●歌は、「明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立てざらめ 」である。
●歌をみていこう
◆明日香川 七瀬之不行尓 住鳥毛 意有社 波不立目
(作者未詳 巻七 一三六六)
≪書き下し≫明日香川七瀬(ななせ)の淀(よど)に棲(す)む鳥も心あれこれ波立ざらめ
(訳)明日香川の七瀬の淀に棲む鳥すらも、思いやりがあればこそ、波をたてないでいるのであろう、なのに。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)ざらめ<ざらむ 分類連語 ①〔「む」が意志の場合〕…まい。
②〔「む」が推量の場合〕……ないだろう。
(注)「不行」は、川の水が流れない、すなわち、淀んでいるところから「よど」とよんでいる。
部立は、「譬喩歌」、題詞は、「寄鳥」<鳥に寄す>である。
噂を立てる世間のさがなさを詠ったうたである。
しゃれた感じの歌である。
このようなマイナーな名所旧跡の類はカーナビでは出てこない。カーナビのインプット作業は非常に手間がかかる。漢字入力でコツコツ変換し、完了と思ったら場所が見つからないとの表示が出る。仕方なくスマホで検索して住所を入力したりと隠れた努力を強いられる。
マップを見ると、坂田寺跡のほぼ西300m位のところにある。気持ち少しでも車で近づきたいと細い道をたどる。川に出る。しかし見渡しても歌碑らしいものはない。袋小路に入ってしまったようなので、Uターンを試みる。何回切り返したことか。やっともと来た方向に。
車を止めれそうな場所を探すが適当な場所が見つからない。やや道が広くなっているところがあったので、車を止めようとすると、畑で作業している人の姿がすぐ近くに。申し訳ないので、先まで行ってUターンするかと前進する。道の先に、広場のようなものが見えて来る。説明板もある。ひょっとしたらの思いで近づく。驚きました。飛鳥川の清瀬橋を渡ると左手に歌碑があり、説明板の所から後方ひらけたところが飛鳥稲淵宮殿跡なのだ。
まったくファインチューニングができないいらだたしさである。しかし、見つけてしまうと今までの苦労が吹っ飛ぶ。
「寄河」<川に寄す>として、明日香川を詠った二首みていこう。
◆不絶逝 明日香川之 不逝有者 故霜有如 人之見國
(作者未詳 巻七 一三七九)
≪書き下し≫絶えず行(ゆ)く明日香の川の淀(よど)めらば故(ゆえ)しもあるごと人の見まくに
(訳)いつもさらさらと流れて行く明日香の川がもし淀むようなことがあったら、何かわけがあるように人が見るでしょうに。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
◆明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相
(作者未詳 巻七 一三八〇)
≪書き下し≫明日香川瀬々(せぜ)に玉藻は生(お)ひたれどしがらみあれば靡(なび)きあけなくに
(訳)明日香川の瀬ごとに玉藻は生えているけれど、しがらみが設けてあるので靡きあうことができないでいる。(同上)
一三七九歌は、いつもと違う様子が顔に出たら人はおやっと思う、一三八〇歌は、恋の流れを妨げるものがいるとしがらみを譬えとして詠っている。素朴な思いをたんたんとしかも少しひねって詠っているところに惹かれる歌である。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「犬養孝揮毫万葉歌碑マップ(明日香村)」
※20210503朝食関連記事削除、一部改訂。