万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1246,1247)ー加古川市稲美町 中央公園万葉の森(44)―万葉集 巻六 九二五、巻九 一七四二

―その1246―

●歌は、「ぬばたまの夜の更けゆけば久木生ふる清き川原に千鳥しば鳴く」である。

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加古川市稲美町 中央公園万葉の森(44)万葉歌碑<プレート>(山部赤人

●歌碑は、加古川市稲美町 中央公園万葉の森(44)にある。

 

●歌をみていこう。

 

九二三から九二五歌ならびに九二六から九二七歌のふたつの歌群の題詞は、「山部宿祢赤人作歌二首幷短歌」<山部宿禰赤人が作る歌二首 幷(あは)せて短歌>である。

前の歌群は吉野の宮を讃える長歌反歌二首であり、後の歌群は天皇を讃える長歌反歌一首という構成をなしている。

 

◆烏玉之 夜乃深去者 久木生留 清河原尓 知鳥數鳴

        (山部赤人 巻六 九二五)

 

≪書き下し≫ぬばたまの夜(よ)の更けゆけば久木(ひさぎ)生(お)ふる清き川原(かはら)に千鳥(ちどり)しば鳴く

 

(訳)ぬばたまの夜が更けていくにつれて、久木の生い茂る清らかなこの川原で、千鳥がちち、ちちと鳴き立てている。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)ぬばたまの【射干玉の・野干玉の】分類枕詞:①「ぬばたま」の実が黒いところから、「黒し」「黒髪」など黒いものにかかり、さらに、「黒」の連想から「髪」「夜(よ)・(よる)」などにかかる。②「夜」の連想から「月」「夢」にかかる。 ※「うばたまの」「むばたまの」とも。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注の注)(注)ぬばたま:黒い玉の意で、ヒオウギの花が結実した黒い実をいう。ヒオウギはアヤメ科の多年草で、アヤメのように、刀形の葉が根元から扇状に広がっている。この姿が、昔の檜扇に似ているのでこの名がつけられたという。(「植物で見る万葉の世界」 國學院大學

(注)ひさぎ:植物の名。キササゲ、またはアカメガシワというが未詳。(コトバンク デジタル大辞泉

 

この歌ならびに歌群全般については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その125改)で紹介している。  (初期のブログであるのでタイトル写真には朝食の写真が掲載されていますが、「改」では、朝食の写真ならびに関連記事を削除し、一部改訂いたしております。ご容赦下さい。)

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「ぬばたま」 ヒオウギの実 「みんなの趣味の園芸」(NHK出版HP)より引用させていただきました。

 

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「ひさぎ」 アカメガシワ 「weblio辞書 植物図鑑」より引用させていただきました。

 

山部赤人の歌すべてについてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1149)」で紹介している。

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 これまで見て来た山部赤人の歌碑で最も印象に残っているのは、滋賀県東近江市下麻生 山部神社の明治十二年に建てられた小振りの歌碑である。

 歌は、「春の野にすみれ摘みにと来しわれぞ 野をなつかしみ一夜寝にける」(山部赤人 巻八 一四二四)である。

 これについては、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その417)」で紹介している。

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 これまで見て来た歌碑の中で最も古いのは、「飛鳥川の歌碑」である。碑の裏には「文化2年歳次乙丑夏五月」と記されている。

この歌は、新古今集の巻五、秋歌下に、題しらず柿本人麿として掲載されているもので、この歌の元歌は、万葉集の巻十 二二一〇歌「明日香川もみじ葉流る葛城の山の木の葉は今し散るらむ」である。

この歌碑については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(月読橋番外編)」で紹介している。

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―その1247―

●歌は、「・・・ただひとり い渡らす子は 若草の 夫かあるらむ 橿の実の ひとりか寝らむ・・・」である。

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加古川市稲美町 中央公園万葉の森(45)万葉歌碑<プレート>(高橋虫麻呂

●歌碑は、加古川市稲美町 中央公園万葉の森(45)にある。

 

●歌をみていこう。

 

題詞は、「見河内大橋獨去娘子歌一首并短歌」<河内(かふち)の大橋を独り行く娘子(をとめ)を見る歌一首并(あは)せて短歌>である。

 

◆級照 片足羽河之 左丹塗 大橋之上従 紅 赤裳數十引 山藍用 摺衣服而 直獨 伊渡為兒者 若草乃 夫香有良武 橿實之 獨歟将宿 問巻乃 欲我妹之 家乃不知久

      (高橋虫麻呂 巻九 一七四二)

 

≪書き下し≫しなでる 片足羽川(かたしはがは)の さ丹(に)塗(ぬ)りの 大橋の上(うへ)ゆ 紅(くれなゐ)の 赤裳(あかも)裾引(すそび)き 山藍(やまあゐ)もち 摺(す)れる衣(きぬ)着て ただひとり い渡らす子は 若草の 夫(つま)かあるらむ 橿(かし)の実の ひとりか寝(ぬ)らむ 問(と)はまくの 欲(ほ)しき我妹(わぎも)が 家の知らなく

 

(訳)ここ片足羽川のさ丹塗りの大橋、この橋の上を、紅に染めた美しい裳裾を長く引いて、山藍染めの薄青い着物を着てただ一人渡って行かれる子、あの子は若々しい夫がいる身なのか、それとも、橿の実のように独り夜を過ごす身なのか。妻どいに行きたいかわいい子だけども、どこのお人なのかその家がわからない。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)しなてる 枕 :「かた(片)」にかかる。語義および、かかり方未詳。「しな(階・坂)て(照)る」の意で、山の片面などが段層状になって日が当たっている意からかかるか。

[語誌]語源については諸説があり、定説をみない。「しな」を含む枕詞は、他に「しなざかる」、「しなたつ」、「しなだゆふ」があり、いずれも土地の名と共に用いられているため、「しな」が土地の様相を示す語であることは確かであろう。しかし、例えば、「奈良」に冠する「あをによし」、「難波」に冠する「おしてる」のように、ひとつの地名と密接な繋がりをもってはいない。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典) 

(注)片足羽川(かたしはがわ):大和川が龍田から河内へ流れ出たあたりの名か。

(注)さにぬり【さ丹塗り】名詞:赤色に塗ること。また、赤く塗ったもの。※「さ」は接頭語。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)くれないの【紅の】[枕]① 色の美しく、浅い意から、「色」「あさ」にかかる。② 紅花の汁の染料を「うつし」といい、また、紅を水に振り出して染め、灰汁(あく)で洗う意から、「うつし」「ふりいづ」「飽く」などにかかる。

(注)やまあい【山藍】:トウダイグサ科多年草。山中の林内に生える。茎は四稜あり、高さ約40センチメートル。葉は対生し、卵状長楕円形。雌雄異株。春から夏、葉腋ようえきに長い花穂をつける。古くは葉を藍染めの染料とした。(コトバンク 三省堂大辞林 第三版)

(注)わかくさの【若草の】分類枕詞:若草がみずみずしいところから、「妻」「夫(つま)」「妹(いも)」「新(にひ)」などにかかる。(学研)

(注)かしのみの【橿の実の】の解説:[枕]樫の実、すなわちどんぐりは一つずつなるところから、「ひとり」「ひとつ」にかかる。(goo辞書)

(注)問はまくの欲しき我妹:妻問いしたいかわいい人。マクはムのク語法。

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1033)」で紹介している。

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 高橋虫麻呂の人となりについてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1137)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「コトバンク 三省堂大辞林 第三版」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典

★「goo辞書」

★「みんなの趣味の園芸」(NHK出版HP)

★「weblio辞書 植物図鑑」