万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その262改)―滋賀県東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(3)―万葉集 巻七 一二九三

 

●歌は、「霰降り遠江の吾跡川楊 刈れどもまたも生ふといふ吾跡川楊」である。

 

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万葉の森船岡山万葉歌碑(3)(柿本人麻呂歌集)

●歌碑は、滋賀県東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(3)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆丸雪降 遠江 吾跡川楊 雖苅 亦生云 余跡川楊

              (柿本人麻呂歌集 巻七 一二九三)

 

≪書き下し≫霰(あられ)降(ふ)り遠江(とほつあふみ)の吾跡川楊(あとかわやなぎ) 刈れどもまたも生(お)ふといふ吾跡川楊

 

(訳)遠江の吾跡川の楊(やなぎ)よ。刈っても刈っても、また生い茂るという吾跡川の楊よ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

 ヤナギには、枝葉が揚がる、我が国古来の「楊」と、枝葉が垂れる、中国から渡来した「柳」がある。前者はカワヤナギを、後者はシダレヤナギを表している。

カワヤナギは別名「ネコヤナギ」と呼ばれる。

 

 ネコヤナギは、挿し木をしてもすぐ根付くほどの旺盛な生命力をもっているので、春を感じさせる植物として親しまれている。

 

 万葉集には、「カワヤナギ」を詠んだ歌が三首収録されている。

他の二首をみてみよう。

 

◆山際尓 雪者零管 然為我二 此河楊波 毛延尓家留可聞

              (作者未詳 巻十 一八四八)

 

≪書き下し≫山の際(ま)に雪は降りつつしかすがにこの川楊(かはやぎ)は萌えにけるかも

 

(訳)山あいに雪は降り続いている。それなのに、この川の楊(やなぎ)は、もう青々と芽を吹き出した。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)   

(注)しかすがに 【然すがに】副詞:そうはいうものの。そうではあるが、しかしながら。

◆河蝦鳴 六多乃河之 川楊乃 根毛居侶雖見 不飽河鴨

               (作者未詳 巻九 一七二三)

 

≪書き下し≫かはづ鳴く六田(むつた)の川の川楊(かはやなぎ)のねもころ見れど飽(あ)かぬ川かも

 

(訳)河鹿の鳴く六田川の川楊の根ではないが、ねんごろにいくら眺めても、見飽きることのない川です。このかわは。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)六田:吉野町六田、大淀町北六田あたり

(注)ねもころ【懇】副詞:心をこめて。熱心に。「ねもごろ」とも。:

 

 「かはづ鳴く六田(むつた)の川の川楊(かはやなぎ)の」の上三句が序で、カワヤナギの生命力の強さを宿すその根が「ねもころ」を起こしている。

 

 万葉集には、ヤナギを詠んだ歌が三九首あるが、中国から伝来した柳を詠んだ歌がほとんどで、日本古来のカワヤナギは三首である。中国から薬木として渡来し、やがて愛でられるようになった梅が一一八首に対し桜は四〇首である。当時の中国文化への傾倒はこのようなことからもうかがえるのである。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

 

 

※20210713朝食関連記事削除、一部改訂