万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その462)―大阪府富田林市 彼方小学校―万葉集 巻十一 二六八三

●歌は、「彼方の埴生の小屋に小雨降り床さへ濡れぬ身に添へ我妹」である。

 

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大阪府富田林市 彼方小学校万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、大阪府富田林市 彼方小学校にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆彼方之 赤土少屋尓 ▼霂零 床共所沾 於身副我妹

               (作者未詳 巻十一 二六八三)

          ▼:「雨かんむりの下に泳+霂」=「こさめ」

 

≪書き下し≫彼方(をちかた)の埴生(はにふ)の小屋(をや)に小雨(こさめ)降り床(とこ)さへ濡れぬ身に添(そ)へ我妹(わぎも)

 

(訳)人里離れたこの埴生(はにゅう)の野小屋に、小雨が降り注いで寝床までも濡れてしまった。この身にぴったり寄り添うのだぞ、お前。((伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)をちかた【彼方・遠方】名詞:遠くの方。向こうの方。あちら。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)埴生(はにふ)の小屋(をや):土間の土の上に筵(むしろ)などを敷いただけの小さい家。また、土で塗っただけの小さい家。転じて、みすぼらしい粗末な家。また、自分の家をへりくだっていうのにも用いる。埴生の宿。埴生。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

 

 

富田林市HPの「彼方小学校」の紹介に次のように書かれている。

「彼方小学校は、平成13年度に創立百周年を迎えました。

 万葉集までさかのぼる彼方村の歴史 『彼方の 赤土の小屋に小雨降り 床さえ濡れぬ 身に添え 我妹』万葉集 巻11-2683 読み人知らず  

読み方:(をちかたの はにふのおやにこさめふり とこさえぬれぬ みにそえ わぎも)

『彼方の赤土の小屋に小雨が降ってきて、床も濡れてきた。私のそばに身をよせなさい、いとしい人よ。』という意味の歌で、末尾の『(わぎも)』は『妻ある恋人』または『我が子』という解釈も可能のようで、つまり愛の歌です。

平成13年11月11日、百周年を記念して、校区の皆様のご協力により、この歌の石碑が正門の中に建てられました。」

 

 この歌は、どうみても、万葉人の赤裸々な「逢引の歌」としか思えない。古橋信孝氏は、その著「古代の恋愛生活 万葉集の恋歌を読む」(NHKブックス)の中で、「日常生活を営むわけではないから、かんたんな造りで、雨が降るとなかまでじとじと濡れて来る。おそらく農作業か山仕事のための小屋だろう。そういう小屋は人里離れている。そういう日常空間とは異なる場所が逢引の場だったことがよくわかる例である。」と書かれている。

 万葉集は、このようなひたむきな心情を、すなおに詠っている歌が多い。おおらかさが、万葉集万葉集たる所以であろう。小学校の正門にこの歌の歌碑を建てたのも彼方の人々のおおらかさなのであろう。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「古代の恋愛生活 万葉集の恋歌を読む」 大橋信孝 著(NHKブックス

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典

★「富田林市HP」