万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その566,567,568,569)―西宮市西田町西田公園万葉植物苑―

―その566―

●歌は、「春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子」である。

 

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西宮市西田町西田公園万葉植物苑万葉歌碑(大伴家持

●歌碑は、西宮市西田町西田公園万葉植物苑にある。この歌碑は、西宮市ゆかりの犬養孝氏の揮毫になる物である。

  西田公園 万葉植物苑については、西宮市HPに「万葉集ゆかりの72種類の植物を植えています。それぞれの植物には、西宮市にゆかりの深い万葉集研究家・犬養孝先生(1907-1998)の選んだ万葉歌や花などの説明板を付けており、万葉の世界が楽しめます。」と書かれている。

 

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西田公園

 

 

●歌をみていこう。

 

この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その495)」や「同315」で紹介している。ここでは、歌のみをみていく。

 

◆春苑 紅尓保布 桃花 下照道尓 出立▼嬬

               (大伴家持 巻十九 四一三九)

        ※▼は、「女」+「感」、「『女』+『感』+嬬」=「をとめ」

 

≪書き下し≫春の園(その)紅(くれなゐ)にほふ桃の花下照(したで)る道に出で立つ娘子(をとめ)

 

(訳)春の園、園一面に紅く照り映えている桃の花、この花の樹の下まで照り輝く道に、つと出で立つ娘子(おとめ)よ。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

 

この歌はの題詞は、「天平勝寳二年三月一日之暮眺曯春苑桃李花作二首」<天平(てんぴやう)勝宝(しようほう)二年の三月の一日の暮(ゆうへ)に、春苑(しゆんゑん)の桃李(たうり)の花を眺曯(なが)めて作る歌二首>である。

 

 

 西田公園万葉植物苑の歌碑を紹介していくが、これまでにもいろいろな公園の万葉植物にちなんだ歌を紹介してきているので、ほとんどが重複している。原則三首ずつ紹介していく。歌が中心となるが、その後の新しい情報等があれば追記していくことにする。

 

―その567―

●歌は、「春さればまづさきくさの幸くあらば後にも逢はむな恋ひそ我妹」

 

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西宮市西田町西田公園万葉植物苑(1)(柿本人麻呂歌集)

●歌碑は、西宮市西田町西田公園万葉植物苑(1)にある。

 

●歌をみていこう。

 この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その494)で詳しく紹介している。

 

◆春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹

               (柿本朝臣人麿歌集 巻十 一八九五)

 

≪書き下し≫春さればまづさきくさの幸(さき)くあらば後(のち)にも逢はむな恋ひそ我妹(わぎも)

 

(訳)春になると、まっさきに咲くさいぐさの名のように、命さえさいわいであるならば、せめてのちにでも逢うことができよう。そんなに恋い焦がれないでおくれ、お前さん。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)上二句「春去 先三枝」は、「春去 先」が「三枝」を起こし、「春去 先三枝」が、「幸(さきく)」を起こす二重構造になっている。

(注)そ 終助詞:《接続》動詞および助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」の連用形に付く。ただし、カ変・サ変動詞には未然形に付く。:①〔穏やかな禁止〕(どうか)…してくれるな。しないでくれ。▽副詞「な」と呼応した「な…そ」の形で。②〔禁止〕…しないでくれ。▽中古末ごろから副詞「な」を伴わず、「…そ」の形で。

参考(1)禁止の終助詞「な」を用いた禁止表現よりも、禁止の副詞「な」と呼応した「な…そ」の方がやわらかく穏やかなニュアンスがある。(2)上代では「な…そね」という形も併存したが、中古では「な…そ」が多用される。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 

―その568―

●歌は、「紅の深染めの衣下に着て上に取り着ば言なさぬかも」である。

 

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西宮市西田町西田公園万葉植物苑(2)(作者未詳)

●歌碑は、西宮市西田町西田公園万葉植物苑(2)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆紅之 深染之衣 下著而 上取著者 事将成鴨

                 (作者未詳 巻七 一三一三)

 

≪書き下し≫紅(くれなゐ)の深染(ふかそ)めの衣(きぬ)下(した)に着て上(うへ)に取り着ば言(こと)なさぬかも

                           

(訳)濃い紅色(べにいろ)で染めた着物、それを肌着にしていた後で、改めて外行(よそゆ)きとして着たりしたら、世間がとやかく言立てるであろうかなあ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)紅:相手の女性の譬え

(注)ことなす【言成す】他動詞:言葉に出す。あれこれ取りざたする。(学研)

(注)上に取り着ば:正式に結婚することの譬え

 

「くれなゐ」とは、紅花のことである。万葉集には二九首が収録されているが、花そのものを詠んだ歌は五首であり、他は染色した「紅染」の衣として詠まれている。

 

 

―その569―

●歌は、「我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む」である。

 

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西宮市西田町西田公園万葉植物苑(3)(大伴家持

●歌碑は、西宮市西田町西田公園万葉植物苑(3)にある。

 

●歌をみていこう。

この歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その168)」で紹介している。

 

◆吾屋外尓 蒔之瞿麦 何時毛 花尓咲奈武 名蘇経乍見武

                (大伴家持 巻八 一四四八)

 

≪書き下し≫我がやどに蒔(ま)きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む

 

(訳)我が家の庭に蒔いたなでしこ、このなでしこはいつになったら花として咲き出るのであろうか。咲き出たならいつもあなただと思って眺めように。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)なそふ【準ふ・擬ふ】:なぞらえる。他の物に見立てる。

 

 題詞は、「大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首」<大伴宿禰家持、坂上家(さかのうえのいへ)の大嬢(おほいらつめ)に贈る歌一首>である。

大伴家持は、「なでしこ」をこよなく愛していたようで万葉集には十一首が収録されている。

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「西田公園 万葉植物苑」 (西宮市HP)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」