万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1347 表①~⑤)―小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)万葉歌碑(2の表)―万葉集 巻十九 四一四二、四一四三、四一五一、四一五二、四一五九

 歌碑(表)には、五首が刻されている。

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小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)万葉歌碑(2の表)

 

―その1347(表①)―

●歌は、「春の日に萌れる柳を取り持ちて見れば都の大道し思ほゆ」である。

 

●歌碑は、小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)(2の表①)にある。

 

●歌をみていこう。

 

 題詞は、「二日攀柳黛思京師歌一首」<二日に、柳黛(りうたい)を攀(よ)ぢて京師(みやこ)を思ふ歌一首>である。

(注)りうたい【柳黛】〘名〙: (「黛」は眉墨) 柳の葉のように細く美しい眉。柳眉(りゅうび)。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

 

◆春日尓 張流柳乎 取持而 見者京之 大路所念

      (大伴家持 巻十九 四一四二)

 

≪書き下し≫春の日に萌(は)れる柳を取り持ちて見れば都の大道(おほち)し思ほゆ

 

(訳)春の昼日中(ひるひなか)に、芽吹いている柳の枝を、手に取り持って、しげしげ見ると、奈良の都の大路がまざまざと思いだされる。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

 

 

―その1347(表②)―

●歌は、「もののふの八十娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花」である。

 

●歌碑は、小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)(2の表②)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆物部乃 八十▼嬬等之 挹乱 寺井之於乃 堅香子之花

     (大伴家持 巻十九 四一四三)

     ※▼は「女偏に感」⇒「▼嬬」で「をとめ」

 

≪書き下し≫もののふの八十(やそ)娘子(をとめ)らが汲(う)み乱(まが)ふ寺井(てらゐ)の上の堅香子(かたかご)の花

 

(訳)たくさんの娘子(おとめ)たちが、さざめき入り乱れて水を汲む寺井、その寺井のほとりに群がり咲く堅香子(かたかご)の花よ。(同上)

(注)もののふの【武士の】分類枕詞:「もののふ」の「氏(うぢ)」の数が多いところから「八十(やそ)」「五十(い)」にかかり、それと同音を含む「矢」「岩(石)瀬」などにかかる。また、「氏(うぢ)」「宇治(うぢ)」にもかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その823)」で紹介している。

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―その1347(表③)―

●歌は、「今日のためと思ひて標めしあしひきの峰の上の桜かく咲きにけり」である。

 

●歌碑は、小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)(2の表③)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆今日之為等 思標之 足引乃 峯上之櫻 如此開尓家里

     (大伴家持 巻十九 四一五一)

 

≪書き下し≫今日(けふ)のためと思ひて標(し)めしあしひきの峰(を)の上(うえ)の桜かく咲きにけり

 

(訳)今日の宴のためと思って私が特に押さえておいた山の峰の桜、その桜は、こんなに見事に咲きました。(同上)

(注)しるす【標す】他動詞:目印とする。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

宴席から桜が見えるのでこのように詠ったのであろう。

 

 

―その1347(表④)―

●歌は、「奥山の八つ峰の椿つばらかに今日は暮らさねますらをの伴」である。

 

●歌碑は、小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)(2の表④)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆奥山之 八峯乃海石榴 都婆良可尓 今日者久良佐祢 大夫之徒

      (大伴家持 巻十九 四一五二)

 

≪書き下し≫奥山の八(や)つ峰(を)の椿(つばき)つばらかに今日は暮らさねますらをの伴(とも)

 

(訳)奥山のあちこちの峰に咲く椿、その名のようにつばらかに心ゆくまで、今日一日は過ごしてください。お集まりのますらおたちよ。(同上)

(注)やつを【八つ峰】名詞:多くの峰。重なりあった山々。(学研)

(注)つばらかなり 「か」は接尾語>つばらなり【委曲なり】形容動詞:詳しい。十分だ。存分だ。(学研)

 

四一五一歌ならびにこの四一五二歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その827)」で紹介している。

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―その1347(表⑤)―

●歌は、「磯の上のつままを見れば根を延へて年深くあらし神さびにけり」である。

 

●歌碑は、小矢部市蓮沼 万葉公園(源平ライン)(2の表⑤)にある。

 

●歌をみていこう。

 

 題詞は、「過澁谿埼見巌上樹歌一首  樹名都萬麻」<澁谿(しぶたに)の埼(さき)を過ぎて、巌(いはほ)の上(うへ)の樹(き)を見る歌一首   樹の名はつまま>である。

 

◆礒上之 都萬麻乎見者 根乎延而 年深有之 神佐備尓家里

      (大伴家持 巻十九 四一五九)

 

≪書き下し≫磯(いそ)の上(うへ)のつままを見れば根を延(は)へて年深くあらし神(かむ)さびにけり

 

(訳)海辺の岩の上に立つつままを見ると、根をがっちり張って、見るからに年を重ねている。何という神々しさであることか。(同上)

(注)としふかし【年深し】( 形ク ):何年も経っている。年老いている。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)あらし 分類連語:あるらしい。あるにちがいない。 ※なりたち ラ変動詞「あり」の連体形+推量の助動詞「らし」からなる「あるらし」が変化した形。ラ変動詞「あり」が形容詞化した形とする説もある。(学研)

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高岡市太田のつまま公園の歌碑 安政五年(1858年)建立

この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その867)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「万葉歌碑めぐりマップ」 (高岡地区広域圏事務組合)