万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その362)―東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(103)―

●歌は、「味酒を三輪の祝が斎ふ杉手触れし罪か君に逢ひかたき」である。

 

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万葉の森船岡山万葉歌碑(103)(丹波大女娘子)

●歌碑は、東近江市糠塚町 万葉の森船岡山(103)である。

この写真が、船岡山で最後に撮ったものである。

 

●歌をみていこう。

 

◆味酒呼 三輪之祝我 忌杉 手觸之罪歟 君二遇難寸

               (丹波大女娘子 巻四 七一二)

 

≪書き下し≫味酒(うまさけ)を三輪し祝(はふり)が斎(いは)ふ杉手(て)触(ふ)れし罪か君に逢ひかたき

 

(訳)三輪の神主(かんぬし)があがめ祭る杉、その神木の杉に手を触れた祟(たた)りでしょうか。あなたになかなか逢えないのは

(注)うまさけ【味酒・旨酒】分類枕詞:味のよい上等な酒を「神酒(みわ)(=神にささげる酒)」にすることから、「神酒(みわ)」と同音の地名「三輪(みわ)」に、また、「三輪山」のある地名「三室(みむろ)」「三諸(みもろ)」などにかかる。 ※ 参考枕詞としては「うまさけの」「うまさけを」の形でも用いる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)はふり【祝】名詞:神に奉仕することを職とする者。特に、神主(かんぬし)や禰宜(ねぎ)と区別する場合は、それらの下位にあって神事の実務に当たる職をさすことが多い。祝(はふ)り子。「はうり」「はぶり」とも。(学研)

 

スギは、古来建築の材や酒樽をつくるのに利用されてきた。酒の神様として有名な大神神社(おおみわじんじゃ)から、全国の酒造元に「杉玉」が贈られる。新酒ができた合図であり、杉玉の枯れ具合により、お酒の飲み頃を知らせる役目もある。

大神神社の杉と言えば、「しるしの杉」、「衣掛杉」、「巳の神杉」、「おだまき杉」などが境内で見られる。「巳の神杉」は巳に関わるだけに、拝台には、お酒と玉子をお供えする参拝者が多い。

 

題詞は、「丹波大女娘子歌三首」<丹波大女娘子(たにはのおほめをとめ)が歌三首>である。他の二首もみてみよう。

 

 

◆鴨鳥之 遊此池尓 木葉落而 浮心 吾不念國

               (丹波大女娘子 巻四 七一一)

 

≪書き下し≫鴨鳥(かもとり)し遊ぶこの池に木(こ)の葉落ちて浮きたる心我(あ)が思(おも)はなくに

 

(訳)鴨の鳥が浮かんで遊んでいるこの池に木の葉が落ちて浮いている。そんな浮わついた心で私があなたを思っているわけではないのに。(同上)

 

 

◆垣穂成 人辞聞而 吾背子之 情多由多比 不合頃者

                (丹波大女娘子 巻四 七一三)

 

≪書き下し≫垣(かき) ほなす人言(ひとごと)聞きて我(わ)が背子が心たゆたひ逢はぬこのころ

(訳)垣根のように二人の仲を隔てる世間の中傷を耳にして、あなたの心がぐらついたのか、この頃逢ってくださらない。

(注)かきほ【垣穂】なす (「人」「人言」などを修飾する枕詞的な慣用句)① 物をへだてる垣のように、互いの仲をへだてる。また、悪くいう。② まわりをとり囲む垣のように多い。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

(注)たゆたふ【揺蕩ふ・猶予ふ】自動詞:①定まる所なく揺れ動く。②ためらう。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典

★「三輪明神 大神神社 HP」