●歌は、「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」である。
香芝市の万葉歌碑めぐりのスタートの志都美神社の次は、総合体育館である。行ってみると、体育館と公民館は同一敷地内にある。体育館の駐車場に車を止め、歌碑を探す。
●歌をみていこう。
◆茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流
(額田王 巻一 二〇)
≪書き下し≫あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る
(訳)茜(あかね)色のさし出る紫、その紫草の生い茂る野、かかわりなき人の立ち入りを禁じて標(しめ)を張った野を行き来して、あれそんなことをなさって、野の番人が見るではございませんか。あなたはそんなに袖(そで)をお振りになったりして。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)あかねさす【茜さす】分類枕詞:赤い色がさして、美しく照り輝くことから
「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。
(注)むらさき 【紫】①草の名。むらさき草。根から赤紫色の染料をとる。
②染め色の一つ。①の根で染めた色。赤紫色。古代紫。
古くから尊ばれた色で、律令制では三位以上の衣服の色とされた。
(注)むらさきの 【紫野】:「むらさき」を栽培している園。
(注)しめ【標】:神や人の領有区域であることを示して、立ち入りを禁ずる標識。
また、道しるべの標識。縄を張ったり、木を立てたり、草を結んだりする。
題詞は、「天皇遊獦蒲生野時額田王作歌」<天皇(すめらみこと)、蒲生野(かまふの)の遊狩(みかり)したまふ時に、額田王が作る歌>である。
(注)みかり【遊獦】:天皇が狩りをされた、すなわち、薬猟り(くすりがり)をされたこと。薬猟りとは、不老長寿の薬にするために、男は鹿の袋角(出始めの角)を、女は薬草をとる、という行事をいう。
大化の改新の立役者、中大兄皇子は西暦667年に飛鳥から近江に移り、翌年近江大津宮で即位した。天智天皇である。
額田王については、コトバンク(ブリタニカ国際大百科辞典)に次のように書かれている。「『万葉集』初期の女流歌人。『日本書紀』に鏡王の娘とあるが,鏡王については不明。同じ万葉女流歌人で藤原鎌足の室となった鏡王女 (かがみのおおきみ) の妹とする説もある。大海人皇子 (天武天皇) に愛されて十市皇女 (とおちのひめみこ) を産んだが,のちに天智天皇の後宮に入ったらしい。この天智天皇,大海人皇子兄弟の不仲,前者の子大友皇子と大海人皇子との争い,壬申の乱などには彼女の影響が考えられる。『万葉集』には,皇極天皇の行幸に従って詠んだ回想の歌を最初とし,持統朝に弓削 (ゆげ) 皇子と詠みかわした作まで,長歌3首,短歌 10首を残している (異説もある) 。職業的歌人とする説もあるが,歌には明確な個性が表われている。質的にもすぐれており,豊かな感情,すぐれた才気,力強い調べをもつ。」
額田王の長歌3首、短歌10首をみていこう。(ただし、書き下しのみ)
◆秋の野のみ草刈り葺(ふ)き宿れりし宇治(うぢ)の宮処(みやこ)の仮廬(かりいほ)し思ほゆ (巻一 七)
※題詞には「額田王が歌」とあり、「いまだ詳らかにあらず」とある。
◆熟田津(にきたつ)に船乗(ふなの)りせむと月待てば潮(しほ)もかなひぬ今は漕ぎ出(い)でな (巻一 八)
◆莫囂円隣之大相七兄爪謁気我が背子がい立たせりけむ厳橿(いつかし)が本(もと) (巻一 九)
※上二句は定訓がない。
◆冬こもり 春さり来(く)れば 鳴かずありし 鳥も来(き)鳴きぬ咲かずありし 花も咲けれど 山を茂(し)み 入りても取らす 草(くさ)深(ふか)み 取りても見ず 秋山の 木(こ)の葉を見ては 黄葉をば 取りてぞ偲(しの)ぶ 青きをば 置きてぞ嘆く そこし恨めし 秋山我(わ)れは (巻一 一六)
◆味酒(うまさけ) 三輪の山 あをによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠るまで 道の隈(くま) い積(つ)もるまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放(みさ)けむ山を 心なく 雲の隠(かく)さふべしや (巻一 一七)
◆三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや (巻一 一八)
◆あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る
(巻一 二〇)
◆いにしへに恋ふらむ鳥はほととぎすけだしや鳴きし我が思へるごと
(巻一 一一二)
◆み吉野の玉松が枝(え)ははしきかも君が御言(みこと)を持ちて通(かよ)はく (巻一 一一三)
◆かからむとかねて知りせば大御船(おほみふね)泊(は)てし泊(とま)りに標結(しめゆ)はらましを
(巻二 一五一)
◆やすみしし 我(わ)ご大君(おほきみ)の 畏(かしこ)きや 御陵仕ふる 山科の 鏡(かがみ)の山に 夜はも 夜(よ)のことごとに 昼はも 日のことごとに 哭(ね)のみを 泣きつつありてや ももしきの 大宮人は 行き別れなむ
(巻二 一五五)
◆君待つと我(あ)が恋ひ居(を)れば我(わ)がやどの簾(すだれ)動かし秋の風吹く (巻四 四八八)
◆君待つと我(あ)が恋ひ居(を)れば我(わ)がやどの簾(すだれ)動かし秋の風吹く (巻八 一六〇六)
(注)四八八歌と一六〇六歌は同じ。編者の考えによって重複使用されたのであろう。続く四八九歌と一六〇七歌(鏡王女)も同じ扱いになっている。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「市内の万葉歌碑紹介」(香芝市HP)
●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート
サンドイッチは、フランスパンをつかった。中味は、レタスとトマトそして焼き豚である。デザートは、外周から中央にトンプソンとクリムゾンシードレスで円を描いた。