万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1704、1705)―滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(1,2)―万葉集 巻八 一五三二、一五三三

―その1704―

●歌は、「草枕旅行く人も行き触れ場にほひぬべくも咲ける萩かも」である。

滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(1)万葉歌碑(笠金村)

●歌碑は、滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(1)にある。

 

●歌をみていこう。

 

草枕 客行人毛 往觸者 尓保比奴倍久毛 開流芽子香聞  

     (笠金村 巻八 一五三二)

 

≪書き下し≫草枕(くさまくら)、旅行く人も行き触(ふ)ればにほひぬべくも咲ける萩(はぎ)かも

 

(訳)旅行く人が行ずりに触れでもしたら、着物に色が染まってしまうばかりに、咲き乱れている萩の花よ。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)くさまくら【草枕】分類枕詞:旅にあっては草を結んで枕とし、夜露にぬれて仮寝をしたことから「旅」「旅寝」や同音の「度(たび)」、地名の「多湖(たご)」、草の枕を「結(ゆ)ふ」から「夕(ゆふ)」、夜露にぬれるから「露」、仮寝から「かりそめ」などにかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。 ここでは②の意。(学研)                  

 

 

 

―その1705―

●歌は、「伊香山野辺に咲きたる萩見れば君が家なる尾花し思ほゆ」である。

滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(2)万葉歌碑(笠金村)

●歌碑は、滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(2)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆伊香山 野邊尓開者 芽子見者 公之家有 尾花之所念

            (笠金村    巻八 一五三三)

 

≪書き下し≫伊香山(いかごやま)野辺(のへ)に咲きたる萩見れば君が家なる尾花(をばな)し思ほゆ

 

(訳)伊香山、この山の野辺に咲いている萩を見ると、あなた様のお屋敷の尾花が思い出されます。(同上)

 

 一五三二、一五三三歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その403)」で紹介している。

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 昨日、コロナワクチンの4回目接種を受けた。朝からダル重状態。朝食を済ませてから少し横になったのだが、気が付いてみたら14時を回っている。副反応は今までのなかで一番きつい。

 ちょうど、リービ秀雄氏の「英語でよむ万葉集」(岩波新書)が届いた。目次に目を通すと、「枕詞は、翻訳ができるのか」という文字が飛び込んできた。

 氏も「現代の日本語の読者にとっても、分かるようでじつはよく分からない、呪術の響きをもった、まさにこの島国の古代に独自のものなのだ。」と書いておられる。

 「草枕、旅にしあれば・・・」は、「草を枕にして、旅の途上にいるのだから」「on a journey,with grass for pillow」、「旅」はいつも「草枕 旅」なのだ、と言いきっておられる。

 「旅は、京(みやこ)を離れた旅であり、たとえ実際には集団で移動した場合でも、表現としては一人旅となり、淋しさの発見の場ともなる。travelというよりもjourney、さらには、離れて動くことを暗示するsojournと言いたい。」

 様々なアプローチをへて万葉集が解明されていくのはすばらしいことである。素人なりにアンテナを張り巡らせていきたいものである。

 朴炳植氏は「万葉集の発見」(学研)のなかで、「旅に出たからといって、いつも山野に寝るわけではない。『草』の語源は、『ク=悪い・何でもないもの、サ=草』つまり『雑草』ということである。・・・『屁』を『クサイ(臭い)』というのは『クハン→クサイ(ハ行→サ行変化。・・・)つまり『悪い』ということなのである。・・・『草枕』が『旅』にかかる理由は、『ちゃんとした枕がないから、手あたり次第の何でも枕の代わりにする』という意味からなのである。』

 庭の草抜きなどしていると大きな山ができる。これを布などで巻いたら枕にはなる。今の世は、枕にこだわりを持つ人が多いが、万葉びとのたくましさが「草枕」でも伝わって来る。

 

 

 賤ヶ岳山頂の歌碑は、冬季はリフトが運休となるため行けないし、場所的にわざわざ感が強いこともあり、今まで行ってなかったのである。今回の「訳アリ歌碑巡り」に組み込みようやく実現したのである。

 腰の悪い家内は、リフトは無理だというので、下で待つことに。往復切符(900円)を買い求めいざ頂上へ。リフトに乗るのも何年ぶりだろう。6分ほど揺られながら足元の山肌の植物を楽しむ。

 リフトを下り、山頂へのきつめの道を上る。間もなく左手に笠金村の一五三三歌の歌碑があった。そこからは、眼下に奥びわ湖が遠望できたのである。

びわ湖遠望

そこから少し上った右手に一五三二歌の歌碑が建てられていた。

歌碑と山頂を望む

山頂は目の前であるが、家内を待たせるわけにはいかないので引き返したのである。

リフトに往復乗ったので、うちわをお土産にいただいた。

 

高速を使わず、琵琶湖湖岸の地道をはしり琵琶湖の光景に酔いしれたのである。道の駅もはしごをし、いろいろと地場の産物を仕入れて帰ったのである。万葉歌碑巡りの御利益か。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「万葉集の発見」 朴 炳植 著(学研)

★「英語でよむ万葉集」 リービ秀雄 著 (岩波新書