万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1790)―愛媛県西予市 三滝公園万葉の道(1)―万葉集巻五 八〇二、八〇三

●歌は、「瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆいづくより来りしものぞまなかひにもとなかかりて安寐し寝さぬ(八〇二歌)」と、

「銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも(八〇三歌)」である。

愛媛県西予市 三滝公園万葉の道(1)万葉歌碑(山上憶良

●歌碑は、愛媛県西予市 三滝公園万葉の道(1)にある。

 

●歌をみていこう。                           

 

 題詞は、「子等(こら)を思ふ歌一首 幷せて序」である。

 

◆序◆

釈迦如来金口正説 等思衆生如羅睺羅 又説 愛無過子 至極大聖尚有愛子之心 况乎世間蒼生誰不愛子乎<釈迦如来(しゃかにょらい)、金口(こんく)に正(ただ)に説(と)きたまはく、「等(ひと)しく衆生(しうじゃう)を思うこと羅睺羅(らごら)のごとし」と。また、説きたまはく、「愛は子に過ぎたることなし」と。至極(しごく)の大聖(たいせい)すらに、なほ子を愛したまふ心あり。いはむや、世間(せけん)の蒼生(そうせい)、誰れか子を愛せずあらめや>である。

 

(序の訳)釈尊が御口ずから説かれるには、「等しく衆生を思うことは、我が子羅睺羅(らごら)を思うのと同じだ」と。しかしまた、もう一方で説かれるには、「愛執(あいしゅう)は子に勝るものはない」と。この上なき大聖人でさえも、なおかつ、このように子への愛着に執(とら)われる心をお持ちである。ましてや、俗世の凡人たるもの、誰が子を愛さないでいられようか。(同上)

(注)こんく【金口】〘仏〙:釈迦の口や、その言葉を敬っていう語。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)羅睺羅(らごら):釈迦の出家以前の一子。

(注)そうせい【蒼生】:多くの人々。庶民。国民。あおひとぐさ。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

◆宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯堤葱斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尓 母等奈可利堤 夜周伊斯奈佐農

     (山上憶良 巻五 八〇二)

 

≪書き下し≫瓜食(うりはめ)めば 子ども思ほゆ 栗(くり)食めば まして偲(しの)はゆ いづくより 来(きた)りしものぞ まなかひに もとなかかりて 安寐(やすい)し寝(な)さぬ

 

(訳)瓜を食べると子どもが思われる。栗を食べるとそれにも増して偲(しの)ばれる。こんなにかわいい子どもというものは、いったい、どういう宿縁でどこ我が子として生まれて来たものなのであろうか。そのそいつが、やたら眼前にちらついて安眠をさせてくれない。(同上)

(注)まなかひ【眼間・目交】名詞:目と目の間。目の辺り。目の前。 ※「ま」は目の意、「な」は「つ」の意の古い格助詞、「かひ」は交差するところの意。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)もとな 副詞:わけもなく。むやみに。しきりに。 ※上代語。(学研)

(注)やすい【安寝・安眠】名詞:安らかに眠ること。安眠(あんみん)。 ※「い」は眠りの意(学研)

 

◆銀母 金母玉母 奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母

       (山上憶良 巻五 八〇三)

 

≪書き下し≫銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに)まされる宝子にしかめやも

 

(訳)銀も金も玉も、どうして、何よりすぐれた宝である子に及ぼうか。及びはしないのだ。(同上)

(注)なにせむに【何為むに】分類連語:どうして…か、いや、…ない。▽反語の意を表す。 ※なりたち代名詞「なに」+サ変動詞「す」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形+格助詞「に」(学研)

 (注)しかめやも【如かめやも】分類連語:及ぼうか、いや、及びはしない。※なりたち動詞「しく」の未然形+推量の助動詞「む」の已然形+係助詞「や」+終助詞「も」(学研)

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1508)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 9月20、21日に愛媛県万葉歌碑巡りの計画をたてたが、「過去に例がない危険」を伴う台風14号(2022)にやきもきさせられた。進路予報などを参考にしながら最終的に1日ずらせて21、22日に変更した。

 

■自宅→西予市三滝公園万葉の道■

グーグルマップで確認すると現地まで特に閉鎖区間もなく問題はなさそうである。 

 朝3時出発である。三滝渓谷までは約420km、休憩をカウントして7時間30分、10時30分ごろ到着予定である。

淡路島南PAの5時30分頃到着する。そして四国に渡り、香川県府中湖PA到着が7時30分頃と順調な早朝ドライブである。

 ここまでは良かったが、「到着予定が10時26分」となり、あと30分ほどだと思った時、ナビの道と実際の道との感覚のズレからか、結果として道を間違え、到着予定時間が急に11時08分と変更になる。通常は、少し走ればルート検索のあと最短に訂正してくれるはずである。しかし、困ったことに、山道であるので、表示は出るが音声案内はでない。しかもUターンができそうなところがない。

 山の中をしかも台風一過であるから、折れた枝や無数の小枝、葉を踏み分けて進むのである。標識もない。土砂崩れに遭遇しかねない恐れもある。緊張感と不安感から、どっと疲れが吹き出す。

 あとでグーグルマップをトレースしてみると、大きくコースを外れていたのである。土地勘の無さよ。

 結局三滝渓谷の城川自然ロッジ(今は営業していない)に到着したのは11時30分頃であった。1時間のロスタイムである。とにかく無事に着いたのが何よりであった。

三滝渓谷自然公園案内板

三滝渓谷入口案内板

 「万葉の道」は、ロッジ横から「屋根付き橋」までの約300mの小径であり、道の谷川側に歌碑が立てられている。

屋根付き橋

 小径には、枝や木の葉が散乱しており、湧水が径を横切って流れているところも。しかし台風の後にしては、これぐらいの程度で済んでよかったとの思いである。

小枝や落ち葉の散乱する万葉の道(折り返し時撮影)

 ロッジの横を通り小道に入るところに笠女郎の歌碑があった。

あれ?山上憶良の歌碑がない。先達のブログ写真ではそこそこの大きさで写っているので見落すわけがない。振り返って見ると、散乱しているイガ栗が、ここに歌碑がありますよっ、と教えてくれたのである。垣状の木々の足下の歌碑を見落していたのである。

歌は、同じでも、これは愛媛県西予市三滝自然公園万葉の道の歌碑なのである。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「三滝自然公園 万葉の道」 (せいよ城川観光協会