万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1175)―奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園(135)―万葉集 巻十六 三八三七

●歌は、「ひさかたの雨も降らぬか蓮葉に溜まれる水の玉に似たる見む」である。

 

●歌碑(プレート)は、奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園(135)にある。

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奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園(135)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)



●歌をみていこう。

 

◆久堅之 雨毛落奴可 蓮荷尓 渟在水乃 玉似有将見

                  (作者未詳 巻十六 三八三七)

 

≪書き下し≫ひさかたの雨も降らぬか蓮葉(はちすは)に溜(た)まれる水の玉に似たる見む

 

(訳)空から雨でも降って来ないものかな。蓮の葉に留まった水の、玉のようにきらきら光るのが見たい。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)ひさかたの【久方の】分類枕詞:天空に関係のある「天(あま)・(あめ)」「雨」「空」「月」「日」「昼」「雲」「光」などに、また、「都」にかかる。語義・かかる理由未詳。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)ぬか 分類連語:①〔多く、「…も…ぬか」の形で〕…てほしい。…ないかなあ。▽他に対する願望を表す。◇上代語。②…ではないか。▽打消の疑問を表す。 ⇒なりたち 打消の助動詞「ず」の連体形+係助詞「か」(学研)

(注)蓮荷尓 渟在水乃:美女の目に溜まる涙の譬えか。

 

 左注は、「右歌一首傳云 有右兵衛<姓名未詳> 多能歌作之藝也 于時府家備設酒食饗宴府官人等 於是饌食盛之皆用荷葉 諸人酒酣歌舞駱驛 乃誘兵衛云関其荷葉而作歌者 登時應聲作斯歌也<右の歌一首は、伝へて云はく、「右兵衛(うひやうゑ)のものあり。<姓名は未詳> 歌作の芸(わざ)に多能なり。時に、府家(ふか)に酒食(しゅし)を備へ設けて、府(つかさ)の官人らに饗宴(あへ)す。ここに、饌食(せんし)は盛(も)るに、皆蓮葉(はちすば)をもちてす。諸人(もろひと)酒(さけ)酣(たけなは)にして、歌舞(かぶ)駱驛(らくえき)す。すなはち、兵衛を誘(いざな)ひて云はく、『その蓮葉に関(か)けて歌を作れ』といへれば、たちまちに声に応へて、この歌を作る」といふ。

(注)うひゃうゑ【右兵衛】名詞:「右兵衛府」の略。また、「右兵衛府」の武官。[反対語] 左兵衛。(学研)

(注)うひゃうゑふ【右兵衛府】名詞:「六衛府(ろくゑふ)」の一つ。「左兵衛府(さひやうゑふ)」とともに、内裏(だいり)外側の諸門の警備、行幸のときの警護、左右京内の巡検などを担当した役所。右の兵衛府。[反対語] 左兵衛府。(学研)

(注)らくえき【絡繹・駱駅】人馬などが次々に続いて絶えないさま。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その282)」で紹介している。

➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 ちょっと脱線するが、「ヨーグルトが蓋にくっつきにくい」ことについて「その282」でも触れたが、もう少し詳しくみてみよう。

 森永乳業HPによると、「ヨーグルトがつきにくいフタの開発をするにあたって、構造を参考にした植物、それは、「蓮の葉っぱ」です。蓮の葉を拡大して見てみると、その表面が小さなデコボコ構造になっています。その小さなデコボコが、水をはじき、葉の表面についた水はコロコロと丸まった水滴になり濡れることがないのです。」と書かれている。

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 森永乳業HPから引用させていただきました。

 

さらに「その仕組みを取り入れて開発されたのが「TOYAL LOTUS®」という新素材。これがビヒダスヨーグルトのフタの正体です。その名の通り、蓮の葉(LOTUS)が水をはじく構造を取り入れたこの素材は、表面をよく見るとデコボコしているんです。そのため、ヨーグルトがついてもすぐに玉のようになってするすると流れ落ち、開けたときにフタ裏にくっつきにくいんです。このフタは、2011年10月からビヒダスヨーグルト4ポットシリーズに使われています。」と書かれている。

近年、昆虫などからも学び様々な技術として確立していくバイオミメティクスが盛んであるが、仕事柄「ロータス効果」を知って感動したのはもう10年も前のことかと時の流れの早さに改めて驚かされたのである。

蓮の葉の水玉の美しさは万葉の時代から変わっていないが。

 

 春日大社神苑萬葉植物園・植物解説板によると、「『はちす』は果実の入った『花托(カタク)』の姿が蜂の巣に似ているので『蜂巣(ハチス)』と呼ばれ、それがなまって『蓮(ハス)』になった。『蓮(ハス)』は多年生の水草で原産地はインドといわれ、インドの国花になっている。(中略)蓮根(レンコン)や種子は食用になり、蓮のほとんど全ての部分が薬に使用され、種子は滋養・強壮作用、蓮根(レンコン)には血を浄化する作用がある。

 『蓮(ハス)』は仏教と深い関わりがあり『泥中の蓮(デイチュウのハチス)』と言う言葉があるが、これは煩悩(ボンノウ)の汚泥(オデイ)の中から菩提(ボダイ)の清浄な花が咲くという意味である。」と書かれている。

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20210715西大寺で撮影

 

 万葉集には「蓮」を詠んだ歌は四首収録されている。この歌を含めこの四首については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その973)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「春日大社神苑萬葉植物園・植物解説板」

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)」

★「森永乳業HP」