万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その969)―一宮市萩原町 高松分園(41)白山社一万葉集 巻十 二二〇三

●歌は、「里ゆ異に霜は置くらし高松の野山づかさの色づく見れば」である。

 

f:id:tom101010:20210327131029j:plain

一宮市萩原町 高松分園(41)白山社万葉歌碑<作者未詳>

●歌碑は、一宮市萩原町 高松分園(41)白山社にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆里異 霜者置良之 高松 野山司之 色付見者

               (作者未詳 巻十 二二〇三)

 

≪書き下し≫里ゆ異(け)に霜は置くらし高松(たかまつ)の野山(のやま)づかさの色づく見れば

 

(訳)あそこには人里とは違って霜は格別ひどく置くらしい。高松の野山の高みが色づいているのをいると。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)ゆ 格助詞《接続》体言、活用語の連体形に付く。:①〔起点〕…から。…以来。②〔経由点〕…を通って。…を。③〔動作の手段〕…で。…によって。④〔比較の基準〕…より。 ⇒ 参考 上代の歌語。類義語に「ゆり」「よ」「より」があったが、中古に入ると「より」に統一された。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典) ここでは④の意

(注)けに【異に】:形容動詞「け(異)なり」の連用形。副詞的に用いる。(学研)

(注の注)けなり【異なり】形容動詞①(普通とは)違っている。変わっている。②一段とまさっている。特にすぐれている。 ⇒語法 連用形「けに」の形で使われることが多い。(学研)

(注)野山づかさ:野山のこ高いところ

 

 白山社は、高松分園に隣接し建てられている小さな神社である。社殿右手奥の分園駐車場の一段上の所に歌碑は、建てられている。

 

f:id:tom101010:20210327132737j:plain

白山社

 

ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(946)で、巻十は、柿本人麻呂歌集を中核に、取集された歌集あるいは資料をもとに構成されていると書いた。例外もあるが、四季ごとの「雑歌」「相聞」の先頭には柿本人麻呂歌集が収録されている。

 そして、題詞「詠黄葉」の二一七八から二二一八歌の二一七八、二一七九歌の二首は、「首朝臣人麻呂之歌集出」であり、続く歌群を分析した。

 この歌は、946稿でも触れたが、「高松論争」となった六首のうちの一首である。

 

巻十の題詞「詠黄葉」の人麻呂歌集に続く歌群を分析ならびに「高松論争」については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(946)」を参考にしていただきたい。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

この二二〇三歌がある歌群について、時間軸と空間軸に沿って、この二二〇二~二二〇六歌群は、「色づき」から「黄葉散る」という時間経過と地名では、「高松」「南淵山」を含む領域に位置づけられると分析していた。座標軸によって、それぞれの資料のまとまりを把握している。

 

 二二〇二から二二〇六歌をみてみよう

 

◆黄葉為 時尓成良之 月人 楓枝乃 色付見者

               (作者未詳 巻十 二二〇二)

 

≪書き下し≫黄葉(もみち)する時になるらし月人(つきひと)の桂(かつら)の枝(えだ)の色づく見れば

 

(訳)木の葉の色づく時節になったらしい。お月さまの中の桂の枝が色付いてきたところを見ると。(同上)

 

この歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その532)」で紹介している。

➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

◆秋風之 日異吹者 露重 芽子之下葉者 色付来

                (作者未詳 巻十 二二〇四)

 

≪書き下し≫秋風の日(ひ)に異(け)に吹けば露を重(おも)み萩(はぎ)の下葉(したば)は色づきにけり

 

(訳)秋風が日増しに冷たく吹いてきて、露もしとどに置くようになったので、萩の下葉はとうとう色づいてきた。(同上)

 

 

◆秋芽子乃 下葉赤 荒玉乃 月之歴去者 風疾鴨

                (作者未詳 巻十 二二〇五)

 

≪書き下し≫秋萩(あきはぎ)の下葉もみちぬあらたまの月の経(へ)ぬれば風をいたみかも

 

(訳)秋萩の下葉はすっかり色づいてきた。月が改まって、風が激しくなったからであろうか。(同上)

(注)あらたまの【新玉の】分類枕詞:「年」「月」「日」「春」などにかかる。かかる理由は未詳。(学研)

(注)いたみ【甚み】⇒かぜをいたみ…。 ※派生語。 ⇒ なりたち 形容詞「いた(甚)し」の語幹+接尾語「み」(学研)

 

 

◆真十鏡 見名淵山者 今日鴨 白露置而 黄葉将散

              (作者未詳 巻十 二二〇六)

 

≪書き下し≫まそ鏡南淵山(みなぶちやま)は今日(けふ)もかも白露(しらつゆ)置きて黄葉(もみち)散るらむ

 

(訳)南淵山では、今日あたりも、白露が置いてはもみじが散っていることであろうかなあ。(同上)

(注)まそかがみ【真澄鏡】分類枕詞:鏡の性質・使い方などから、「見る」「清し」「照る」「磨(と)ぐ」「掛く」「向かふ」「蓋(ふた)」「床(とこ)」「面影(おもかげ)」「影」などに、「見る」ことから「み」を含む地名「敏馬(みぬめ)」「南淵山(みなぶちやま)」にかかる。(学研)

(注の注)南淵山(みなぶちやま):奈良県明日香村

(注の注)敏馬(みぬめ):神戸港の東、灘区岩屋付近。

 

 南淵山を詠んだ柿本人麻呂の歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(160)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 敏馬を詠んだ歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(563)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 白山社の後方に新幹線の高架がある。時折、地響きを立てて列車が通過していく。

 

f:id:tom101010:20210327132524j:plain

白山社後方の新幹線

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集をどう読むか―歌の『発見』と漢字」 神野志隆光 著 (東京大学出版会

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」