―その1164―
●歌は、「玉掃刈り来鎌麻呂むろの木と棗が本とかき掃かむため」である。
●歌碑(プレート)は、奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園(124)にある。
●歌をみていこう。
◆玉掃 苅来鎌麻呂 室乃樹 與棗本 可吉将掃為
(長忌寸意吉麻呂 巻十六 三八三〇)
≪書き下し≫玉掃(たまはばき) 刈(か)り来(こ)鎌麿(かままろ)むろの木と棗(なつめ)が本(もと)とかき掃(は)かむため
(訳)箒にする玉掃(たまばはき)を刈って来い、鎌麻呂よ。むろの木と棗の木の根本を掃除するために。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
題詞は、「詠玉掃鎌天木香棗歌」<玉掃(たまばはき)、鎌(かま)、天木香(むろ)、棗(なつめ)を詠む歌>である。この互いに無関係の四つのものを、ある関連をつけて即座に歌うのが条件であった。
長忌寸意吉麻呂の歌は万葉集には十四首収録されている。これらすべての歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その987)」で紹介している。
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―その1165―
●歌は、「居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも」である。
●歌碑(プレート)は、奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園(125)にある。
●歌をみていこう。
◆居明而 君乎者将待 奴婆珠能 吾黒髪尓 霜者零騰文
(古歌集 巻二 八九)
≪書き下し≫居(ゐ)明(あ)かして君をば待たむぬばたまの我(わ)が黒髪に霜は降るとも
(訳)このまま佇(たたず)みつづけて我が君のお出(いで)を待とう。この私の黒髪に霜は白々と降りつづけようとも。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)ゐあかす【居明かす】他動詞:起きたまま夜を明かす。徹夜する。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)ぬばたまの【射干玉の・野干玉の】分類枕詞:①「ぬばたま」の実が黒いところから、「黒し」「黒髪」など黒いものにかかり、さらに、「黒」の連想から「髪」「夜(よ)・(よる)」などにかかる。②「夜」の連想から「月」「夢」にかかる。(学研)
題詞は、「或本歌日」<或本の歌に日(い)はく>である。
左注は、「右一首古歌集中出」<右の一首は、古歌集の中(うち)に出づ>である。
(注)古歌集とは、万葉集の編纂に供された資料を意味する。
この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1038)」で紹介している。
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ついに、手持ちの歌碑の写真が三週間分となって来た。
コロナ禍ではあるが、9月13日、14日に1泊2日の歌碑巡りを行った。
行程は下記の通りである。
9月13日(月)
和歌山県白浜町「平草原公園」➡白浜町フィッシャーマンズワーフ「真白良媛像」➡ホテル三楽荘北側ポケットパーク「有間皇子之碑」➡白浜町「バス停『瀬戸の浦』そば」➡白浜町「綱不知桟橋前」➡田辺市秋津町「宝満寺」➡日高郡みなべ町「国民宿舎紀州路みなべ」➡日高郡みなべ町西岩代「光照寺」➡「有間皇子結松記念碑➡日高郡印南燈印南原「おたき瀧法寺」➡はし長水産直販部駐車場➡御坊市名田町「三尾海岸」
9月14日(火)
海南市下津町方「粟島神社」➡和歌山市雑賀崎番所鼻「番所庭園」➡和歌山市加太「田倉崎燈台」➡和歌山市加太「城ケ崎海岸」➡大阪府泉南郡岬町「深日漁港北」
パーキングエリア「紀州路ありだ」などで休憩をとりながら約3時間のドライブ。平草原公園に到着。駐車場すぐの事務棟近くに歌碑があった。表面の風化が進んでおり読みづらいが時代を感じさせる。
歌は、巻四 四九六~四九九である。
■白浜町フィッシャーマンズワーフ「真白良媛像」
フィッシャーマンズワーフ駐車場出口近くに、「真白良媛像」が建てられておりその台座には「万葉秘話」と題し、有間皇子の「岩代の浜松が枝えを引き結びまさきくあらばまた帰り見む」の歌(巻二 一四一)が書かれている。そして「真白良媛は肌の白い美しい乙女だった。斉明天皇が牟婁のいで湯に行幸のとき、有間皇子は謀反の罪に問われて誅せられたが、真白良媛は
そのことも知らずに皇子を思いつつ、いつまでも待ち続けていたという。
白浜の海にのみ産するホンカクジヒガイという真白く艶やかな貝は媛の悲恋をいまもなおしのばせるものがある。」と書かれている。
■ホテル三楽荘北側ポケットパーク「有間皇子之碑」
「有間皇子之碑」については、南紀白浜観光協会HPに、「白浜温泉の名を広めた恩人『有間皇子之碑』」として、「白浜温泉は『日本三古湯』の一つに数えられ、日本書紀には有間皇子から白浜温泉の素晴らしさを聞いた斉明天皇が658年に訪れたと記されています。
白浜温泉の名を広めた恩人として白良浜海水浴場近くに建てられている『有間皇子之碑』。
毎年6月に献湯祭の神事が行われます。」と書かれている。
■白浜町「バス停『瀬戸の浦』そば」
事前にストリートビューで確認しておいたので、すぐに見つけることができたが、近くの駐車場は閉鎖されており、駐車場を探すのに右往左往。
歌は、巻十二 三一六四である。
■白浜町「綱不知桟橋前」
これも、事前にストリートビューで確認しておいたので、すぐに見つけることができた。近くには、外湯の「綱の湯」があったが、今年の三月末で閉鎖された。
歌は、巻九 一六七三である。
■田辺市秋津町「宝満寺」
白浜を後にして30分のドライブ。「宝満寺」に到着。立派なお寺である。歌碑はそれなりの大きさがあるのでその思いで境内を探すがなかなか見つけることができない。墓地の方への石段の上り口に「厳倉山八十八ヶ所〇〇」と書かれた道標のようなものが建てられている。先ほど前を通った時に道標には気づいていたが、なんとなく配置がおかしいと近づいて説明書きを読もうと近づく。なんと、すぐ左のこじんまりとした石碑がお目当ての歌碑であった。
歌は、巻七 一三六八である。
海側の駐車場脇に建てられていた。「みなべ町指定文化財 鹿島 万葉の故郷」の説明案内板」、「和歌山朝日・夕陽100選の看板」、「吉野熊野国立公園『南部海岸』の看板」もそばにあった。
歌は、巻九 一六六九である。
当初は、「有間皇子結松記念碑」に行くつもりであった。事前にストリートビューで確認はしておいたのであるが、実際に走っていると見落してしまったようである。らしきところに白い看板があり「万葉歌碑・・・」の文字がちらっと見えた。引き返して来るが車を停められるよな状況ではない。また引き返してきて、その説明板の反対側のスペースに車を停める。「万葉歌碑は、熊野古道・岡の地に移設」といったことが書かれていた。検索してみるが、情報は古い物ばかりである。熊野古道では車では無理だろう。記念碑の写真と共に「問い合わせ先:みなべ町教育委員会」とあったので、問い合わせてみた。
平成十六年の合併の事業として「光照寺」に歌碑の左側に移設した、旨の回答をいただきた。お寺への行き方、「有間皇子結松記念碑」はカーブの所にあり見落としがちであると、親切に教えていただく。感謝感激である。
歌は、巻一 一〇と感二 一四一である。
■有間皇子結松記念碑
「光照寺」正門前に「有間皇子結松記念碑200m」の案内指示板があった。そこを下ると目の前に「有間皇子結松記念碑」が。(道は非常に狭く、左カーブで危うく脱輪しそうになった。迂回がおすすめです。)
■日高郡印南燈印南原「おたき瀧法寺」
約20分のドライブ。「おたき瀧法寺HP」には、「二千年の歴史と天智天皇ゆかりのお宝まいり霊場」と題し、「紀伊之国十三仏霊場第十三番御札所、伊奈瀧大宝院神宮寺萬徳山瀧法寺は霊験あらたかなる宝の玉の輝く日本唯一の宝参り霊場でございます。日高郡内の熊野古道の要衝であり、後白河院さま、後鳥羽上皇さま他、熊野路を往来する多くの方々が宝参りをなされております。伊奈瀧を中心にお山全体を御佛(神)体と仰ぎ礼拝します。」と書かれている。
歌碑は、相当古く、風化が激しく文字は判別しづらかった。
歌は、巻三 四一二である。
■はし長水産直販部駐車場
ここを昼食の予定地としていたので、刺身定食と万葉歌碑をゲット。
歌は、巻一 一二である。
■御坊市名田町「三尾海岸」
これも、事前にストリートビューで確認しておいたので、すぐに見つけることができた。
海岸の大岩にプレートを埋め込んだ発想が素晴らしい。
惜しむらくは天候が良くて海が青々していたらと思うことくらいである。
歌は、巻七 一二二八である。
前回海南市近辺の歌碑巡りをした時、取りこぼしたのである。二日目の最初の歌碑はリベンジから。
神社の前はミカン畑がひろがるのんびりしたところである。歌碑は、社殿に上る長い石段の横にある。
歌は、巻七 一二一六である。
あいにくの雨である。駐車料金、入園料を払い園内に。広々とした庭園完全借り切りである。歌碑は、和歌浦を展望できる先端部近くにあった。先端部には「黒船の見張所跡 番所庭園」の碑があった。
歌は、巻七 一一九四である。
■和歌山市加太「田倉崎燈台」
海岸縁の燈台への石段の横にあった。すぐ近くの海では数人のサーファーが波と戯れていた。
歌は、巻十一 二七九五である。
■和歌山市加太「城ケ崎海岸」
ここも小さな岬になっている。その先端部近くに歌碑がある。横には「瀬戸内海国立公園 城ケ崎海岸」の説明案内板もあった。
歌は、巻七 一一九九である。
ほぼ順調に予定がこなせたので、もう一カ所まわることにした。歌碑は、深日港、深日漁港近くの海沿いの道と岬中学校に行く道との三叉路の山際のところにある。
歌は、巻十二 三二〇一である。
各歌の説明などは後日あらためて歌碑の紹介とともに行う予定です。よろしくお願い申し上げます。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「おたき瀧法寺HP」