万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1993)―高知県安芸郡東洋町 伏越ノ鼻―万葉集 巻七 一三八七

●歌は、「伏越ゆ行かましものをまもらふにうち濡らさえぬ波数まずして」である。

高知県安芸郡東洋町 伏越ノ鼻万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、高知県安芸郡東洋町 伏越ノ鼻にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆伏超従 去益物乎 間守尓 所打沾 浪不數為而

       (作者未詳 巻七 一三八七)

 

≪書き下し≫伏越(ふしこえ)ゆ行かましものをまもらふにうち濡(ぬ)らさえぬ波数(よ)まずして

 

(訳)いっそ伏越を通ってさっさと行ってしまえばよかったのに。波の様子をうかがっているうちに着物を濡らされてしまった。波の間合いを見はからなかったので。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)伏越:這って越えるような難所の意か。険しい通い路の譬え。(伊藤脚注)

(注に注)ふしこえ【伏越】〘名〙: 立って歩いては越せず、はって越すようなけわしい所。[補注]高知県安芸郡東洋町野根の「伏越の鼻」など、地名としても残っている。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

(注)まもらふ【守らふ】分類連語:見守り続ける。 ※上代語。 ⇒なりたち:動詞「まもる」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注の注)まもらふに:ぐずぐずしているうちに人に知られたの意。(伊藤脚注)

(注)濡らさえぬ:濡らされてしまった。←しらえぬ 【知らえぬ】分類連語:知られた。わかった。 ⇒なりたち:動詞「しる」の未然形+上代の可能・自発の助動詞「ゆ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形(学研)

(注)波数まずして:波の間合いをはからなかったので、訪れる頃合いを誤ったことをいう。(伊藤脚注)

 

 「伏越ノ鼻」に一三八七歌の歌碑が立てられているが、「伏越」と詠まれているからであろう。「伏越ノ鼻」とあるように「伏越」という地名が定着したのはいつの時代なのだろう。これについては、いろいろと検索してみたが有力な手掛かりは得られなかった。

 四国八十八か所巡りのお遍路さんに関するブログや資料は多いが、万葉歌碑に関する情報は少ない。東洋町伏越ノ鼻あたりからゴロゴロ海岸あたりは難所といわれているそうである。難所でも伏して歩くというイメージではない。難所であるから伏越と譬えたのであろうからここ「伏越ノ鼻」に持ってきたのかもしれない。ロマンがある。

ゴロゴロ海岸

 「土佐」に関する歌は、一〇二二歌に「・・・遠き土佐道(とさぢ)を」と詠まれている。一〇一九から一〇二三歌の歌群の題詞には、「石上乙麻呂卿配土左國之時歌三首幷短歌」<石上乙麻呂卿(いそのかみのおとまろのまへつきみ)土佐の国(とさのくに)に配(なが)さゆる時の歌三首 幷せて短歌>とある。

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その761)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

天平宝字元年(757年)に起きた橘奈良麻呂の変に連座して、大伴氏の長老格であった大伴古慈斐は任国(土佐)に配流(はいる)となっている。

 

 

 

 全国旅行支援を利用しない手はない。高知県も周ってみようと調べると高知県独自の交通費支援もある。(この分は、当日発行の宿泊ホテルの証明がいるということで結局恩恵に浴せなかった。)同じ行くならと、前回(11月8~11日)パスした山口県広島県の歌碑巡りもくっつけてみようと次のような計画を立てたのである。

 

■■■11月29日~12月2日 高知県山口県広島県万葉歌碑巡り■■■

■■11月29日高知県■■

≪旅程≫自宅→高知県東洋町 伏越(ふしごえ)の鼻→同奈半利町 奈半利町活性化センター→高知市内ホテル

 

■■11月30日高知県山口県■■

≪旅程≫高知市内ホテル→高知県大豊町 土佐豊永万葉植物園→山口県周南市若草町 周南緑地公園西緑地万葉の森→下松市内ホテル

 

■■12月1日山口県広島県■■

≪旅程≫下松市内ホテル→山口県熊毛郡平生町 佐賀地域交流センター尾国分館→大島郡周防大島町 塩竈神社→同 大多満根神社→岩国市桂野小学校→広島県廿日市市大野高畑 高庭駅家跡→広島市安芸区上瀬野町 万葉歌碑→福山市鞆町 医王寺→福山市内ホテル

 

■■12月2日広島県■■

≪旅程≫福山市内ホテル→自宅

 

 全走行距離1462km。前回の鳥取・島根・山口・岡山コース同様、後期高齢者にとっては結構厳しいドライブとなった。

しかも11月29日の土砂降りの雨には閉口した。

 

 

■自宅→高知県東洋町 伏越(ふしごえ)の鼻■

 ホテルの予約をしてからというもの天気予報は、雨、しかも厳しい予報がなされており一向に変わる気配がなかった。さすがに変更しようと問い合わせると、旅行支援対象であるので旅行代理店経由でないと変更がきかない。宿は空いているようであるが、代理店では枠がないようである。おいしい話には制約があるのは致し方がないことである。

予定通り、11月29日午前3時前に家を出発。淡路ハイウェイオアシスに到着したのは4時30分頃で幸い雨は降っていない。

淡路ハイウェイオアシス観覧車

 

 神戸淡路鳴門自動車道から国道55号線をひた走る。四国に渡ると次第に雨がきつくなる。予報通りである。しかもワイパーを最速にしても前が見えづらいほどの雨である。道路のあちこちが、水浸し状態で車の底を洗車しながら走っている感じである。幸いに高知県東洋町の「伏越ノ鼻」に到着した時だけは不思議に傘がいらない程度になっていた。

室戸阿南海岸国定公園「伏越ノ鼻」



 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「東洋町(公式)インスタグラム」