万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2127)―①-5 奈良県桜井市万葉歌碑(1)―山の辺の道(一)

 桜井市役所 観光まちづくり課発行の「さくらい六街道を巡り歩く」には、山の辺の道、伊勢街道、忍坂街道、多武峯街道、大和長寿道、磐余の道の六街道が紹介されている。

 桜井市の万葉歌碑は六十基を越えているので、主な歌碑は、六街道に沿って、「山の辺の道(一)」、「同(二)」、「伊勢街道・忍坂街道」、「多武峯街道・大和長寿道・磐余の道」の順で紹介していきたい。

 

―山の辺の道(一)―

■山の辺の道景行天皇陵近く万葉歌碑(巻一 一七、一八)■

山の辺の道(景行天皇陵近く)万葉歌碑(額田王) 20190408撮影

◆味酒 三輪乃山 青丹吉 奈良能山乃 山際 伊隠萬代 道隈 伊積萬代尓 委曲毛 見管行武雄 數ゝ毛 見放武八萬雄 情無 雲乃 隠障倍之也

       (額田王 巻一 一七)

 

≪書き下し≫味酒(うまさけ) 三輪(みわ)の山(やま) あをによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠るまで 道の隈(くま) い積(つ)もるまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放(みさ)けむ山を 心なく 雲の 隠さふべしや

 

(訳)神々しき三輪の山よ、この山を、青丹(あおに)よし奈良の山の、山の間に隠れるまでも、道の隈々(くまぐま)が幾曲りに重なるまでも、充分に見ながら行きたいのに、いくたびも見はるかしたい山なのに、つれなくも、雲が隠したりしてよいものか。「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)奈良山:奈良市街地北部一帯の丘陵。平城宮跡の北方を佐紀丘陵、その東を佐保丘陵とよび、奈良坂が通じる。(コトバンク デジタル大辞泉

(注)くま【隈】名詞:①曲がり角。曲がり目。②(ひっこんで)目立たない所。物陰。③辺地。片田舎。④くもり。かげり。⑤欠点。短所。⑥隠しだて。秘密。⑦くまどり。歌舞伎(かぶき)で、荒事(あらごと)を演じる役者が顔に施す、いろいろな彩色の線や模様。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは①の意

(注)つばらなり【委曲なり】形容動詞:詳しい。十分だ。存分だ。つばらに(学研)

(注)しばしば【廔廔】副詞:たびたび。何度も。(学研)

(注)みさく【見放く】他動詞:①遠くを望み見る。②会って思いを晴らす。 ※「放く」は遠くへやる意。上代語。(学研)

 

 反歌もみてみよう。 

 

三輪山乎 然毛隠賀 雲谷裳 情有南敏 可苦佐布倍思哉

         (額田王 巻一 一八)

 

≪書き下し≫三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠そふべしや

 

(訳)ああ、三輪の山、この山を何でそんなにも隠すのか。せめて雲だけでも思いやりがあってほしい。隠したりしてよいものか。よいはずがない。(同上)

(注)しかも【然も】分類連語:①そのようにも。②〔下に「…か」を伴って〕そんなにも(…かなあ)。 ※「も」は係助詞。(学研)ここでは②の意

(注)なも 終助詞:《接続》活用語の未然形に付く。〔他に対する願望〕…てほしい。…てもらいたい。 ※上代語。(学研)

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感想(1件)

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その45改)」で紹介している。

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 次の相撲神社ならびに穴師坐兵主神社は、厳密にいえば、山の辺の道沿いではないが、山の辺の道の穴師から盲腸線のようなところにあるので、ここで紹介させていただきます。

 

奈良県桜井市穴師 相撲神社万葉歌碑(巻十 二三一四)■

奈良県桜井市穴師 相撲神社万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

 

 

奈良県桜井市穴師 穴師坐兵主神社万葉歌碑(巻七 一三六九)

奈良県桜井市穴師 穴師坐兵主神社万葉歌碑(作者未詳)


 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その75改、76改)」で紹介している。

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奈良県桜井市箸中車谷(山の辺の道)万葉歌碑(巻七 一〇八七)■

奈良県桜井市箸中車谷(山の辺の道)万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

●歌をみていこう。

 

◆痛足河 ゝ浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志

         (柿本人麻呂歌集 巻七 一〇八七)

 

≪書き下し≫穴師川(あなしがは)川波立ちぬ巻向(まきむく)の弓月が岳(ゆつきがたけ)に雲居(くもゐ)立てるらし

 

(訳)穴師の川に、今しも川波が立っている。巻向の弓月が岳に雲が湧き起っているらしい。(伊藤 博著「万葉集 二」角川ソフィア文庫より)

(注)穴師川:桜井市穴師を流れる巻向川。(伊藤脚注)

(注)弓月が岳:三輪山東北の巻向山の最高峰。(伊藤脚注)

 

 題詞は「雲を詠む」であり、一〇八八の左注に「右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出」(右の二首は柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ)とある。

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 この歌ならびに歌碑については、一〇八八歌とともに拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その69改)」で紹介している。

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奈良県桜井市箸中車谷(山の辺の道)穴師川小橋付近万葉歌碑(巻七 一二六九)

奈良県桜井市箸中車谷(山の辺の道)穴師川小橋付近万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その67改)」で紹介している。

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奈良県桜井市桧原井寺池畔万葉歌碑(巻七 一一一八)■

奈良県桜井市桧原井寺池畔万葉歌碑(柿本人麻呂歌集) 20190422撮影

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その63改)」で紹介している。

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 なお井寺池畔には歌碑は5基ある。すべてまわりブログも作成しているが、ここでは割愛させていただきます。

 

 

奈良県桜井市茅原(山の辺の道)玄賓庵(げんぴあん)近く万葉歌碑(巻二 一五八)■

奈良県桜井市茅原(山の辺の道)玄賓庵近く万葉歌碑(高市皇子) 20190423撮影

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その74改)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「さくらい六街道を巡り歩く」 (桜井市役所 観光まちづくり課発行)