●歌は、「うち靡く春立ちぬらし我が門の柳の末にうぐひす鳴きつ」である。
今回から万葉の森船岡山の万葉植物園の歌碑シリーズである。
<歌碑は金属プレートをはめ込んだものであり、反射がきつく、さらに汚れもあり、写真写りが芳しくないものが多いがご容赦ください。>
●歌をみていこう。
◆打靡 春立奴良志 吾門之 柳乃宇礼尓 鸎鳴都
(作者未詳 巻十 一八一九)
≪書き下し≫うち靡(なび)く春立ちぬらし我が門の柳の末(うれ)にうぐひす鳴きつ
(訳)草木の靡く春がいよいよやって来たらしい。我が家の門の柳の枝先に、鶯が鳴きはじめた。(伊藤 博 著「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)うちなびく【打ち靡く】分類枕詞:なびくようすから、「草」「黒髪」にかかる。また、春になると草木の葉がもえ出て盛んに茂り、なびくことから、「春」にかかる。
(注)はるたつ【春立つ】分類連語:春になる。立春となる。[季語]
万葉びとは、浅緑色に萌え出た柳の新芽に春の訪れを感じ取っていたようである。
柳は生命力の旺盛な植物で、枝を湿地にさし立てるだけで根をおろすと言われている。そのため呪力をもつ神木と考えられ、柳も髪飾りにしていたようである。
一般的に柳は、枝葉の垂れるものに「柳」(シダレヤナギ)、垂れずに立つものに「楊」(カハヤナギ・ネコヤナギ)の文字があてられるが、万葉集では両者の違いが明確ではないそうである。また、柳は中国からの渡来種なので梅花とともに詠まれることが多く、また一八一九歌のように春を告げる鴬とともに詠われている。
梅花とともに詠われている歌としては次の歌がある。
◆梅花 取持見者 吾屋前之 柳乃眉師 所念可聞
(作者未詳 巻十 一八五三)
≪書き下し≫梅の花取り持ち見れば我がやどの柳の眉(まよ)し思ほゆるかも
(訳)梅の花、これを手に折り取って見つめていると、我が家の柳の、眉のような若葉が思われてならない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)やなぎのまゆ【柳の眉】分類連語:①柳の若葉を眉にたとえていう語。「やなぎのまよ」とも。②美人の細く美しい眉。◇「柳眉(りうび)」の訓読。
春の訪れを詠った歌をもう一首みておこう。
◆山際之 雪者不消有乎 水▼合 川之副者 目生来鴨
(作者未詳 巻十 一八四九)
※水▼合=「みなぎらふ」
≪書き下し≫山の際(ま)の雪は消(け)ずあるをみなぎらふ川の沿(そ)ひには萌えにけるかも
(訳)山あいの雪はまだ消え残っているのに、水が溢(あふ)れて流れる川のそばでは、川の楊が青々と芽を吹き出した。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)みなぎらふ 【漲らふ】分類連語:水が満ちあふれている。みなぎりかえる。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)
★「はじめての万葉集(春の訪れを告げる柳)」 (奈良県HP)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
●本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート
サンドイッチは、ヴェールリーフと焼き豚である。デザートはミカンの房で周りを囲み、中心部へバナナと赤と緑のブドウのカットを並べ、中心に切合わせを配した。