万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1248,1249)―加古川市稲美町 中央公園万葉の森(46、47)ー万葉集 巻七 一一一八、巻二十 四三五二

―その1248-

●歌は、「いにしへにありけむ人も我がごとか三輪の檜原にかざし祈りけむ」である。

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加古川市稲美町 中央公園万葉の森(46)万葉歌碑<プレート>(柿本人麻呂歌集)

●歌碑は、加古川市稲美町 中央公園万葉の森(46)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆古尓 有險人母 如吾等架 弥和乃檜原尓 挿頭折兼

        (柿本人麻呂歌集 巻七 一一一八)

 

≪書き下し≫いにしへにありけむ人も我がごとか三輪の檜原にかざし折けむ

 

(訳)遠く過ぎ去った時代にここを訪れた人も、われわれのように、三輪の檜原(ひはら)で檜の枝葉を手折って挿頭(かざし)にさしたことであろうか。(伊藤 博著「萬葉集 二」角川ソフィア文庫より)

(注)かざし折けむ:生命力を身につけるため、檜の枝を髪にさしたであろうか。

(注の注)かざし【挿頭】名詞:花やその枝、のちには造花を、頭髪や冠などに挿すこと。また、その挿したもの。髪飾り。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 古代の人は、成長する植物に威大な生命力を感じ、呪力がこもっていると信じていた。祭りなどに参加する人たちは、精進潔斎し、種々の植物の挿頭(黄葉・梅・萩・あざさ・桜・柳・藤など)、蘰(菖蒲草・青柳・桜・稲穂・橘など)をつけて参加した。

 

 万葉集には、「檜原」が詠まれたのは六首、「檜乃嬬手」「檜山」「檜橋」の形で三首が収録されている。この歌を含めこの九首についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1124)」で紹介している。

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 奈良県桜井市三輪には「檜原神社(ひばらじんじゃ)」がある。桜井市HPには同神社について、「本殿はなく、三輪山御神体とし、昭和40年10月に復元の三ツ鳥居が玉垣内にある。西に続く檜原台地は大和国中を一望する絶好の地として知られ、春分秋分の頃、神社の正面に見える二上山に夕日が沈む様子は、幻想的である。」と書かれている。

 檜原神社についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その73改)」で紹介している。(初期のブログであるのでタイトル写真には朝食の写真が掲載されていますが、「改」では、朝食の写真ならびに関連記事を削除し、一部改訂いたしております。ご容赦下さい。)

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―その1249―

●歌は、「道の辺の茨のうれに延ほ豆のからまる君をはかれか行かむ」である。

 

●歌碑は、加古川市稲美町 中央公園万葉の森(47)にある。

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加古川市稲美町 中央公園万葉の森(47)万葉歌碑<プレート>(丈部鳥)



●歌をみていこう。

 

◆美知乃倍乃 宇万良能宇礼尓 波保麻米乃 可良麻流伎美乎 波可礼加由加牟

        (丈部鳥 巻二十 四三五二)

 

≪書き下し≫道の辺(へ)の茨(うまら)のうれに延(は)ほ豆(まめ)のからまる君をはかれか行かむ

 

(訳)道端の茨(いばら)の枝先まで延(は)う豆蔓(まめつる)のように、からまりつく君、そんな君を残して別れて行かねばならないのか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)上三句は序。「からまる」を起こす。

(注)うまら【茨・荊】名詞:「いばら」に同じ。※上代の東国方言。「うばら」の変化した語。(学研)

(注)うれ【末】名詞:草木の枝や葉の先端。「うら」とも。

(注)「延(は)ほ」:「延(は)ふ」の東国系

(注)君:男から女に対する愛称は「妹」、「子」であり、女から男への敬称として「君」が、愛称としては「背」が使われるので、この場合は、「からまる君」とあるので、この防人として任につく作者が仕えていた屋敷の若様と思われる。

 

左注は、「右一首天羽郡上丁丈部鳥」<右の一首は天羽(あまは)の郡(こほり)上丁(じやうちゃう)丈部鳥(はせつかべのとり)

(注)天羽郡:千葉県富津市南部一帯

 

 「うまら」は、いばらの古語で、棘あるものの総称。「道の辺のうまら」と詠まれていることからノイバラと考えられている。

(注)ノイバラの特徴:千葉県野田市HP「草花図鑑」には次のように書かれている。「河川敷や水辺に普通に見られる落葉低木です。地下茎を張り巡らせてどんどん増えていくため、あたり一面の群生となることもしばしばです。特に河川敷では『ノイバラ群落』と呼ばれるノイバラを中心とした植生によって構成される環境も見られます。

よく枝分かれをしながら2メートルから3メートルほどになりますが、枝はそれほど太くないため、成長とともに次第にしなだれていきます。もたれかかったり、地を這うようにのびたりすることもしばしばです。枝には鋭い刺があり、うかつにさわると痛い思いをします。」

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「うまら」 ノイバラ:「草花図鑑」千葉県野田市HPより引用させていただきました。

 万葉集では「うまら」として詠われているのは、この一首のみである。「茨(うばら)」と詠われているのも次の一首のみである。

 こちらもみてみよう。

 

題詞は、「忌部首詠數種物歌一首 名忘失也」<忌部首(いむべのおびと)、数種の物を詠む歌一首 名は、忘失(まうしつ)せり>である。

 

◆枳 棘原苅除曽氣 倉将立 尿遠麻礼 櫛造刀自

       (忌部黒麻呂 巻十六 三八三二)

 

≪書き下し≫からたちの茨(うばら)刈り除(そ)け倉(くら)建てむ屎遠くまれ櫛(くし)造る刀自(とじ)

 

(訳)枳(からたち)の痛い茨(いばら)、そいつをきれいに刈り取って米倉を建てようと思う。屎は遠くでやってくれよ。櫛作りのおばさんよ。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)まる【放る】他動詞:(大小便を)する。(学研)

 

 この歌にならびに万葉時代のトイレについてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1227)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「萬葉集相聞の世界」 伊藤 博 著 (塙書房

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「草花図鑑」 (千葉県野田市HP)

★「桜井市HP」