●歌は、「大崎の荒磯の渡り延ふ葛のゆくへもなくや恋ひわたりなむ」である。
●歌碑は、海南市下津町 シモツピアーランド入口にある。
●歌をみていこう。
◆大埼之 有礒乃渡 延久受乃 徃方無哉 戀度南
(作者未詳 巻十二 三〇七二)
≪書き下し≫大崎(おほさき)の荒礒(ありそ)の渡り延(は)ふ葛(くず)のゆくへもなくや恋ひわたりなむ
(訳)大崎の荒磯の渡し場、その岩にまといつく葛があてどもなく延びるように、これからどうなるのか見通しもないまま恋い焦がれつづけることになるのか。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)大崎:和歌山市加太の岬。
(注)上三句は序。「ゆくへもなく」を起こす。
歌碑は、和歌山県海南市下津町大崎シモツピアーランド入口にある。この「大崎」という地名にちなんで歌碑が建てられたようである。伊藤 博氏は脚注で「この歌の大崎は、和歌山市加太の岬」とされている。前後の歌をみても、小生には、海南か加太か判断しようがない。
ここでは、「葛(くず)」に焦点を合わせて書き進むことにする。
葛を詠った歌は、万葉集では十七首収録されている。万葉びとにとって生活に役立つ植物だったからである。これに関しては、奈良県HPの「はじめての万葉集 vol.28」に詳しく書かれているので引用させていただく。歌は、「真田葛延(まくずは)ふ 夏野(なつの)の繁く かく恋(こ)ひばまことわが命(いのち)常(つね)ならめやも 作者未詳 巻十 一九八五歌(訳:ま葛ののびる夏野のように、しきりにこれほど恋うていたなら、本当に、私の命はどうかなってしまうのではないだろうか。)」である。そして解説がなされている。
「夏から秋にかけて、河川敷や郊外の歩道、高速道路の路肩などに大きな葉っぱと長いツルが特徴的な植物を目にしたことはありませんか?紅紫色の香しい花房がついている時もあります。それが葛(くず)です。
葛は『万葉集』に詠まれており、古代から身近にある植物でした。強靭なツルが長くのびた様子をあらわす『真田葛延ふ』は永く絶えないことを比喩した表現です。『かく恋ひ』はそんな葛のツルが夏野に生い茂るように、絶えず思い続ける恋をいいます。苦しい恋ですね。
繁殖力が旺盛ですので現在は厄介な雑草と化している葛ですが、じつはとても生活に役立つ植物でもあります。
たとえば、根は薬用や食用になります。葛根湯(かっこんとう)や葛粉(くずこ)はご存知ですね。なかでも吉野の本葛は高級和菓子の原料となることから全国的にも有名です。ちなみに古代の甘味料に『甘葛(あまずら)』がありますが、これは蔓(つる)(一説にはアマチャヅル)から抽出したもので、葛が原料ではありません。
葉にはアミノ酸が豊富に含まれ、食べることができます。家畜の飼料として利用していた地域もあったそうです。また裏面が白いため、風に吹かれると遠くからも目立って、独特の風情があります。
ツルからは良質の繊維がとれ、これを紡いで織ったものを葛布(かっぷ)といい、絹のような美しい光沢があります。今も静岡県掛川(かけがわ)で数軒の工房がその技術を伝えています。
このように、葛には無駄な部分がほとんどないといってよいでしょう。有効に利用したいものですね。(本文 万葉文化館 小倉久美子)」とある。
また、「葛」の名前の由来について、吉野町の国栖(くず)という地域が、その昔、葛粉の産地であったことに由来するといわれていると書かれている。
「葛の裏風」という言葉があるように、葛の葉は少しの刺激にも反応し裏返って白い葉を見せる性質がある。このことから、心(うら)・恨み・うらめし、などにかかる枕詞「葛の葉の」が生まれたという。
次の歌もおもしろいのでみてみよう。
◆水茎之 岡乃田葛葉緒 吹變 面知兒等之 不見比鴨
(作者未詳 巻十二 三〇六八)
≪書き下し≫水茎(みづくき)の岡の葛葉(くずは)を吹きかへし面(おも)知る子らが見えぬころかも
(訳)岡の葛(くず)の葉を風が吹き返して裏葉の白さが目につくように、はっきりと顔を見知っているあの子がいっこうに姿を見せない今日このごろだ。(同上)
(注)上三句は序。「面知る」を起こす。白い裏が見えるの意。
一〇二三歌の歌碑のあるY字型三叉路から、葛が這うような上り道を登って来たのである。事前にストリートビューで検証しているので楽勝であった。シモツピアーランドは海釣り公園である。入り口と書いているが、ここから下って施設にいくのである。
歌碑のあるところは、海が遠望できこちらも風光明媚な所である。
歌碑と風景を堪能して、次の目的地、粟嶋神社に向かうことに。ここで、立神社に続いて、今回2度目のナビインプット間違いをしてしまい、あきらめざるをえなくなってしまったのである。
カーナビで、一字一字仮名入力していき、やっと候補の選択になったとき「淡島神社 和歌山」で確定しまったようである。カーナビに従って車を走らせていると、紀三井寺付近まで来てしまっている。仕方なく、粟島神社を次の機会にまわし、紀三井寺へと変更したのである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」