●歌は「明日香川 明日も渡らむ 石橋の遠き心は 思ほえぬかも」である。
●歌碑は、奈良県高市郡明日香村 雷橋から200mほど上流の甘樫丘豊浦休憩所前左岸川原にある。
●歌をみていこう。
◆明日香川 明日文将渡 石走 遠心者 不思鴨
(作者未詳 巻十一 二七〇一)
≪書き下し≫明日香川明日(あす)も渡らむ石橋(いしばし)の遠き心は思ほえぬかも
(訳)明日香川 あの川を明日にでも渡って逢いに行こう。その飛石のように、離れ離れの遠く隔てた気持ちなどちらっとも抱いたことはないのです。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
数日前の増水で水をかぶったのであろう。撮影にあたり、なぎ倒され歌碑に被っている雑草の取り除き作業からスタートである。まだ足元まで水がきている。
「犬養孝揮毫万葉歌碑マップ(明日香村)」によると、雷橋から甘樫橋までの間に万葉歌碑犬養孝揮毫以外の歌碑が(3~5)印があり3つある。堤の上の道沿いに2つあったが、この歌碑は、両側を歩いて分かったのである。休憩所側に川原へ降りる石段があり、その脇に歌碑が見えたのである。増水の影響でなぎ倒された草が歌碑にかぶっていたこともあり、反対側からでないと見つからなかった。
ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その153)」で初句索引から初句に「明日香川(河)」「明日香の川(河)」が詠まれている歌15首を取り上げたが、ここでは、歌中に詠みこまれている歌9首を取り上げてみたい。
◆飛鳥 明日香乃河之 上瀬尓 生玉藻者 下瀬尓 流觸経 玉藻成・・・(長歌)
(柿本人麻呂 巻二 一九四)
≪書き下し≫飛ぶ鳥の 明日香の川の 上(かみ)つ瀬に 生(お)ふる玉藻は 下つ瀬に 流れ触(ふ)らばふ 玉藻なす・・・(長歌)
(訳)飛ぶ鳥明日香川の、川上の瀬に生えている玉藻は、川下の瀬に向かって靡き触れ合っている。その玉藻さながら・・・(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
◆飛鳥 明日香乃河之 上瀬 石橋渡<一云石浪> 下瀬 打橋渡 石橋<一云石浪>・・・(長歌)
(柿本人麻呂 巻二 一九六)
≪書き下し≫飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 石橋渡す<一には「石並」といふ> 下つ瀬に 打橋渡す 石橋に<一には「石並」といふ>・・・(長歌)
(訳)飛ぶ鳥明日香川の、川上の浅瀬に飛石を並べる、<石並を並べる>川下の浅瀬に板橋をを掛ける。その飛石に<石並に>・・・(同上)
◆今日可聞 明日香河乃 夕不離 川津鳴瀬之 清有良武 <或本歌發句云明日香川今毛可毛等奈>
(上古麻呂 巻三 三五六)
≪書き下し≫今日もかも明日香の川の夕さらずかはづ鳴く瀬のさやけくあるらむ<或本の歌、発句には「明日香川今もかもとな」といふ>
(訳)今日もまた、明日香の川の、夕方になるといつも河鹿の鳴くあの瀬が、さぞかし清らかに流れていることであろう。<明日香川では、今もいたずらに>(同上)
◆君尓因 言之繁乎 古郷之 明日香乃河尓 潔身為尓去
(八代女王 巻四 六二六)
≪書き下し≫君により言(こと)の繁(しげ)きを故郷(ふるさと)の明日香の川にみそぎしに行く
(訳)君ゆえにひどく噂を立てられますので、その穢(けが)れを荒い流そうと、旧都明日香の川にみそぎをしに参ります。(同上)
◆年月毛 末経尓 明日香川 湍瀬由渡之 石走無
(作者未詳 巻七 一一二六)
≪書き下し≫年月(としつき)もいまだ経(へ)なくに明日香川瀬々(せぜ)ゆ渡しし石橋もなし
(訳)年月もそれほど経ってはいないのに、明日香川のあちこちの川瀬に渡しておいた飛石ももうなくなっている。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
◆不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國
(作者未詳 巻七 一三七九)
≪書き下し≫絶えず行(ゆ)く明日香の川の淀(よど)めらば故(ゆゑ)しもあるごと人の見まくに
(訳)いつもさらさらと流れて行く明日香の川がもし淀むようなことがあったら、何かわけがあるように人がみるでしょう。(同上)
◆今往而 聞物尓毛我 明日香川 春雨零而 瀧津湍音乎
(作者未詳 巻十 一八七八)
≪書き下し≫今行きて聞くものにもが明日香川春雨降りてたぎつ瀬の音(おと)を
(同上)今すぐにでも出かけて行って、聞くことができたらいいのに。明日香川に春雨が降り注いで、激しく流れる瀬の音を。(同上)
◆・・・甘南備乃 三諸乃神之 帯為 明日香之河之 水尾速・・・(長歌)
(作者未詳 巻十三 三二二七)
≪書き下し≫・・・神なびの みもろの神の 帯(お)ばせる 明日香の川の 水脈(みを)早み・・・
(訳)・・・この神なびのみもろの神が帯にしておられる明日香川の、水の流れが速くて・・・(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
◆・・・味酒乎 神名火山之 帶丹為留 明日香之河乃 速瀬尓 生玉藻之 打靡・・・(長歌)
(作者未詳 巻十三 三二六六)
≪書き下し≫・・・味酒(うまさけ)を 神(かむ)なび山の 帯(おび)にせる 明日香の川の 早き瀬に 生(お)ふる玉藻(たまも)の うち靡(なび)き・・・(長歌)
(訳)・・・その神なび山が帯にしている明日香川、この川の早瀬の中に生い茂る玉藻が、流れのままに靡くように・・・(同上)
明日香村役場には「飛ぶ鳥の明日香の里」の碑がある。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「犬養孝揮毫万葉歌碑マップ(明日香村)」
※20210503朝食関連記事削除、一部改訂。