万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その266、267、268)―東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(7)(8)(9)―

 

●歌碑266ならびに267については、これまで幾度か紹介している。直近では、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その258)」万葉の森船岡山 蒲生野狩猟レリーフ横、「同(その259)」同山頂付近の歌碑紹介でふれているので、うたわれている植物、「むらさき」と「あかね」に焦点をあててみる。

 

 

―その266―

 

●歌は、大海人皇子の「紫草のにほえる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも」である。

●歌碑は、東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(7)である。

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万葉の森船岡山万葉歌碑(7)(大海人皇子

 

 万葉集のなかでは、「むらさき」は十七首詠われている。多年草の「むらさき」は、六~七月に可憐な白い花を咲かせる。その根は、紫根といい、美しく高貴な紫色の染料となる。秋に収穫される。

(注)しこん【紫根】:① ムラサキの根。古くはその煮汁を染料とした。漢方では解熱・解毒薬に用いる。② 「紫根色」に同じ。(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

 

 

―その267―

 

●歌は、額田王の「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」である。

●歌碑は、同上(8)である。

 

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万葉の森船岡山万葉歌碑(8)(額田王

(注)あかねさす【茜さす】分類枕詞:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)あかね【茜】①〔赤根の意〕 アカネ科の多年草。本州以西の山野に自生する。茎はつる性で,逆向きのとげがある。葉は卵形で長い柄をもち,四個輪生する。秋,淡黄または白色の小花を葉腋につける。根は黄赤色で,アリザリンなどの色素を含み,染料とする。また,止血・解熱薬などとする。②① の根から採った染料。③「茜色」の略。④アカトンボの異名。

 

 

―その268―

 

●歌は、「春さればまづさきくさの幸くあらば後にも逢はむな恋ひそ我妹」である。

 

●歌碑は、東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(9)である。

 

●歌をみていこう。

 

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万葉の森船岡山万葉歌碑(7)(柿本人麻呂歌集)

◆春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹

               (柿本人麻呂歌集 巻十 一八九五)

 

≪書き下し≫春さればまづさきくさの幸(さき)くあらば後(のち)にも逢はむな恋ひそ我妹(わぎも)

 

(訳)春になると、真っ先に咲くさいぐさの名のように、命さえ幸いであるならば、せめて後にでも逢うことができよう。そんなに恋い焦がれないでおくれ、おまえさん。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)さきくさ【三枝】:植物の名。枝・茎などが三つに分かれているというが、未詳。(weblio辞典 学研全訳古語辞典)

 

 万葉集で「さきくさ」と詠われている歌は二首ある。もう一首は、山上憶良の歌である。

 

 歌をみてみよう。

 

 題詞は、「戀男子名古日歌三首」<男子(をのこ)名は古日(ふるひ)に恋ふる歌三首>である。

 

◆世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 産礼出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立礼杼毛 居礼杼毛 登母尓戯礼 夕星乃 由布弊尓奈礼波 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中尓乎祢牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等ゝ奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃 於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃尓 尓布敷可尓 覆来礼婆 世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖尓登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之尓 漸ゝ 可多知都久保里 朝ゝ  伊布許等夜美 霊剋 伊乃知多延奴礼 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武祢宇知奈氣吉 手尓持流  案我古登波之都 世間之道

山上憶良 巻五 904)

 

 

≪書き下し≫世の人の 貴(たふと)び願ふ 七種(ななくさ)の 宝も我れは 何せむに 我が中の 生(うま)れ出(い)でたる 白玉(しらたま)の 我(あ)が子古日(ふるひ)は 明星(あかぼし)の 明(あ)くる朝(あした)は 敷栲(しきたえへ)の 床(とこ)の辺(へ)去(さ)らず 立てれども 居(を)れども ともに戯(たはぶ)れ 夕星(ゆふつづ)の 夕(ゆふへ)になれば いざ寝(ね)よと 手をたづさはり 父母(ちちはは)も うへはなさかりり さきくさの 中にを寝(ね)むと 愛(うつく)しく しが語らへば いつしかも 人と成(な)り出(い)でて 悪(あ)しけくも 良(よ)けくも見むと 大船(おほぶね)の 思ひ頼(たの)むに 思はぬに 横(よこ)しま風のに にふふかに 覆(おほ)ひ来(きた)れば 為(な)むすべの たどきを知らに 白栲(しろたへ)の たすきを懸け まそ鏡 手に取り持ちて 天(あま)つ神 仰ぎ祈(こ)ひ禱(の)み 国つ神 伏して額(ぬか)つき かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり 我(あ)れ祈(こ)ひ 禱(の)めど しましくも 良(よ)けくはなしに やくやくに かたちくつほり 朝(あさ)な朝(さ)な 言ふことやみ たまきはる 命(いのち)絶えぬれ 立ち躍(をど)り 足(あし)すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持てる 我(あ)が子飛(と)ばしつ 世の中の道

 

(訳)世間の人が貴び願う七種の宝、そんなものも私にとっては何になろうぞ。われわれ夫婦の間の、願いに願ってようやく生まれてきてくれた白玉のような幼な子古日は、明星の輝く朝になると、寝床のあたりを離れず、立つにつけ座るにつけ、まつわりついてはしゃぎ回り、夕星の出る夕方になると、「さあ寝よう」と手に縋(すが)りつき、「父さんも母さんもそばを離れないでね。ぼく、まん中に寝る」と、かわいらしくもそいつが言うので、早く一人前になってほしい、良きにつけ悪しきにつけそのさまを見たいと楽しみにしていたのに、思いがけず、横ざまのつれない突風がいきなり吹きかかって来たものだから、どうしてよいのか手だてもかわらず、白い襷(たすき)を懸け、鏡を手に持ちかざして、仰いで天の神に祈り、伏して地の神を拝み、治して下さるのも、せめてこのままで生かして下さるのも、神様の思(おぼ)し召(め)しのままですと、ただうろうろと取り乱してながら、ひたすらお祈りしたけれども、ほんの片時も持ち直すことはなく、だんだんと顔かたちがぐったりし、日ごとに物も言わなくなり、とうとう息が絶えてしまったので、思わず跳(と)びあがり、地団駄(じだなだ)踏んで泣き叫び、伏して仰ぎつ、胸を叩いて嘆きくどいた、だがそのかいもなく、この手に握りしめていた我が幼な子を飛ばしてしまった。ああ、これが世の中を生きていくということなのか。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)古日:憶良の知人の子供。

(注)ねがふ 【願ふ】望む。:出典万葉集 九〇四 「世の人の貴びねがふ七種(ななくさ)の宝も」[訳] 世間の人が貴び望む七種の宝も。※動詞「ね(祈)ぐ」の未然形に上代の反復継続の助動詞「ふ」が付いて一語化したもの。

(注)しらたまの【白玉の】( 連語 )美しいもの、白いものの隠喩的表現。白玉のような。真珠のような。(weblio辞書 三省堂大辞林

(注)あかほしの【明星の】分類枕詞:「明星」が明け方に出ることから「明く」に、また、それと同音の「飽く」にかかる。(weblio辞典 学研全訳古語辞典)

(注)ゆふつづの【長庚の・夕星の】分類枕詞:「ゆふつづ」が、夕方、西の空に見えることから「夕べ」にかかる。また、「ゆふつづ」が時期によって、明けの明星として東に見え、宵の明星として西の空に見えるところから「か行きかく行き」にかかる。(同 学研)

(注)さきくさの【三枝の】分類枕詞:「三枝(さきくさ)」は枝などが三つに分かれるところから「三(み)つ」、また「中(なか)」にかかる。「さきくさの三つ葉」(同 学研)

(注)横しま風:子についた病魔

(注)にふふかに:俄かにの意か

(注)しろたへの【白栲の・白妙の】分類枕詞:①白栲(しろたえ)で衣服を作ることから、衣服に関する語「衣(ころも)」「袖(そで)」「袂(たもと)」「帯」「紐(ひも)」「たすき」などにかかる。②白栲は白いことから、「月」「雲」「雪」「波」など、白いものを表す語にかかる。

(注)あざる【戯る・狂る】取り乱して動き回る。

(注)つくほり:しぼんで勢いがなくなる意か。

 

 「さきくさ(三枝)」が見られるのは、上述の一八九五歌と九〇四歌であるが、どちらも植物である「さきくさ」そのものを詠んだものではなく、前者は、掛けことば、後者は枕詞として用いられている。「さきくさ」がどの植物を意味するのかいまだに定説はないという。

 ミツマタ、ミツバゼリ、ヤマユリヤマゴボウジンチョウゲイカリソウツリガネニンジンなどの説があるという。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂大辞林

 

 

本日のザ・モーニングセット&フルーツフルデザート

 サンドイッチは、オープンサンドである。サンチュ、焼き豚が中心である。デザートは、ミカンの横切り半分を花が咲いたように飾り、バナナのカットで取り囲んだ。

周囲は、赤と緑のブドウの切合わせなどで加飾した。

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11月21日のザ・モーニングセット

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11月21日のフルーツフルデザート