万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その419,420,421)―滋賀県湖南市 JR石部駅前公園ならびに蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干―万葉集 巻十一 二四四四ならびに巻一 二十、二十一) 

―その419―

●歌は、「白真弓石辺の山の常盤なる命なれやも戀ひつつ居らむ」である。

 

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JR石部駅前公園万葉歌碑

●歌碑は、滋賀県湖南市 JR石部駅前公園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆白檀 石邊山 常石有 命哉 戀乍居

                                   (作者未詳 巻十一 二四四四)

 

≪書き下し≫白真弓(しらまゆみ)石辺(いそべ)の山の常盤(ときは)なる命(いのち)なれやも戀ひつつ居(を)らむ

 

(訳)石辺の山の常盤(ときわ)、その常盤のような不変の命とでもいうのか、そうでもないのに、私は逢うこともできずにいたずらに恋いつづけている。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)しらまゆみ【白真弓・白檀弓】名詞:まゆみの木で作った、白木のままの弓。

しらまゆみ【白真弓・白檀弓】分類枕詞:弓を張る・引く・射ることから、同音の「はる」「ひく」「いる」などにかかる。 ここでは、「石辺」にかかる枕詞。

 

石部駅前公園については、「JR石部駅前にある公園。東海道五十三次の51番目の宿場町としてにぎわった石部宿を記念してつくられたもので、公園内は旧関所跡が再現されています。」とある。(滋賀県庁HP「こころに残る滋賀の風景」)

 

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JR石部駅前公園

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JR石部駅



 

―その420、その421―

●歌は、額田王の「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」と

 大海人皇子の「紫草のにほえる妹を憎くあらば人妻故に我れ恋ひめやも」である。

 

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雪野山大橋欄干万葉歌碑(額田王

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雪野山大橋欄干万葉歌碑(大海人皇子

●歌碑は、蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干にある。                                  

 

これまで幾度となく紹介しているが、歌はみておこう。

 

◆茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流

             (額田王 巻一 二十)

 

≪書き下し≫あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る

 

(訳)茜(あかね)色のさし出る紫、その紫草の生い茂る野、かかわりなき人の立ち入りを禁じて標(しめ)を張った野を行き来して、あれそんなことをなさって、野の番人が見るではございませんか。あなたはそんなに袖(そで)をお振りになったりして。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)あかねさす【茜さす】分類枕詞:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。

(注)むらさき 【紫】①草の名。むらさき草。根から赤紫色の染料をとる。②染め色の一つ。①の根で染めた色。赤紫色。古代紫。古くから尊ばれた色で、律令制では三位以上の衣服の色とされた。

(注)むらさきの 【紫野】:「むらさき」を栽培している園。

(注)しめ【標】:神や人の領有区域であることを示して、立ち入りを禁ずる標識。また、道しるべの標識。縄を張ったり、木を立てたり、草を結んだりする。

 

◆紫草能 尓保敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓 吾戀目八方

               (大海人皇子 巻一 二十一)

 

≪書き下し≫紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎(にく)くあらば人妻(ひとづま)故(ゆゑ)に我(あ)れ恋(こ)ひめやも

 

(訳)紫草のように色美しくあでやかな妹(いも)よ、そなたが気に入らないのであったら、人妻と知りながら、私としてからがどうしてそなたに恋いこがれたりしようか。(同上)

 

 交差点「雪の山口」を通過し「雪野山ふるさと街道」を日野川にかかる雪野山大橋方面に進む。大橋を渡ってすぐ右折して「妹背の里」に向かうのである。その大橋の手前、反対車線側に大海人皇子の立像が建っており、進行方向車線欄干に歌碑がある。大橋の対角線上、左手に額田王の立像があり、同じく反対側欄干に歌碑がある。

 

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雪野山大橋欄干額田王立像

 

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雪野山大橋欄干大海人皇子立像

 令和2年2月10日の歌碑めぐりはさんざんであった。

 当初の計画は、石部駅前公園➡牧町水茎岡山城跡➡雪野山大橋➡妹背の里、であった。しかし、牧町水茎岡山城跡付近を散策するも見つからない。湖周道路沿いにそれらしきところを探すが時間だけが経っていく。そこで、滋賀県観光課に電話して教えてもらうことに。ほぼ場所的には、近くに来ているのだが、道路沿いのササなどの生い茂った中なので、地元の方たちが刈っていなければわかりづらいかもしれないとのことであった。ガードレールの外側は、斜面である。ガードレールをつかみながら少しづつ峠を上るかたちで見て行く。野ばらの棘の攻撃も。結局藪の中。あきらめるざるを得なかった。

 雪野山大橋の次の「妹背の里」に行くと、何と休園であった。連休の谷間なので確認していなかったのが凡ミスであった。宿題を後日の課題とした一日であった。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「こころに残る滋賀の風景」(滋賀県庁HP)