細川(ほそかは)の瀬に波の騒(さわ)ける

 

(訳)どっさり手折ろうと枝をためるという名の多武の山の霧、あの山霧が深いからか、ここ細川の瀬に波が激しく立ち騒いでいる。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)ふさたをり【総手折り】[枕]たくさんの茎を折り曲げる意から、「たむ」にかかる。

(注)多武の山:明日香東方の多武峰

 

この歌の、序詞は、「獻舎人皇子歌二首」<舎人皇子(とねりのみこ)に献る歌二首>である。

 「献歌」については、身分の低い者が、高い者に献じた歌という意味であるが、「献」を「贈」と同義とする説もあるが、伊藤 博氏は、「万葉集相聞の世界」(塙書房)のなかで、「だいたいは、情そのものを歌に託して贈るというよりも、『こんな作品ができました』という気持ちで、歌そのものを芸術として奉る意と取るべきもののようだ。宮廷サロンなどにおける社交や風流をもてあそぶ習俗の所産であるように、それは思われる。」と書かれている。

 

もう一首の方もみてみよう。

◆冬木成 春部戀而 殖木 實成時 片待吾等叙

            (作者未詳 巻九 一七〇五)

 

≪書き下し≫冬こもり春へを恋ひて植ゑし木の実(み)になる時を片待つ我(わ)れぞ

 

(訳)冬木の茂る春の季節のさまに心引かれて植えた木、その木が花開いて実になる時を、ただひたすら待ちうけている私だ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

一七〇四歌では、世間の噂の激しいことを喩えており、一七〇五歌は、うら若き女性と関わってその成長を待っていることを詠んでいる。

 

続く一七〇六歌は、序詞が「舎人皇子御歌一首」<舎人皇子の御歌一首>とある。

 

◆黒玉 夜霧立 衣手 高屋於 霏▼麻天尓

             (舎人皇子 巻九 一七〇六)

             ▼「雨+微」で、「霏▼」:たなびく

 

≪書き下し≫ぬばたまの夜霧(よぎり)は立ちぬ衣手(ころもで)を高屋(たかや)の上(うへ)にたなびくまでに

 

(訳)夜の霧は一面に立ちこめている。衣の袖をたくし上げるというではないが、屋敷の高殿の上まですっぽり覆いつくしてたなびくほどに。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

「夜霧」は一七〇四歌の「山霧」を受け、恋の嘆きを象徴させている。

 

人皇子(舎人親王)の歌は万葉集にはもう二首ある。こちらもみていこう。

 

◆大夫哉 片戀将為跡 嘆友 鬼乃益卜雄 尚戀二家里

               (舎人皇子 巻二 一一七)

 

≪書き下し≫ますらをや片恋(かたこひ)せむと嘆けども醜(しこ)のますらをなほ恋ひにけり

 

(訳)ますらおたる者、こんな片恋なんかするものかと、しきりにわが心に言いきかせて抑えに抑えるのだが、おのれはろくでなし、とんまなますらおだ、それでもやっぱり恋い焦がれてしまう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

◆安之比奇能 山尓由伎家牟 夜麻妣等能 情母之良受 山人夜多礼

                (舎人親王 巻二十 四二九四)

 

≪書き下し≫あしひきの山に行きけむ山人(やまびと)の心も知らず山人や誰(た)れ

 

(訳)わざわざ、人里離れた山まで行かれたという山人のお気持ちも計りかねます。仰せの山人とは、いったい誰のことなのでしょう。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

この歌の歌碑は、山町円照寺参道にあり、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて―その21―」でふれているので、そちらも参考にしていただければと思います。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「萬葉集相聞の世界」 伊藤 博 著 (塙書房

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社

★「コトバンク 三省堂大辞林

 

●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート

 サンドイッチは、10枚切りを買ってきて、3枚使いとした。中味はサンチュとトマトとベーコンである。デザートは、キウイの半切りを連ね道をつくり、周りに、バナナ、トンプソンとクリムゾンシードレスで加飾した。

f:id:tom101010:20190729230617j:plain

7月29日のザ・モーニングセット

f:id:tom101010:20190729230726j:plain

7月29日のフルーツフルデザート