万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その434)―葛城市柿本 近鉄新庄駅東側ロータリー北万葉歌碑― 万葉集 巻十 二二四三 

●歌は、「秋山に霜降り覆ひ木の葉散り年は行くとも我れ忘れやも」である。

 

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葛城市柿本 近鉄新庄駅東側ロータリー北万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

●歌碑は、葛城市柿本 近鉄新庄駅東側ロータリー北(駅側)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆秋山 霜零覆 木葉落 歳雖行 我忘八

              (柿本人麻呂歌集 巻十 二二四三)

 

≪書き下し≫秋山に霜降り覆(おほ)ひ木(こ)の葉散り年は行くとも我(わ)れ忘れやも

 

(訳)秋山に霜が降り覆って木の葉が散り、この年は過ぎて行こうとも、私はあの人のことを忘れたりするものではない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)めや 分類連語:…だろうか、いや…ではない。 ※なりたち推量の助動詞「む」の已然形+反語の係助詞「や」(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 巻十の部立て「秋相聞」には、二二三九から二二四三歌が収録されている。伊藤 博氏は、その著「万葉集 二」(角川ソフィア文庫)のこの歌の脚注で、前四首の結びで男女の誓いを述べたものであろうと書かれている。

 

二二三九歌からみてみよう。

 

◆金山 舌日下 鳴鳥 音谷聞 何嘆(二二三九歌)

 

≪書き下し≫秋山のしたひが下(した)に鳴く鳥の声だに聞かば何か嘆かむ

 

(訳)秋山のもみじの蔭(かげ)で鳴く鳥の声、その鳥の声ではないが、せめてあの方の声だけでも聞くことができたら、何を嘆くことがありましょうか。(同上)

(注)上三句は序、「声」を起こす。

 

◆誰彼 我莫問 九月 露沾乍 君待吾(二二四〇歌)

 

≪書き下し≫誰(た)そかれと我(わ)れをな問ひそ九月(ながつき)の露に濡れつつ君待つ我(わ)れを

 

(訳)誰なのかあの人は、などと私に尋ねたりしないでください。九月の冷たい露に濡れながら、あの方を待っている私ですのに。(同上)

 

◆秋夜 霧發渡 凡ゝ 夢見 妹形矣(二二四一歌)

 

≪書き下し≫秋の夜(よ)の霧立ちわたりおほほしく夢(いめ)にぞ見つる妹(いも)が姿を

 

(訳)秋の夜の霧が立ちこめてぼんやり煙っているように、おぼろげに夢に見たよ。いとしいあの子の姿を。(同上)

 

◆秋野 尾花末 生靡 心妹 依鴨(二二四二歌)

 

≪書き下し≫秋の野の尾花(をばな)が末(うれ)の生(お)ひ靡(なび)き心は妹に寄りにけるかも

 

(訳)秋の野の尾花の穂先が延びて風に靡くように、私の心はもうすっかりあの子に靡き寄ってしまった。(同上)

 

 二二三九、二二四〇歌は、女の歌で、二二四一、二二四二歌は、男の歌、そして二二四三歌は結びで男女の誓いの歌という構成になっている。

 

 

 近鉄新庄駅は、奈良県葛城市の尺土駅から奈良県御所市の近鉄御所駅までを結ぶ近畿日本鉄道近鉄)の駅である。尺土、近鉄新庄、忍海(おしみ)、近鉄御所(ごせ)の4駅、路線距離は5.2kmの盲腸線である。

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」