万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その189)―奈良県生駒郡三郷町大和路線沿い―万葉集 巻八 一四一九

●歌は、「神奈備の岩瀬の杜の喚子鳥いたくな鳴きそ 吾が恋まさる」である。

 

f:id:tom101010:20190907203142j:plain

JR大和路線沿い(三郷駅近く)万葉歌碑(鏡王女)

●歌碑は、奈良県生駒郡三郷町 JR大和路線沿いにある。

 

 三郷駅西交差点の高橋虫麻呂の歌碑の次は鏡王女の歌碑である。交差点から大和川の方へ50mほど歩いたところに、「磐瀬の杜」の碑があった。広場のようになっておりその奥に歌碑があった。

f:id:tom101010:20190907203340j:plain

「磐瀬の杜」の碑

 「磐瀬(いわせ)の森については、奈良県北西部、生駒(いこま)郡斑鳩(いかるが)町、竜田(たつた)川東岸の竜田大橋南付近の古称といわれる。しかし異説も多く、同郡三郷(さんごう)町立野の大和(やまと)川北岸の森にも「磐瀬の杜(もり)」の石碑がある。」(コトバンク 日本大百科全書<ニッポニカ>の解説)

 

●歌をみていこう。

 

神奈備乃 伊波瀬乃社之 喚子鳥 痛莫鳴 吾戀益

                               (鏡王女 巻八 一四一九)

 

≪書き下し≫神なびの石瀬(いはせ)の社(もり)の呼子鳥(よぶこどり)いたくな鳴きそ 我(あ)が恋まさる

 

(訳)神なびの石瀬(いはせ)の森の呼子鳥よ、そんなにひどくは鳴かないでおくれ。私のせつない思いがつのるばかりだ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)よぶこどり【呼子鳥・喚子鳥】名詞:鳥の名。人を呼ぶような声で鳴く鳥。かっこうの別名か。

 

 鏡王女(かがみのおほきみ)については、「万葉歌人のとおった道」(三郷町HP)に、次のように書かれている。

「天武紀では鏡姫王(かがみのひめわう)、興福寺縁起標式では鏡女王(かがみのおほきみ)、万葉集では鏡王女(かがみのおほきみ)と記されている。王女は、きわめて高い身分で、鏡王を父とし、鏡王女、額田王は姉妹で額田王の姉とも云われているが疑問。ともに天智妃であったが、後に鏡王女は、藤原鎌足の嫡室(ちゃくしつ)となった。最近になって、その墓が舒明天皇の域内にあることから、舒明天皇の肉親なのか或いは宣化天皇の後裔、威奈の鏡公の子か、論議をよんでいる。万葉集に相聞歌四首を残し、万葉集最初の贈答歌人の位置を与えられ、相聞贈答の一つの典型を作り出したといえるようです。興福寺は、鎌足の病気の時、鏡王女の発願で開基された。」

 

 鏡王女の歌は五首(九二、九三、四八九、一四一九、一六〇七歌)収録されている。ただし、四八九歌と一六〇七歌は重複収録となっている。

 

 歌をみてみよう。

 

① 九二歌は、中大兄皇子天智天皇)との間に恋の歌のやりとりがあり、中大兄皇子からの贈歌に対して和(こた)えた歌である。

 

◆秋山之 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 御念従者

                (鏡王女 巻二 九二)

 

≪書き下し≫秋山の木の下隠り行く水の我れこそ増さめ思ほすよりは

 

(訳)秋山の木々の下を隠れ流れる川の水かさが増してゆくように、私の思いの方がまさっているでしょう。あなたが私を思って下さるよりは。(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

 

② 九三歌は、藤原鎌足とのやりとりである。

 題詞は、「内大臣藤原卿娉鏡王女時鏡王女贈内大臣歌一首」<内大臣(うちのおほまへつきみ)藤原卿(ふぢはらのまへつきみ)、鏡王女を娉(つまど)ふ時に、鏡王女が内大臣に贈(おく)る歌一首>である。

これに対して、藤原鎌足は、歌を「鏡王女に報(こた)へ」贈っているのである。

 

◆玉匣 覆乎安美 開而行者 君名者雖有 吾名之惜裳

                (鏡王女 巻二 九三)

 

≪書き下し≫玉櫛笥(たまくしげ)覆(おほ)ひを易(やす)み明けていなば名はあれど我(わ)が名し惜しも

 

(訳)玉櫛笥の覆いではないが、二人の仲を覆い隠すなんてわけないと、夜が明けきってから堂々とお帰りになっては、あなたの浮名が立つのはともかく、私の名が立つのが口惜しゅうございます。(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

 

③ 次いで、額田王が「近江天皇を思(しの)ひて作る歌」に呼応する形で詠った歌である。

 

◆風乎太尓 戀流波乏之 風小谷 将来登時待者 何香将嘆

                (鏡王女 巻四 四八九)

 

≪書き下し≫風をだに恋ふるは羨(とも)し風をだに来(こ)むとし待たば何か嘆かむ

 

(訳)ああ秋の風、その風の音にさえ恋心がゆさぶられるとは羨(うらや)ましいこと。風にさえ胸ときめかして、もしやおいでかと待つことができるなら、何を嘆くことがありましょう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

 

 なお、この歌は、額田王の歌(一六〇六歌)とともに一六〇七歌として巻八部立「秋相聞」に収録されている。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社

★「万葉歌碑」 (三郷町HP)

★「万葉歌人のとおった道」(三郷町HP)

★「コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

 

●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート

 サンドイッチは、レタスと焼き豚である。三角形に切り盛り付けた。デザートは、いちぢくをカットして中央に配し、キウイ(ゴールド)、バナナ、アイボリーブドウとフレイムシードレスで加飾した。

f:id:tom101010:20190907203827j:plain

9月7日のザ・モーニングセット

f:id:tom101010:20190907203912j:plain

9月7日のフルーツフルデザート