万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その442、443)―五條市大野新田 阿太峯神社、五條市西阿田 行円律寺―万葉集 巻十 二〇九六

―その442―

●歌は、「真葛原靡く秋風吹くごとに阿太の大野の萩の花散る」である。

 

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阿太峯神社万葉歌碑(作者未詳)


●歌碑は、五條市大野新田 阿太峯神社にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆真葛原 名引秋風 毎吹 阿太乃大野之 芽子花散

               (作者未詳 巻十 二〇九六)

 

≪書き下し≫真葛原(まくずはら)靡(なび)く秋風吹くごとに阿太(あだ)の大野(おほの)の萩の花散る

 

(訳)葛が一面に生い茂る原、その原を押し靡かせる秋の風が吹くたびに、阿太の大野の萩の花がはらはらと散る。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)阿太の大野:奈良県五條市阿太付近の野。大野は原野の意。

 

 中西 進氏は、その著「万葉の心」(毎日新聞社)のなかで、この歌について、「『万葉集』でもっとも美しい歌の一つだが、萩の情趣はこうした万葉びとと本来の野べにあった。この秋風ということばも多く詠われている。春風ということばも少しはあるが、『風』という分類があるのは秋だけである、日本文学の秋風の情趣は早くもここに出発しようとしている。」と述べておられる。

 「葛の裏風」という言葉があるように、葛の葉は微風でも裏返り白い裏葉を見せるという。広大な葛の生い茂る原に秋風が吹き、あたかも白い波が立っているいるように葛の葉が揺れ、萩の花が散る光景は壮大なキャンパスの絵模様を頭の中に描き出させる。

 

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阿太峯神社鳥居と境内

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万葉集説明案内板

 阿吽寺から阿太峯神社へは約10分である。神社参道左手に万葉歌碑がある。写真をとっていると、近くで農作業をしていた方が手をとめ近づいてこられた。

 「歌碑を見に来ていただきありがとうございます。」と感謝された。驚きである。なんでも歌碑は近隣の皆さんが協力して建てたそうである。石も手分けして探しに行き選ばれたそうである。歌碑の前が刈り取ってあるが、萩が植えられており季節には花が色を添えるそうである。そのあと、この辺りは、開墾地で、昔はグライダーの飛行訓練場があったとのことである。(後で調べると阿太峯飛行場に関する記事があった)たしかに新田という地名もうなずける、また言われてみると平坦で広大な地形である。ご親切に、帰る道筋も教えていただく。歌碑に対する思い入れがあるのがひしひしと伝わってくる。のっけからの感謝の言葉が理解できた。歌碑を通して地元の方といろいろと語りあえたのは有意義であった。

 この歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その331)」で紹介している。歌碑は、東近江市糠塚町の万葉の森船岡山にあった。植物を中心に歌碑が建てられていたのである。この歌には、「阿太の大野」という地名があり、現地で歌を詠むと植物も地についた葛であり萩としてよみがえり、或る意味臨場感が湧き上がるのである。

 

 

―その443―

●歌は「その442」と同じである。

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行圓律寺万葉歌碑(作者未詳)


 

●歌碑は、五條市西阿田 行圓律寺にある。

 

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行圓律寺の碑

 五條市観光協会が提供する五條市の観光案内サイト「GOJO MAP」によると、「住所は、五條市條市西阿田町844(行円寺裏山)、連絡先:五條市役所 (0747224001)、内部公開:公開、料金:無料、駐車場:無し」とある。

「行円寺裏山」がキーワードである。グーグルマップで見当をつけ、現地に赴く。

 入口から入って行くと、お寺の様相は余りしておらず民家のような感じもするが、お堂らしきものもある。「裏山」を信じて建物の横を進むといきなり狭い山道に様変わりする。そこを登って行く。左手にお墓のようなものが見える。さらに進むが見当たらない。引き返す。しかしあきらめきれない。再挑戦する。思い切って、お墓らしきものがある所を目指して脇道に分け入る。しばらく行くと、遠くにお大師様の立像が見えて来る。その前は開けている。導かれるように近づいていく。左手に歌碑らしきものがポツンと建てられているのが見えた。間違いなく歌碑である。案内札も何もない。見つけることができたのは、お大師様のお導きと感謝する。

 

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修行大師立像

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の心」 中西 進 著 (毎日新聞社

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局