万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その618,619)―高砂市曽根 曽根天満宮―万葉集 巻七 一一七八、巻七 一一六二

万葉歌碑を訪ねて(その618、619)

―その618-

●歌は、「印南野は行き過ぎぬらし天伝ふ日笠の浦に波立てり見ゆ」である。

 

 

f:id:tom101010:20200723115836j:plain

高砂市曽根 曽根天満宮万葉歌碑(作者未詳)<写真左端>

 

●歌碑は、高砂市曽根 曽根天満宮にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆印南野者 往過奴良之 天傳 日笠浦 波立見  <一云 思賀麻江者 許藝須疑奴良思>

                 (作者未詳 巻七 一一七八)

 

≪書き下し≫印南野(いなみの)は行き過ぎぬらし天伝(あまづた)ふ日笠(ひかさ)の浦に波立てり見(み)ゆ  <一には「飾磨(しかま)江(え)は漕ぎ過ぎぬらし」といふ>

 

(訳)印南野はもう通り過ぎてしまったらしい。向こうを見ると、はるか日笠の浦に波がしきりに立っている。<飾磨の入江はもう漕ぎ過ぎたらしい>

(注)印南野(読み)いなみの:明美台地ともいう。兵庫県南部,明石川加古川およびその支流美嚢 (みの) 川に囲まれた三角状の台地。雌岡 (めこ) 山 (249m) ,雄岡 (おっこ) 山 (241m) などの秩父古生層の小丘のある西方の高位段丘面と,播磨灘沿岸に分布する中位段丘面とに分れる。末端は明石原人やマンモス化石の発見で有名になった比高約 10mの明石累層の海食崖で,播磨灘にのぞむ。水不足で開発が遅れ,河川からの揚水が可能になった江戸時代に水田化された。日本最大の灌漑用ため池密集地域で,県下の穀倉地帯の1つ。第2次世界大戦後は工業化が著しい。(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

(注)あまづたふ【天伝ふ】分類枕詞:空を伝い行く太陽の意から、「日」「入り日」などにかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)日笠の浦:兵庫県高砂市曽根町日笠山南の海岸か。

(注)飾磨江:姫路市飾磨川河口付近の入江

 

 

―その619―

●歌は、「円方の港の洲鳥波立てや妻呼び立てて辺に近づくも」である。

 

f:id:tom101010:20200723115836j:plain

高砂市曽根 曽根天満宮万葉歌碑(作者未詳)<写真中央>

●歌碑は、高砂市曽根 曽根天満宮にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆圓方之 湊之渚鳥 浪立也 妻唱立而 邊近著毛

                                    (作者未詳 巻七 一一六二)

 

≪書き下し≫円方(まとかた)の港(みなと)の洲鳥(すどり)波立てや妻呼び立てて辺(へ)に近(ちか)づくも

 

(訳)円方(まとかた)の港の洲に群れている鳥、この鳥は、沖の方の波が高くなってきたからか、妻を呼び立てては岸に近づいてくる。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)や 係助詞《接続》種々の語に付く。活用語には連用形・連体形(上代には已然形にも)に付く。文中にある場合。(受ける文末の活用語は連体形で結ぶ。):〔疑問〕…か。

(注)円方(まとかた):三重県松阪市東黒部町

(注)すどり【州鳥】 州にいる鳥。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

 この歌の「円方(まとかた)」について、伊藤 博氏は「万葉集 二」(角川ソフィア文庫)の脚注で「三重県松阪市東黒部町」と書かれている。 

2020年2月14日、三重県松阪市東黒部町の阿弥陀寺を訪れた時に、この歌の歌碑があり、拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その426)」で紹介している。

 そこでは、松阪市HP「万葉遺跡 円方(まとかた)」に記載されている次の記事を掲載している。

「概要:東黒部町 中野川流域一帯 『万葉集』巻1・7に集載されている次の二首にちなむ遺跡である。

  巻1「二年壬寅 太上天皇幸于参河国時歌」舎人娘子従駕にして作る歌

   ◎丈夫の得物矢手挿み立ち向ひ射る圓方は見るに清潔けし

  巻7「雑歌」羇旅にして作る

   ◎圓方の湊の渚鳥波立てや妻呼び立てて辺に近づくも

歌に詠む円方は巻7については異論があるものの、巻1の歌に関しては東黒部町内であるとされている。しかし、地名としては残っておらず、垣内田町に服部麻刀方神社跡が名称としてあるのみであり、円方の地点となると不明である。指定もその点、所在地番の指定をせず、中野川流域一帯としているだけである。東黒部町阿弥陀寺境内の一画に万葉歌碑が建つ。」

 

 なぜ、三重県東黒部町ゆかりの歌碑が曽根神社にあるのか、疑問に思った。確かに、松阪市HPには、一一六七歌の「円方(まとかた)」については「異論」がある旨書かれていた。

  曽根天満宮の歌碑郡は、ご当地にちなんだものが多いので、調べてみると、「湊神社」の所在地が「兵庫県姫路市的形町的形1249」となっている。このあたり一帯は、遠浅の入江で「まとがたの湊」と言われていたようである。また、山陽電気鉄道本線の駅に、「的形駅(まとがたえき)」がある。所在地は兵庫県姫路市的形町的形小島東である。

機会をみて「湊神社」を訪れて「由緒」などを見てみたいものである。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「万葉遺跡 円方(まとかた)」 (松阪市HP)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」