万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1337,1338)―島根県江津市島の星町 高角山公園、高角山公園展望台―万葉集 巻二 一三二、一三三

―その1337―

●歌は、「石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか」である。

 

●歌碑は、島根県江津市島の星町 高角山公園にある。

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島根県江津市島の星町 高角山公園<人丸神社横>万葉歌碑(柿本人麻呂

●歌をみていこう。

 

◆石見乃也 高角山之 木際従 我振袖乎 妹見都良武香

      (柿本人麻呂 巻二 一三二)

 

≪書き下し≫石見(いはみ)のや高角山(たかつのやま)の木の間より我(わ)が振る袖を 妹見つらむか

 

(訳)石見の、高角山の木の間から名残を惜しんで私が振る袖、ああこの袖をあの子は見てくれているであろうか。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)高角山:角の地の最も高い山。妻の里一帯を見納める山をこう言った。(伊藤脚注)

(注)我が振る袖を妹見つらむか:最後の別れを惜しむ所作。(伊藤脚注)

(注)つらむ 分類連語:①〔「らむ」が現在の推量の意の場合〕…ているだろう。…たであろう。▽目の前にない事柄について、確かに起こっているであろうと推量する。②〔「らむ」が現在の原因・理由の推量の意の場合〕…たのだろう。▽目の前に見えている事実について、理由・根拠などを推量する。 ⇒なりたち 完了(確述)の助動詞「つ」の終止形+推量の助動詞「らむ」(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは①の意

(注の注)「妹見つらむか」に作者の興奮した気持ちが表れている。(学研)

 

この歌は、題詞、「柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首并短歌」<柿本朝臣人麻呂、石見(いはみ)の国より妻に別れて上(のぼ)り来(く)る時の歌二首并(あは)せて短歌>の反歌二首の一首である。

 

この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1271)」で紹介している。

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 公園に車を停めた時にほどなく来られたミニバンとオートバイのお二人は、人麻呂像の脇の山道を上って行かれた。展望台への道はあそこだと見当をつける。

 公園内には鳥居があり、小さな祠が祀られている。これが人丸神社である。

 鳥居に向かって左手方向に歌碑が建てられている。

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高角山公園内の人丸神社

 右手方向には、「島の星山・高角山万葉公園歌碑」と「万葉銅像建立の由来」の説明案内板が二つ建てられている。

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「島の星山・高角山万葉公園歌碑」説明案内板

 「島の星山・高角山万葉公園歌碑」説明案内板には、歌碑は、昭和四十八年四月に建立され、碑文は、元九州大学教授高木市之助氏揮毫によるものである。NHKの番組で当地江津の万葉を紹介し万葉ファンの来江が増えたという「ご縁」で建立に至った旨が書かれている。

 

 次の目標は、高角山公園展望台の歌碑である。

 

 

 

―その1338―

●歌は、「笹の葉はみ山もさやにさやけども我は妹思ふ別れ来ぬれば」である。

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島根県江津市島の星町 高角山公園展望台万葉歌碑(柿本人麻呂

●歌碑は、島根県江津市島の星町 高角山公園展望台にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆小竹之葉者 三山毛清尓 乱友 吾者妹思 別来礼婆

        (柿本人麻呂 巻二 一三三)

 

≪書き下し≫笹(ささ)の葉はみ山もさやにさやげども我(わ)れは妹思ふ別れ来(き)ぬれば

 

(訳)笹の葉はみ山全体にさやさやとそよいでいるけれども、私はただ一筋にあの子のことを思う。別れて来てしまったので。(同上)

(注)「笹(ささ)の葉はみ山もさやにさやげども」は、高角山の裏側を都に向かう折りの、神秘的な山のそよめき(伊藤脚注)

(注の注)ささのはは…分類和歌:「笹(ささ)の葉はみ山もさやに乱るとも我は妹(いも)思ふ別れ来(き)ぬれば」[訳] 笹の葉は山全体をざわざわさせて風に乱れているけれども、私はひたすら妻のことを思っている。別れて来てしまったので。 ⇒鑑賞長歌に添えた反歌の一つ。妻を残して上京する旅の途中、いちずに妻を思う気持ちを詠んだもの。「乱るとも」を「さやげども(=さやさやと音を立てているけれども)」と読む説もある。(学研)

(注)さやに 副詞:さやさやと。さらさらと。(学研)

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1272)」で紹介している。

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 江津市HP「高角山公園展望台の歌碑巡り」には、「人丸神社の歌碑がある高角山公園内の高手に、日本海に注ぐ江の川と屋上の山(室神山)を望むことができる展望台が整備されています。この展望台に平成24年9月歌碑が建立されました。碑文は奈良女子大学名誉教授坂本信幸先生の筆によるものです。」と書かれている。

 (注)屋上の山(室神山):巻二 一三五歌に「屋上の山(室上山)」が詠われている。

 一三五歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1332)」で紹介している。

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 先ほどお二人が上って行かれた人麻呂像の山道に入って行く。すぐ二手に分かれているが、展望台とあるから急な坂道を選ぶ。お二人の声は下の方から聞こえてくる。もう一方の道を行かれたのだろう。

 ほどなく展望台に至る。時折小雨がパラつく。晴れていれば遠く「尾上の山」もすっきりと見えたであろう。

 展望台の歌碑を撮影し、「笹の葉はみ山もさやにさやげども」の雰囲気をちらっと味わいながらクマザサの坂道を下りる。

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展望台への径

 車に戻った時にお二人も戻ってこられた。折角来たのでもう一度銅像と歌碑を見ておこうと、歩きはじめた時に、オートバイの方が説明してあげるよって声をかけていただいたのである。

 人丸神社の前あたりでは、小さいながら公園もここまで拡張してきたと熱く語られる。

 そして人麻呂の像のすぐ傍まで上って行き、依羅娘子が見ていないかと必死で探すシチュエーションであるとお話しいただき、眼前の木々の枝葉が遮りイメージを損なっているので、先ほどのミニバンの江津市役所の方に、木々の剪定やさらなる公園内の整備をお願いしていたのだという。

 一通り説明を受けた。詳しさと熱い思いに並の人ではないと感じた。

 この上に展望台がありそこにも歌碑があると教えていただいたが、先ほど見てきましたと答えた。

 どういうところを周られるのかとの次なる質問があり、小生が作成した計画書をお見せすると、入念な下調べだとほめていただく。

 そして、江津駅のパレットごうつにも依羅娘子像と歌碑があると教えていただく。ノーチェックであった。

 すると、よかったら案内しますと、バイクの後を付いて来るように言われる。

 何という親切な方であろう。

 先導していただき、パレット江津に到着。

 歌碑と依羅娘子の像、公園の像からみれば小振りではあるが、凛と佇んでいる。

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パレットごうつ 依羅娘子の像

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「江津市HP」