―その375―
●歌は、「うかねらふ跡見山雪のいちしろく恋ひば妹が名人知らむかも」である。
●歌をみていこう。この歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その103)」で紹介している。
◆窺良布 跡見山雪之 灼然 戀者妹名 人将知可聞
(作者未詳 巻十 二三四六)
≪書き下し≫うかねらふ跡見山(とみやま)雪のいちしろく恋ひば妹(いも)が名(な)人知らむかも
(訳)ひそかに獲物をねらうという、あの跡見(とみ)の山の雪がはっきりと目につくように、こんなにおおっぴらに恋い焦がれたら、あの子の名を、他の男たちが知ってしまうのではなかろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」角川ソフィア文庫より)
(注)うかねらふ【窺狙ふ】:<他動詞>(ようすを)うかがってねらう。
<枕詞>狩猟のとき、鳥獣の足跡をたどってねらうことやねらう人を「跡見(とみ)」と
いうことから、同音の地名「跡見山」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)いち【一、壱】<副詞>最も。(学研)
鳥見山公園は、鳥見山(735m)の頂上近くにある高原の自然公園である。車で登って行くと、鉄道よろしくスイッチバック方式の所があった。150mほど先でUターンして戻って来て上るのである。
―その376―
●歌は、「君が家に我が住坂の家道をも我れは忘れじ命死なずは」である。
●この歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(366)」で紹介している。前回宇陀万葉歌碑めぐりで訪れた墨坂神社と同じ歌である。
歌についてのみ再掲載する。
◆君家尓 吾住坂乃 家道乎毛 吾者不忘 命不死者
(柿本人麻呂妻 巻四 五〇四)
≪書き下し≫君が家に我(わ)が住坂(すみさか)の家道(いへぢ)をも我(わ)れは忘れじ命死なずは
(訳)あなたを忘れないのはもちろんのこと、あなたのお家に住みたいとまで思う、そのお家につながる住坂(すみさか)の道をさえ、けっして忘れることはありません。私の命がある限りずっと。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)「君が家に我(わ)が」が「住坂」を起こす序。
―その377―
●歌は、「宇陀の野の秋萩しのぎ鳴く鹿も妻に恋ふらく我れには増さじ」である。
●歌をみていこう。
◆宇陁乃野之 秋芽子師弩藝 鳴鹿毛 妻尓戀樂苦 我者不益
(丹比真人 巻八 一六〇九)
≪書き下し≫宇陀(うだ)の野(の)の秋萩しのぎ鳴く鹿も妻に恋ふらく我れには増さじ
(訳)宇陀の野の秋萩を押し分けて鳴く鹿も、妻に恋い焦がれることでは、私にはとうていかなうまい。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
題詞は、「丹比真人歌一首 名闕」<丹比真人(たぢのまひと)が歌一首 名は闕(かけ)たり>である。
わかくさ公園は、宇陀市榛原あかね台にある、集会所と広場がセットになった新興住宅街の都市型小規模公園である。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「市内の万葉歌碑ガイドマップ」 (宇陀市商工観光課)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」