万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その459)―太子町 太子和みの広場横小公園―万葉集 巻十七 三九〇五

●歌は、「遊ぶ内の楽しき庭に梅柳折りかざして思ひなみかも」である。

 

f:id:tom101010:20200413162145j:plain

太子町 太子和みの広場横小公園万葉歌碑(大伴書持)


●歌碑は、太子町 太子和みの広場横小公園にある。

なお、歌碑には、大伴家持と書かれているが、家持の弟の「大伴書持(おほとものふみもち)」である。

 

●歌をみていこう。

 

◆遊内乃 多努之吉庭尓 梅柳 乎理加謝思底婆 意毛比美可毛

               (大伴書持 巻十七 三九〇五)

 

≪書き下し≫遊ぶ内(うち)の楽しき庭に梅柳折りかざして思ひなみかも

 

(訳)心許して遊ぶ一座のその楽しい庭で、梅や柳を折りかざして遊んだなら何の心残りもないので、「梅や柳を折りかざして遊んだあとは散ってしまってもかまわぬ」などとおっしゃるのだろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)あそぶ【遊ぶ】自動詞:①(詩歌を作ったり、音楽を演奏したり、歌舞をしたりして)楽しむ。②遊戯する。③狩りをする。④自由に動き回る。気ままに歩きまわる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典) ※ここでは①の意

(注)遊ぶ内➡一座の内。梅花の宴序文の「一室の裏」を意識している。

 

三九〇一から三九〇六歌の歌群の、題詞は、「追和大宰之時梅花新歌六首」<大宰(だざい)の時の梅花に追(お)ひて和(こた)ふる新(あらた)しき歌六首>である。

題詞にある「大宰之時梅花(歌)」とは、序から「令和」が名づけられた「梅花歌卅二首」(八一五~八四六歌)である。

 

他の五首もみてみよう。

 

◆民布由都藝 芳流波吉多礼登 烏梅能芳奈 君尓之安良祢婆 遠久人毛奈之

               (大伴書持 巻十七 三九〇一)

 

≪書き下し≫み冬継(つ)ぎ春は来(きた)れど梅の花君にしあらねば招(を)く人もなし

 

(訳)寒い冬に引き続いて、お言葉どおりようやく春はやってきましたが、待ちに待った梅の花を、今時は、風流なあなた様以外には、招き寄せる人もおりません。(同上)

(注)ここの「君」は梅花宴の冒頭歌「八一五」の大弐紀卿をさす。

(注)をく【招く】他動詞:招き寄せる。呼び寄せる。(学研)

(注)招く:梅の花を客に迎えるの意、開花を誘う意味もある。

 

◆烏梅乃花 美夜万等之美尓 安里登母也 如此乃未君波 見礼登安可尓勢牟

               (大伴書持 巻十七 三九〇二)

 

≪書き下し≫梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽(あ)かにせむ

 

(訳)梅の花よ、たとえ、生い茂る山のように一杯に咲いたとしても、あなたは、あはりこんなに見ても見ても見飽きることはないでしょう。(同上)

(注)しみに【茂みに・繁みに】副詞:「しみみに」に同じ。>しみみに【繁みみに・茂みみに】副詞:すきまなくびっしりと。「しみに」とも。(学研)

 

◆春雨尓 毛延之楊奈疑可 烏梅乃花 登母尓於久礼奴 常乃物能香聞

               (大伴書持 巻十七 三九〇三)

 

≪書き下し≫春雨(はるさめ)に萌(も)えし柳か梅の花ともに後(おく)れぬ常(つね)の物かも

 

(訳)この柳は、春雨に誘われて萌え出た柳なのか。それとも、梅の花が咲き揃うにつれて後れじと萌え出す、例のとおりの柳なのか。(同上)

 

◆宇梅能花 伊都波乎良自等 伊登波祢登 佐吉乃盛波  思吉物奈利

               (大伴書持 巻十七 三九〇四)

 

≪書き下し≫梅の花いつは折らじといとはねど咲きの盛りは惜(を)しきものなり

               

(訳)梅の花、この美しい花をこれこれの時は折るまいなどと選り好みをするわけではないが、咲きにおう真っ盛りの時には、とりわけ折ってしまうのが惜しいものだ。(同上)

 

◆御苑布能 百木乃宇梅乃 落花之 安米尓登妣安我里 雪等敷里家牟

               (大伴書持 巻十七 三九〇六)

 

≪書き下し≫御園生(みそのふ)の百木(ももき)の梅の散る花し天(あめ)に飛び上(あ)がり雪と降りけむ

 

(訳)「天から流れ来る雪」とは、きっとお庭の百木(ももき)の梅の散る花、その花びらが天空に舞い上がって雪となって降ったものなのでありましょう。(同上)

(注)この歌は、梅花宴の主人の歌「八二二」に和した歌である。

(注)御園生(みそのふ):父大伴旅人の庭園。

 

左注は、「右十二年十二月九日大伴宿祢書持作」<右は、十二年の十二月の九日に、大伴宿禰書持(おほとものすくねふみもち)が作る>である。

 

大伴書持は、大伴家持の弟である。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「別冊國文學 万葉集必携」 稲岡耕二 編 (學燈社