万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1834)―松山市姫原 軽之神社・比翼塚―万葉集 巻一 九〇

●歌は、「君が行き日長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ(軽大郎女)」である。

並んで「天飛ぶ鳥も使ぞ鶴が音の聞えむ時は我が名問はさね(木梨軽太子)古事記」の歌が刻されている。

松山市姫原 軽之神社・比翼塚万葉歌碑(軽太郎女)

●歌碑は、松山市姫原 軽之神社・比翼塚にある。

 

●歌を見てみよう。

 

題詞は、「古事記曰 軽太子奸軽太郎女 故其太子流於伊豫湯也 此時衣通王不堪戀慕而追徃時謌曰」<古事記に曰はく 軽太子(かるのひつぎのみこ)、軽太郎女(かるのおほいらつめ)に奸(たは)く。この故(ゆゑ)にその太子を伊予の湯に流す。この時に、衣通王(そとほりのおほきみ)、恋慕(しの)ひ堪(あ)へずして追ひ徃(ゆ)く時に、歌ひて曰はく>である。

 

◆君之行 氣長久成奴 山多豆乃 迎乎将徃 待尓者不待  此云山多豆者是今造木者也

         (衣通王 巻二 九〇)

 

≪書き下し≫君が行き日(け)長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つにはまたじ ここに山たづといふは、今の造木をいふ

 

(訳)あの方のお出ましは随分日数が経ったのにまだお帰りにならない。にわとこの神迎えではないが、お迎えに行こう。このままお待ちするにはとても堪えられない。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)やまたづの【山たづの】分類枕詞:「やまたづ」は、にわとこの古名。にわとこの枝や葉が向き合っているところから「むかふ」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)みやつこぎ【造木】: ニワトコの古名。(weblio辞書 三省堂大辞林第三版)

(注)軽太子:十九代允恭天皇の子、木梨軽太子。(伊藤脚注)

(注)軽太郎女:軽太子の同母妹。当時、同母兄妹の結婚は固く禁じられていた。(伊藤脚注)

(注)たはく【戯く】自動詞①ふしだらな行いをする。出典古事記 「軽大郎女(かるのおほいらつめ)にたはけて」②ふざける。(学研)

(注)伊予の湯:今の道後温泉

(注)衣通王:軽太郎女の別名。身の光が衣を通して現れたという。(伊藤脚注)                         

 この歌ならびに左注についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その番外200513)」に紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

松山市立子規記念博物館HPの「軽之神社・軽太子の塚」に、「紀元435年のこと、允恭天皇の皇太子木梨軽太子(きなしかるのみこ)は、実妹・軽大郎女(かるのおおいらつめ)と許されない恋におち、太子は伊予の湯に流された。姫は恋しくてたまらず追いかけて来たが、二人はついに、この地で亡くなられた。『古事記』に残る有名な悲恋の物語である。

 その名も『姫原』というこの地には、いつの頃からか、二人を祀った『軽之神社』があり、神社より奥の山裾に二人の塚と言われる比翼塚がある。

 比翼塚の隣には、木梨軽太子の『天飛ぶ鳥も使ぞ鶴が音の聞えむ時は我が名問はさね』(空を飛ぶ鳥は使いだ。鶴が鳴くときは私のことを尋ねてくれ。)と、軽大郎女の『君が行きけ長くなりぬ 山釿の迎へを行かむ 待つには待たじ』(お迎えにまいります。待ちきれません。)を並べて刻んだ歌碑が建立されている。

 なお、『山釿』とは、植物のニワトコのことで、『山釿の』は『迎へ』の詞となっている。」と書かれている。

 

 同HPに、「姫原」、「姫池」、「姫山」、「姫池」など「姫」のついた地名や、軽之神社と比翼塚の略地図が掲載されているので引用させていただきました。


軽之神社は住宅街にあるが、ここだけはタイムスリップしたような趣がある。そこから歩いて比翼塚に向かう。

比翼塚には花が生けられお供えもされている。軽之神社境内にある「軽之神社・軽太子の塚」の説明案内板にあるように、「村の人たちは二人の霊を哀れんで神社を建て」「軽太子と軽大郎女を祀った比翼塚」を代々大切に御守りしてきたのであろう。

 

 

 

■■11月8日鳥取→島根■■

≪旅程≫自宅→鳥取市国府町中郷 因幡国庁跡→同町庁 大伴家持の歌碑→同町町屋 袋川水辺の楽校→同町町屋 因幡万葉歴史館→倉吉市南昭和町 深田公園→倉吉市国府 伯耆国分寺跡→米子市彦名町 米子水鳥公園駐車場→同町 粟嶋神社→島根県松江市 阿太加夜神社→益田市内ホテル

 

■自宅→鳥取市国府町中郷 因幡国庁跡■

 自宅を3時に出発。順調なドライブで、途中での仮眠や休憩も十分にとることができた。7時30分ごろ因幡国庁跡に到着。正殿跡・後殿跡を見て南門跡まで朝の散歩と洒落込む。

因幡国庁跡説明案内板



鳥取市国府町中郷 因幡国庁跡→同町庁 大伴家持の歌碑■

 次は、かねてより是非行って見たいと思い続けていた「大伴家持の歌碑」である。

 因幡万葉歴史館HPに、「大伴家持歌碑(鳥取市指定文化財)」について、次の様に書かれている。

国府町庁(ちょう)の集落の一角に大正11(1922)年9月建立されました。

歌碑には『天平宝字三年春正月一日於因幡国庁賜饗国郡司等之宴歌一首【新年之始乃波都波流能家布敷流由伎能伊夜之家余其騰】(あらたしきとしのはじめのはつはるのきようふるゆきのいやしけよごと)右一首守大伴宿禰家持作之』と、万葉集の最後を飾る大伴家持の歌が刻まれています。この歌には、『新しい年の初めにあたって、きれいな雪が降りつづいている。この雪のように美しい良い年でありますように』という家持の思いが込められています。

また、同地には万葉集の研究家としても著名な歌人・国文学者の佐佐木信綱が詠んだ『ふる雪のいやしけ吉事ここにしてうたひあけけむ 言ほきの歌』の歌碑と、万葉集の中から因幡三山のうちの今木山を詠み込んだともいわれる『藤波の散らまくおしみほととぎす今木の丘を鳴きて越えゆなり』の歌碑が昭和39年に建立されています。

建立年代は違いますが、これら3碑は鳥取市指定文化財となっています。

なお、平成9年には平安時代因幡国司を務めた在原行平の歌碑が近くに建立されました。」

大伴家持の歌碑


 

■同町町屋 袋川水辺の楽校■

 先達のブログには、河川敷公園・水辺の楽校として家持歌(巻20-4516)と作者未詳歌(巻10-1944)の歌碑が紹介されているが、いろいろと検索したがヒットせずじまいであった。因幡万葉歴史館の開場は9時である。時間があるので地図を頼りに現地に行ったのである。「桜づつみ 水辺の楽校」の看板が迎えてくれる。川辺の径には石碑らしいものが点在している。「袋川 水辺の楽校」の石碑があった。(流れている川の名前が袋川であると知ったのは帰宅後の検索による)

 そして万葉集の二基を見つけたのである。

「袋川 水辺の楽校」の碑



■同町町屋 袋川水辺の楽校→同町町屋 因幡万葉歴史館■

 9時前に同館駐車場に到着。ゲートボールを楽しむ方々の車が多数止まっている。これからの予定を考えると、少しでも早く次の予定地に行きたい気持ちに駆られる。ダメもとで、係りの方に事情を話し、お願いをしてみる。有り難いことに万葉歌碑の撮影のみということで許可を頂けたのである。

因幡万葉歴史館



■同町町屋 因幡万葉歴史館→倉吉市南昭和町 深田公園■

 伯耆国守であった山上憶良の歌碑を訪ね倉吉市へ。深田公園はすずかけ通りを長辺とする三角形の形をしており北西コーナーあたりの小山にどっしりとした重厚感のある歌碑が立てられていた。

深田公園万葉歌碑



倉吉市南昭和町 深田公園→倉吉市国府 伯耆国分寺跡■

 グーグルのストリートビューを使って場所を特定しておいたので簡単に見つけることができた。

伯耆国分寺跡万葉歌碑



倉吉市国府 伯耆国分寺跡→米子市彦名町 米子水鳥公園駐車場■

 粟嶋神社の前を通り、米子水鳥公園駐車場へ。何と火曜日が定休日とあり入口にはロープが。場外に車を停め、歌碑を撮影。背後の小山の頂上に粟嶋神社の社殿がある。

米子水鳥公園案内板



米子市彦名町 米子水鳥公園駐車場→同町 粟嶋神社■

 参道を進むと187段の参道石段が見えて来る。万葉歌碑を検索しても歌碑そのものの写真はあるが、場所が特定できない。歌や「静の岩屋」からして、小山を超えた岩屋近くで厳しい所に歌碑があると想像してしまう。社務所には誰もおられず、貼り紙に従って神主さんのご自宅へ厚かましくも万葉歌碑の場所を教えてもらいに行く。品の良い、凛としたなかにやさしさを漂わせるご老婦が出てこられた。何と、案内していただいた歌碑は、参道石段に向かって右手奥に立てられていた。

 折角なので、足腰の悪い家内を下で待たせ、石段を上る。きつい!きつい!

 上りきり息を切らせながら参拝する。

粟島神社参道石段



■同町 粟嶋神社→島根県松江市 阿太加夜神社■

阿太加夜神社・面足山万葉公園案内図

 阿太加夜(あだかや)神社の歌碑は、前回島根県歌碑巡りを行なった時に撮り残した分である。「阿太加夜神社・面足山(おもたりやま)万葉公園案内図」を参考に門部王の歌碑に。実際は車で行こうとしたのであるが、車を停められず、迂回しながらもう一度駐車場に戻り、神社境内からアプローチしたのである。

面足山万葉公園の碑

 

島根県松江市 阿太加夜神社→益田市内ホテル■

 山陰自動車道に入る時に、ナビに従って進入したのであるが、何故か米子に向かっている。安来の出口で事情を話しUターンさせてもらう。初めての経験である。手続きには時間がかかり、後続車が3台ほど待ってくれている。申し訳ない。ご迷惑をおかけいたしました。

 「しまねっこクーポン」をゲットし買い物を楽しみました。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂大辞林第三版」

★「松山市立子規記念博物館HP」