万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その231改)―京都府宇治市宇治 さわらびの道―万葉集 巻十三 三二三六

●歌は、「そらみつ大和の国あをによし奈良山越えて山背の管木の原ちはやぶる宇治の渡り岡屋の阿後尼の原を千年に欠くることなく万代にあり通はむと山科の 石田の杜のすめ神に幣取り向けて我れは越え行く逢坂山を」でる。

 

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京都府宇治市宇治 さわらびの道 万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、京都府宇治市宇治 さわらびの道、仏徳山への登坂路分岐点にある。

 

●歌をみていこう。

◆空見津 倭國 青丹吉 常山越而 山代之 管木之原 血速舊 于遅乃渡 瀧屋之 阿後尼之原尾 千歳尓 闕事無 万歳尓 有通将得 山科之 石田之社之 須馬神尓 奴左取向而 吾者越徃 相坂山遠

              (作者未詳 巻十三 三二三六)

 

≪書き下し≫そらみつ 大和(やまと)の国 あをによし 奈良山(ならやま)越えて 山背(やましろ)の 管木(つつき)の原 ちはやぶる 宇治の渡り 滝(たき)つ屋の 阿後尼(あごね)の原を 千年(ちとせ)に 欠くることなく 万代(よろづよ)に あり通(かよ)はむと 山科(やましな)の 石田(いはた)の杜(もり)の すめ神(かみ)に 幣(ぬさ)取り向けて 我(わ)れは越え行く 逢坂山(あふさかやま)を

 

(訳)そらみつ大和の国、その大和の奈良山を越えて、山背の管木(つつき)の原、宇治の渡し場、岡屋(おかのや)の阿後尼(あごね)の原と続く道を、千年ののちまでも一日とて欠けることなく、万年にわたって通い続けたいと、山科の石田の杜の神に幣帛(ぬさ)を手向けては、私は越えて行く。逢坂山を。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)そらみつ:[枕]「大和(やまと)」にかかる。語義・かかり方未詳。(コトバンク デジタル大辞泉

(注)奈良山:奈良県北部、奈良盆地の北方、奈良市京都府木津川(きづがわ)市との境界を東西に走る低山性丘陵。平城山、那羅山などとも書き、『万葉集』など古歌によく詠まれている。古墳も多い。現在、東半の奈良市街地北側の丘陵を佐保丘陵、西半の平城(へいじょう)京跡北側の丘陵を佐紀丘陵とよぶ。古代、京都との間に東の奈良坂越え、西の歌姫越えがあり、いまは国道24号、関西本線近畿日本鉄道京都線などが通じる。奈良ドリームランド(1961年開園、2006年閉園)建設後は宅地開発が進み、都市基盤整備公団(現、都市再生機構)によって平城・相楽ニュータウンが造成された。(コトバンク 小学館 日本大百科全書<ニッポニカ>)

(注)管木之原(つつきのはら):今の京都府綴喜郡

(注)岡谷:宇治市宇治川東岸の地名

(注)石田の杜:「京都市伏見区石田森西町に鎮座する天穂日命神社(あめのほひのみことじんじゃ・旧田中神社・石田神社)の森で,和歌の名所として『万葉集』などにその名がみられます。(中略)現在は“いしだ”と言われるこの地域ですが,古代は“いわた”と呼ばれ,大和と近江を結ぶ街道が通り,道中旅の無事を祈って神前にお供え物を奉納する場所でした。」(レファレンス協同データベース)

(注)あふさかやま【逢坂山】:大津市京都市との境にある山。標高325メートル。古来、交通の要地。下を東海道本線のトンネルが通る。関山。(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

(注)すめ神:その土地を支配する神

 

 「山科之 石田之社」を詠んだ歌をもう一首みてみよう。

 題詞、「宇合御歌三首」<宇合(うまかひのまえつきみ)が歌三首>である。宇合は藤原不比等の第三子である。

 

◆山科乃 石田社尓 布麻越者 蓋吾妹尓 直相鴨

               (藤原宇合 巻九 一七三一)

 

≪書き下し≫山科の石田の社(もり)に幣(ぬさ)置かばけだし我妹(わぎも)に直(ただ)に逢はむかも

 

(訳)山科の石田の社(やしろ)に幣帛(ぬさ)を捧げたなら、ひょっとしていとしいあの人に、夢ではじかに逢(あ)えるだろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

歌碑の三二三六歌には、地名が「倭」、「常山」、「山代」、「管木之原」、「于遅」、「瀧屋(岡屋?)」、「阿後尼之原」、「山科」、「石田」、「相坂山」と十か所も歌われている。それだけに、「千歳尓 闕事無 万歳尓 有通将得」と固く心に秘め、力強く「吾者越徃」様が生き生きと伝わってくるのである。

 

 

 宇治上神社駐車場に車を止め、お参りをしてから、さわらびの道と仏徳山頂上展望台の歌碑へ挑戦である。

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宇治上神社

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さわらびの道の碑

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仏徳山(大吉山)案内足下の標

 途中に、与謝野晶子の歌碑があり、さわらびの道からわかれ仏徳山登坂路に向かう。その折り返しの踊り場的なちょっとした広場に歌碑がある。

 

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与謝野晶子の歌碑

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「レファレンス協同データベース」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「コトバンク 小学館 日本大百科全書<ニッポニカ>」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

 

 

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