万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1784)―橿原市南浦町 香具山―万葉集巻一 二

●歌は、「大和には群山あれどとりよろふ天の香具山登り立ち国見をすれば・・・」である。

橿原市南浦町 香具山万葉歌碑(舒明天皇

●歌碑は、橿原市南浦町 香具山にある。

 

●歌をみていこう。

 

標題は、「高市岡本宮御宇天皇代  息長足日廣額天皇」<高市(たけち)の岡本(をかもと)の宮に天の下知らしめす天皇の代  息長足日広額(おきながたらしひひろぬか)の天皇(すめらみこと)>である。

(注)岡本:奈良県高市郡明日香村岡寺付近(伊藤脚注)

(注)息長足日広額の天皇:三四代舒明天皇(伊藤脚注)

題詞は、「天皇登香具山望國之時御製歌」<天皇(すめらみこと)、登香具山(かぐやま)に登りて国を望(み)たまふ時の御製歌>である。

 

◆山常庭 村山有等 取與呂布 天乃香具山 騰立 國見乎為者 國原波 煙立龍 海原波 加萬目立多都 怜A國曽 蜻嶋 八間跡能國者

       (舒明天皇 巻一 二)

 

≪書き下し≫大和(やまと)には 群山(むらやま)あれど とりよろふ 天(あめ)の香具山 登り立ち 国見(くにみ)をすれば 国原くにはら)は 煙(けぶり)立ち立つ 海原(うなはら)は 鷗(かまめ)立ち立つ うまし国ぞ 蜻蛉島(あきづしま) 大和の国は                        

(訳)大和には群がる山々があるけれども、中でも精霊のとりわけ神々しくよりつく天の香具山、この山の頂きに出で立って国見をすると。国原にはけむりが盛んに立ち上っている。海原にはかもめが盛んに飛び立っている。ああよい国だ。蜻蛉(あきず)島大和の国は。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)とりよろふ 自動詞:天(あま)の香具山(かぐやま)をほめていう語。 ※用例が引用した歌の一例しかなく、語義未詳の語。上代語。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注の注)とりよろふ:精霊の神々しくよりつく意か。(伊藤脚注)

(注)海原は 鷗立ち立つ海原:池を海に、池辺の水鳥を鷗に見立てたもの。(伊藤脚注)

(注)うまし【甘し・旨し・美し】(シク活用):すばらしい。立派だ。よい。 ⇒参考:中古以降ク活用が一般的になった。上代には、シク活用は、用例(うまし国)のように、語幹(終止形と同形)が体言を修飾した。(学研)

(注)あきづしま【秋津島蜻蛉島】分類枕詞:「やまと(大和・日本)」にかかる。「あきづしま大和」(学研)

神野志隆光氏は、その著「万葉集をどう読むか―歌の『発見』と漢字世界」(東京大学出版会)のなかで、この歌について、「歌によって(天皇の)世界をことほぐものです。」と書かれ、「『うまし国そ蜻嶋大和の国は』と結ばれます。」「天皇の世界『やまとの国』」は、歌のことばの力がはたらき、意味をもつものだということをあらわすはじまりかたといえます。そのように、自分たちの世界をあらわしだし、つくるというべきです。」と書かれている。

 そして、雄略天皇の巻一 一歌(万葉集の冒頭歌)について、「天皇は、『そらみつやまとの国』の支配者として名乗り出ます。」「春を背景に、求婚のかたちをとって、天皇が、世界を支配する王たることを宣言する歌」と書かれている。さらに「そうした歌とともにあった、独自な分明世界として、(万葉集の)『歴史』世界と、その先頭に立つ雄略天皇があらわれてくるとうけとられます。」とされている。

歌の解説案内板

大和三山」碑と歌碑




 雄略天皇の一歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その95改)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

橿原市HP「かしはら探訪ナビ」の「香具山」について「平成17年に名勝指定された大和三山(やまとさんざん)と呼ばれる香具山(かぐやま)・畝傍山(うねびやま)・耳成山(みみなしやま)のうちの1つです。

標高152.4m。万葉集では『天香具山』(あまのかぐやま)と詠われて、山というよりは丘の印象が強い南から続く竜門山地の先端部分に連なる山です。

山塊は、閃緑岩や斑レイ岩などの堅い岩石で構成されているため浸食の度合いが低かったようです。

大和三山の中で、最も神聖視されています。『天の』を冠するのは、天から降り来た山と言われていますが、その山の位置や山容が古代神事にふさわしいゆえに、あがめられたものだとも思われています。

山中には南に天岩戸神社(あまのいわとじんじゃ)、北に天香山神社(あまのかぐやまじんじゃ)、さらに国常立神社(くにのとこたちじんじゃ)があり、それらが一種の霊気のようなものを発散させています。(後略)」と書かれている。

 

 

■吉備池廃寺跡→天香具山・天香山(あまのかぐやま)神社■

 天香具山・天香山(あまのかぐやま)神社に行くのは、前回「香具山観光トイレ駐車場」に車を停めて、そこから歩いて行った事を思いだした。

駐車場からは結構きつい上りであったことを家内も覚えており、今回は車で待機することに。

 傘をさして香具山万葉歌碑を目指す。息が切れる。体力が落ちていることを実感する。短い距離であるが、やっとの思いで歌碑と肩で息をしながら再会する。

 そして山道を天香山神社に向かったのである。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「万葉集をどう読むか―歌の『発見』と漢字世界」 神野志隆光 著 (東京大学出版会

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「橿原市HP」