万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その888-3、889)―北九州市八幡西区岡田町 岡田宮(3)、遠賀郡芦屋町 魚見公園―万葉集 巻七 一二三一

―その888-3-

●歌は、「天霧らひひかた吹くらし水茎の岡の港に波立わたる」である。

 

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岡田宮(3 左端)万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、北九州市八幡西区岡田町 岡田宮(3)にある。

 

●歌をみていこう。

この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その633)」で、明石の瀬戸から内海を進み筑紫の港に泊てたことを歌った三首のうちの一首として紹介している。

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◆天霧相 日方吹羅之 水巠之 岡水門尓 波立渡

               (作者未詳 巻七 一二三一)

 

≪書き下し≫天霧(あまぎ)らひひかた吹くらし水茎(みずくき)の岡(おか)の港に波立ちわたる

 

(訳)今にも空がかき曇って日方風(ひかたかぜ)が吹いてくるらしい。岡の港に波が一面立っている。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)あまぎらふ【天霧らふ】分類連語:空が一面に曇っている。 ⇒なりたち 動詞「あまぎる」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典

(注)ひかた【日方】名詞:東南の風。西南の風。 ※日のある方角から吹く風の意。(学研)

(注)みづくきの【水茎の】分類枕詞:①同音の繰り返しから「水城(みづき)」にかかる。

②「岡(をか)」にかかる。かかる理由は未詳。 参考 中古以後、「みづくき」を筆の意にとり、「水茎の跡」で筆跡の意としたところから、「跡」「流れ」「行方も知らず」などにかかる枕詞(まくらことば)のようにも用いられた。(学研)

(注)岡の港:「芦屋町観光協会HP(福岡県遠賀郡芦屋町)」の岡湊神社の説明に「『岡湊』は『おかのみなと』と読み、『日本書紀』には『崗之水門』として登場する芦屋の大変古い呼称です。実に1800年の歴史を誇り、『古事記』にもその記載があります。」とある。

 

 万葉の時代の船旅は、手漕ぎ船であるから、船旅に関する歌は「海のこわさ」を詠っているものが多い。

 上述の三首の書き下しをみてみよう。

 

◆(一二二九歌)我(わ)が舟は明石(あかし)の水門(みと)に漕ぎ泊(は)てむ沖(おき)へな離(さか)りさ夜更(ふ)けにけり

 

◆(一二三〇歌)ちはやぶる鐘(かね)の岬(みさき)を過ぎぬとも我(わ)れは忘れじ志賀(しが)の統(す)め神(かみ)

 

◆(一二三一歌)天霧(あまぎ)らひひかた吹くらし水茎(みずくき)の岡(おか)の港に波立ちわたる

 

一二二九歌は、「沖へな離りさ夜更けにけり」(沖の方に行かないようにしてくれ。夜も更けてきたことだし)、

 一二三〇歌では、「ちはやぶる」(恐ろしい神の荒れ狂う)、「志賀の統め神」(志賀にいます海の守り神のご加護を)、

一二三一歌も、「天霧(あまぎ)らひひかた吹くらし」(今にも空が一面に曇って風が吹いてくるらしい)、そして「波立ちわたる」(波が一面に立っている)と、海のこわさを詠っている。

 怖さをかきたてるのは、「潮」であり「風」であり「波」であったのである。

 

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岡田宮境内 

 

―その889―

●歌は、前稿888-3と同じである。

 

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福岡県遠賀郡芦屋町 魚見公園万葉歌碑(作者未詳)

 

●歌碑は、福岡県遠賀郡芦屋町 魚見公園にある。

 

 

【岡田宮➡魚見公園】

岡田宮から約30分ほどで国民宿舎マリンテラスあしやに到着。

国民宿舎の側に魚見公園に行く小道がある。そこを上ってしばらく行くと第一展望台があり、そこにこの万葉歌碑が建てられている。

 あいにく当日は、曇りがちだったので写真も歌碑の背景の海がはっきりと写っておらず残念であったが、歌碑に巡り逢うという目的は達した。

 

芦屋町HPに「魚見公園は、遠賀川河口に位置し、響灘や玄海灘、宗像の山々が一望できる見晴らしのすばらしい公園です。春には桜やツツジ、秋にはモミジやカエデの紅葉などを楽しむこともできます。また、公園内には散策道があり、身近に自然と触れ合うことができます。(中略) 第一展望台の中には万葉の歌碑があります。」と記されている。

 

 

いよいよ明日は大宰府である。

中継地の宇部を経って、豊前国府跡公園、貴布祢神社勝山公園万葉の庭、夜宮公園、岡田宮、魚見公園と駆け足での歌碑巡りであったが、頑張ったものである。

 

魚見公園の次は、宗像大社に行きたかったのであるが、日が落ちてから地理不案内な街を運転するのは危ないので、あきらめて、宿泊地博多へ向かった。

 途中、渋滞などもありなんやかやで約2時間かかってしまい、日没ぎりぎりでホテルに滑り込んだのである。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「芦屋町HP」

★「「芦屋町観光協会HP」