―その1851―
●歌は、「山吹の咲きたる野辺のつほすみれこの春の雨に盛なりけり」である。
●歌碑(プレート)は、松山市御幸町 護国神社・万葉苑(16)にある。
●歌をみていこう。
題詞は、「高田女王歌一首 高安之女也」<高田女王(たかだのおほきみ)が歌一首 高安が女なり>
(注)高田女王は高安王の娘
◆山振之 咲有野邊乃 都保須美礼 此春之雨尓 盛奈里鶏利
(高田女王 巻八 一四四四)
≪書き下し≫山吹(やまぶき)の咲きたる野辺(のへ)のつほすみれこの春の雨に盛(さか)りなりけり
(訳)山吹の咲いている野辺のつぼすみれ、このすみれは、この春の雨にあって、今が真っ盛りだ。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
「やまぶき」を詠んだ歌は、万葉集には十七首収録されている。すべての歌をブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1317)」で紹介している。
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高田女王の今城王に贈った六首についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その90改)」で紹介している。
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―その1852⁻
●歌は、「み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも」である。
●歌をみていこう。
四九六~四九九歌の題詞は、「柿本朝臣人麻呂歌四首」<柿本朝臣人麻呂(かきのもとのあそみひとまろ)が歌四首>である。
◆三熊野之 浦乃濱木綿 百重成 心者雖念 直不相鴨
(柿本人麻呂 巻四 四九六)
≪書き下し≫み熊野の浦の浜木綿(はまゆふ)百重(ももへ)なす心は思(も)へど直(ただ)に逢はぬかも
(訳)み熊野(くまの)の浦べの浜木綿(はまゆう)の葉が幾重にも重なっているように、心にはあなたのことを幾重にも思っているけれど、じかには逢うことができません。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)み熊野の浦:紀伊半島南部一帯。「み」は美称。
(注)はまゆふ【浜木綿】名詞:浜辺に生える草の名。はまおもとの別名。歌では、葉が幾重にも重なることから「百重(ももへ)」「幾重(いくかさ)ね」などを導く序詞(じよことば)を構成し、また、幾重もの葉が茎を包み隠していることから、幾重にも隔てるもののたとえともされる。よく、熊野(くまの)の景物として詠み込まれる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)上三句は「心は思へど」の譬喩
この歌群四首については、和歌山県白浜町 平草原公園にある歌碑とともに、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1187)」で紹介している。
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―その1853―
●歌は、「山越えて遠津の浜の岩つつじ我が来るまでふふみてあり待て」である。
●歌碑(プレート)は、松山市御幸町 護国神社・万葉苑(18)にある。
●歌をみていこう。
◆山超而 遠津之濱之 石管自 迄吾来 含流有待
(作者未詳 巻七 一一八八)
≪書き下し≫山越えて遠津(とほつ)の浜の岩つつじ我(わ)が来(く)るまでふふみてあり待て
(訳)山を越えて遠くへ行くというではないが、その遠津の浜に咲く岩つつじよ、われらが再びここに帰って来るまで蕾(つぼみ)のままでいておくれ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)やまこえて【山越えて】( 枕詞 ):山を越えて遠くの意で、地名「遠津」にかかる。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)
(注)遠津の浜:所在地不明
(注)岩つつじ:岩間に咲くつつじ。土地の娘の譬えであろう。(伊藤脚注)
(注)ふふむ【含む】自動詞:花や葉がふくらんで、まだ開ききらないでいる。つぼみのままである。(学研)
この歌は、和歌山市岩橋 紀伊風土記の丘万葉植物園の歌碑(プレート)とともにブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その719)」で紹介している。
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愛媛万葉苑や紀伊風土記の丘万葉植物園のような「万葉植物園」は全国で何カ所程度あるのか調べてみたいと思った。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』に全国の一覧がまとめられていたので引用させていただきました。(行ったところについては、現地の名称に変更させていただいております)
■東北地方(4)
徳良湖万葉植物園 - 尾花沢市二藤袋
みちのく真野万葉植物園- 南相馬市鹿島区江垂桜平
郡山あだたら万葉植物園(H29 4月閉鎖)、四季の里緑水苑 - 郡山市喜久田町
■関東地方(16)
万葉自然公園かたくりの里 - 栃木県佐野市
万葉植物園、埼玉県 県民健康福祉村 - 埼玉県越谷市北後谷
万葉公園 - 東京都八王子市
万葉植物園- 東京都 国分寺市西元町
万葉植物園、杉並区立向陽中学校 - 東京都杉並区下高井戸
万葉・薬用園、赤塚植物園 - 東京都板橋区赤塚
薬師池公園 萬葉草花苑 - 東京都町田市
万葉植物園- 千葉県 市川市大野町
城山公園 万葉の径 - 千葉県館山市
万葉植物園(通称)、専修大学生田キャンパス - 神奈川県 川崎市多摩区東三田
万葉公園- 神奈川県湯河原町, 松(六990)、梅(五849)、椿、楓(八1623)、歌碑(十四3668)
足柄万葉公園 - 神奈川県 南足柄市関本
足柄万葉森林公園 丸太の森・万葉植物苑 - 神奈川県 南足柄市
■中部地方(19)
万力公園万葉の森[14] - 山梨県山梨市
西浦温泉万葉の小径 - 愛知県蒲郡市
万葉歌碑公園 - 愛知県南知多町
万葉公園 - 愛知県一宮市萩原町
■近畿地方(13)
万葉植物園 万葉の森 - 滋賀県東近江市野口町・糠塚町船岡山
西田公園 万葉植物苑 - 兵庫県西宮市
春日大社 萬葉植物園 - 奈良市春日野町 1932年(昭和7年)開園、日本最初
紀の国萬葉めぐり - 和歌山市
■中国地方(6)
万葉植物園、広島大学附属福山中学校・高等学校 - 福山市春日町
■四国地方(4)
川島万葉植物園 - 吉野川市川島地区
■九州地方(8)
金印公園と志賀島万葉植物歌碑めぐり - 福岡県福岡市
都府楼とつくし万葉歌碑めぐり - 太宰府市
椿の山万葉自然植物園 - 福岡県筑紫野市
万葉のみち、松浦河畔公園 - 唐津市
万葉植物園、早水公園- 宮崎県都城市早水町
リストとして70カ所あげられている。訪れたことのあるのは21カ所(上記太字)である。まだまだ挑戦課題が山積である。
これまでに行ったところを2回に分けて覗いてみよう。
■西浦温泉万葉の小径 - 愛知県蒲郡市
■万葉公園 - 愛知県一宮市萩原町
■万葉植物園 万葉の森 - 滋賀県東近江市野口町・糠塚町船岡山
■西田公園 万葉植物苑 - 兵庫県西宮市
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」