万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その282)―東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(23)―巻十六 三八三七

●歌は、「ひさかたの雨に降らぬか蓮葉に溜まれる水の玉に似たる見む」である。

 

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万葉の森船岡山万葉歌碑(23)(作者未詳)

●歌碑は、東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(23)である。

 

●歌をみていこう。

 

◆久堅之 雨毛落奴可 蓮荷尓 渟在水乃 玉似有将見

                  (作者未詳 巻十六 三八三七)

 

≪書き下し≫ひさかたの雨も降らぬか蓮葉(はちすは)に溜(た)まれる水の玉に似たる見む

 

(訳)空から雨でも降って来ないものかな。蓮の葉に留まった水の、玉のようにきらきら光るのが見たい。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

 

左注は、「右歌一首傳云 有右兵衛<姓名未詳> 多能歌作之藝也 于時府家備設酒食饗宴府官人等 於是饌食盛之皆用荷葉 諸人酒酣歌舞駱驛 乃誘兵衛云関其荷葉而作歌者 登時應聲作斯歌也<右の歌一首は、伝へて云はく、「右兵衛(うひやうゑ)のものあり。<姓名は未詳> 歌作の芸(わざ)に多能なり。時に、府家(ふか)に酒食(しゅし)を備へ設けて、府(つかさ)の官人らに饗宴(あへ)す。ここに、饌食(せんし)は盛(も)るに、皆蓮葉(はちすば)をもちてす。諸人(もろひと)酒(さけ)酣(たけなは)にして、歌舞(かぶ)駱驛(らくえき)す。すなはち、兵衛を誘(いざな)ひて云はく、『その蓮葉に関(か)けて歌を作れ』といへれば、たちまちに声に応へて、この歌を作る」といふ。

(注)うひゃうゑ【右兵衛】名詞:「右兵衛府」の略。また、「右兵衛府」の武官。[反対語] 左兵衛。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)うひゃうゑふ【右兵衛府】名詞:「六衛府(ろくゑふ)」の一つ。「左兵衛府(さひやうゑふ)」とともに、内裏(だいり)外側の諸門の警備、行幸のときの警護、左右京内の巡検などを担当した役所。右の兵衛府。[反対語] 左兵衛府。(同上)

(注)らくえき【絡繹・駱駅】人馬などが次々に続いて絶えないさま。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

 ハスは花が咲き終わると花の根元の花托の部分に種ができる。この花托の部分が蜂の巣に似ていることから古くは、「はちす」と呼ばれていたが、現在では略されて「ハス」になったという。

 

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ハスの花托のドライフラワー

 「蓮葉(はちすは)に溜(た)まれる水の玉に似たる見む」とあるように、ハスの葉の上では、美しい水玉となって、葉が濡れることがない。これは、蓮の葉を拡大して見てみると、その表面が小さなデコボコ構造になっており、その小さなデコボコが、水をはじき、葉の表面についた水はコロコロと丸まった水滴になるからである。この構造にヒントを得て、ヨーグルトの蓋材の最内面に微細な凹凸構造(空気層)つけた素材が開発され、ヨーグルトが付着してもすぐに転げ落ちるように脱落するのである。以前のようにヨーグルトの蓋の裏にヨーグルトが着くことがなくなったのである。自然からの学びである。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「森永乳業 ビヒタス HP」