万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その875,876,877)―豊前国府跡公園万葉歌の森(7)(8)(9)―万葉集 巻一 二〇、巻六 一〇〇九、巻八 一五三八

―その875-

●歌は、「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」である。

 

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豊前国府跡公園万葉歌の森(7)万葉歌碑(額田王

●歌碑は、豊前国府跡公園万葉歌の森(7)にある。

 

●歌をみていこう。

この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その170)」他で紹介している。

(その170)では、額田王長歌3首、短歌10首の書き下しだけであるが、すべてを載せている。

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◆茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流

             (額田王 巻一 二〇)

 

≪書き下し≫あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る

 

(訳)茜(あかね)色のさし出る紫、その紫草の生い茂る野、かかわりなき人の立ち入りを禁じて標(しめ)を張った野を行き来して、あれそんなことをなさって、野の番人が見るではございませんか。あなたはそんなに袖(そで)をお振りになったりして。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)あかねさす【茜さす】分類枕詞:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。

(注)むらさき 【紫】①草の名。むらさき草。根から赤紫色の染料をとる。②染め色の一つ。①の根で染めた色。赤紫色。古代紫。古くから尊ばれた色で、律令制では三位以上の衣服の色とされた。

(注)むらさきの 【紫野】:「むらさき」を栽培している園。

(注)しめ【標】:神や人の領有区域であることを示して、立ち入りを禁ずる標識。また、道しるべの標識。縄を張ったり、木を立てたり、草を結んだりする。

 

 

 額田王の歌に和した大海人皇子天武天皇)の歌は次の通りである。

 この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その171)他で紹介している。

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◆紫草能 尓保敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓 吾戀目八方

天武天皇 巻一 二一)

 

≪書き下し≫紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎(にく)くあらば人妻(ひとづま)故(ゆゑ)に我(あ)れ恋(こ)ひめやも

 

(訳)紫草のように色美しくあでやかな妹(いも)よ、そなたが気に入らないのであったら、人妻と知りながら、私としてからがどうしてそなたに恋いこがれたりしようか。(伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

 

 両歌の歌碑で紹介したいのは、滋賀県東近江市万葉の森船岡山の「蒲生野狩猟レリーフ」横の歌碑ならびに船岡山山頂付近の歌碑である。

ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その258、259)」で紹介している。

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―その876―

歌は、「橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木」である。

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豊前国府跡公園万葉歌の森(8)万葉歌碑(聖武天皇


 

歌碑は、豊前国府跡公園万葉歌の森(8)みある。

 

歌をみていこう。

この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その480)」で紹介している。

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◆橘者 實左倍花左倍 其葉左倍 枝尓霜雖降 益常葉之樹

               (聖武天皇 巻六 一〇〇九)

 

≪書き下し≫橘は実さへ花さへその葉さへ枝(え)に霜降れどいや常葉(とこは)の樹

 

(訳)橘の木は、実も花もめでたく、そしてその葉さえ、冬、枝に霜が降っても、ますます栄えるめでたい木であるぞ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)いや 感動詞

①やあ。いやはや。▽驚いたときや、嘆息したときに発する語。

②やあ。▽気がついて思い出したときに発する語。

③よう。あいや。▽人に呼びかけるときに発する語。

④やあ。それ。▽はやしたてる掛け声。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 題詞は、「冬十一月左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首」<冬の十一月に、左大弁(さだいべん)葛城王等(かづらきのおほきみたち)、姓橘の氏(たちばなのうぢ)を賜はる時の御製歌一首>である。

 

 

 

―その877―

歌は、「萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花」である。

 

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豊前国府跡公園万葉歌の森(9)万葉歌碑(山上憶良

歌碑は、豊前国府跡公園万葉歌の森(9)にある。

 

歌をみていこう。

この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その61、62)」で、奈良市春日大社境内の歌碑と共に紹介している。(その61では、憶良の一五三七歌も紹介している。なお、初期のブログであるので、朝食の写真や海洋釣堀での写真なども載せているのでご容赦下さい。)

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春日大社参道に山上憶良の植物にちなんだ歌碑が二つ並んでいる(万葉歌碑を訪ねて―その61,62―) - 万葉集の歌碑めぐり

 

◆芽之花 乎花葛花 瞿麦之花 姫部志 又藤袴 朝▼之花

                  (山上憶良 巻八 一五三八)

   ▼は、「白の下に八」である。「朝▼」で「あさがほ」

 

≪書き下し≫萩の花 尾花(をばな) 葛花(くずはな) なでしこの花 をみなへし また藤袴(ふぢはかま) 朝顔の花

 

(訳)一つ萩の花、二つ尾花、三つに葛の花、四つになでしこの花、うんさよう、五つにおみなえし。ほら、それにまだあるぞ、六つ藤袴、七つ朝顔の花。うんさよう、これが秋の七種の花なのさ。(伊藤 博著「萬葉集 二」角川ソフィア文庫より)

(注)一五三八歌は旋頭歌体である。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」