万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その514)―奈良市法蓮佐保山 万葉の苑(17)―万葉集 巻七 一一八八

●歌は、「山越えて遠津の浜の岩つつじ我が来るまでふふみてあり待て」である。

 

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奈良市法蓮佐保山 万葉の苑(17)(作者未詳 さつき)

●歌碑は、奈良市法蓮佐保山 万葉の苑(17)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆山超而 遠津之濱之 石管自 迄吾来 含流有待

                (作者未詳 巻七 一一八八)

 

≪書き下し≫山越えて遠津(とほつ)の浜の岩つつじ我(わ)が来(く)るまでふふみてあり待て

 

(訳)山を越えて遠くへ行くというではないが、その遠津の浜に咲く岩つつじよ、われらが再びここに帰って来るまで蕾(つぼみ)のままでいておくれ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)やまこえて【山越えて】( 枕詞 ):山を越えて遠くの意で、地名「遠津」にかかる。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)遠津の浜:所在地不明

(注)岩つつじ:岩間に咲くつつじ。土地の娘の譬えであろう。

(注)ふふむ【含む】自動詞:花や葉がふくらんで、まだ開ききらないでいる。つぼみのままである。(学研)

 

 歌碑(プレート)には、万葉呼名「さつき」と書かれているが、万葉集に植物名として「さつき」を詠んだ歌は見当たらない。

 一一八八歌に詠まれている「石管自(岩つつじ)」は、岩場に生えていて現在のサツキの原種といわれている。ツツジの仲間のサツキは園芸上改良された種が多く、この種類を単独でサツキと呼ぶようになったという。「サツキ」という名前は、「皐月躑躅(5月に咲くツツジの意)」からきているようである。しかし、万葉の時代に「サツキ」という名前があったのか疑問に思えてくる。

 

 ベネッセ「教育情報サイト」の「ツツジとサツキの違いって知ってる?」には、つぎのように書かれている。

「よく耳にする『サツキ』も実はツツジの一種。そもそもツツジというのは、ツツジ科の植物の総称で、ドウダンツツジやホツツジ、さらにはシャクナゲなどもツツジ科に分類されています。およそ300もの種類があり、あまり環境を選ぶことなく花を咲かせられるので、日本だけでも約90種が自生しているそうですから驚きですね。俳句で夏の季語になる『サツキ』も、実はツツジの一種である『サツキツツジ』のこと。」

 

 それでは、「サツキは園芸上改良された種」であるといわれるが、いつごろから「さつき」が定着したのかが気になる。これについては、「みんなの趣味の園芸」(NHK出版)の「

ツツジとサツキはどう違う?」が参考になる。長文であるが引用させていただきます。

「ユリやランという言葉は特定の植物ではなく、ラン科、ユリ属とグループを指すように、ツツジもサツキやヤマツツジレンゲツツジなど、シャクナゲよりも葉が薄くて、枝が細い落葉または常緑のツツジ属の総称です。『サツキ』はその中のサツキの野生種またはその園芸品種のことです。サツキはヤマツツジの渓流型と考えられ、葉は常緑、増水時に流されないように葉が細長いのが特徴です。(中略)しかし、なぜ同じツツジの仲間に2つの名前が用いられてきたのでしょうか?その歴史をたどると江戸時代に行き着きます。

 江戸中期の1692年、江戸で『錦繍枕(きんしゅうまくら)』というツツジの種類や栽培を解説した世界初の専門書が伊藤伊兵衛によって版行されました。時は後に『元禄のツツジ』と呼ばれる流行の最中であり、さまざまな品種が作出されました。

 江戸中期は、戦の心配もなくなり、人々の暮らしが豊かになった時代であり、余暇の楽しみとしてツバキやボタンなど、さまざまな植物の品種改良や栽培が流行し、現在の園芸の基礎が築かれた時代でした。

 『錦繍枕』は5巻からなり、3冊が『躑躅(つつじ)』、2冊が『さつき』という構成になっています。その中で、いわゆる『つつじ』は春(旧暦1~3月)に咲き、『さつき』は初夏(旧暦4月)咲くと記されています。その十年ほど前に刊行された日本最古の園芸書といわれる『花壇綱目』(1681)にはツツジとサツキは区別されていませんので、ブームに伴って現れた数多くの品種を大別するために、現在の4~5月中旬に開花するものを『つつじ』、5月下旬から6月に開花するものを『さつき』と呼びはじめたのではないかと考えられます。」

 

 本論からは脱線しているが、知っているようで知らない「ツツジとサツキ」に少しでも近づけたように思う。こういった点からも、小生にとって万葉集様様である。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

Weblio古語辞典 学研全訳古語辞典

weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版

★「教育情報サイト」(ベネッセHP)

★「徳島県観光情報サイト 阿波ナビ」 (徳島県一般財団法人 徳島県観光協会HP)