万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2151)―滋賀県(2)東近江市・蒲生郡・彦根市(その2)―

滋賀県近江八幡市沖島町 沖島コミュニティセンター前万葉歌碑(巻十一 二四三九)■

滋賀県近江八幡市沖島町 沖島コミュニティセンター前万葉歌碑(柿本人麻呂歌集)
20220623撮影

●歌をみていこう。

 

◆淡海 奥嶋山 奥儲 吾念妹 事繁

       (柿本人麻呂歌集 巻十一 二四三九)

 

≪書き下し≫近江(あふみ)の海(うみ)沖(おき)つ島(しま)山(やま)奥(おく)まけて我(あ)が思(も)ふ妹(いも)が言(こと)の繁(しげ)けく

 

(訳)近江の海の沖つ島山ではないが、奥の奥かけて私の思うあの子なのに、人の噂の絶えることがない。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)上二句は序。「奥まけて(将来をかけて)」を起こす。(伊藤脚注)

(注)おく【奥】名詞:①物の内部に深く入った所。②奥の間。③(書物・手紙などの)最後の部分。④「陸奥(みちのく)」の略。▽「道の奥」の意。⑤遠い将来。未来。行く末。⑥心の奥。(学研)ここでは⑤の意

(注)まく【設く】他動詞:①前もって用意する。準備する。②前もって考えておく。③時期を待ち受ける。(その季節や時が)至る。 ※上代語。中古以後は「まうく」。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは②の意

(注)ことしげし【事繁し】[形ク]①する事が多くて忙しい。② 人の口がうるさい。③ ものものしい。ぎょうさんである。(weblio辞書 デジタル大辞泉

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1701)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 



 沖島近江八幡市沖合約1.5kmの琵琶湖最大の島で、湖に人が暮らす日本で唯一の島である。近江八幡市側の堀切港と沖島の間は「おきしま通船」が運航している。「来島者用駐車場」(300円)に車を泊める。パンフレット「沖島さんぽ」「海なし県の離島 沖島 もんてみてマップ」を頂く。

 船旅による歌碑巡りは初めて。船に乗ることも何年ぶりであろうか。片道500円。万葉歌碑を訪れたあとは、藤原不比等が建立したという「奥津嶋神社」にお参りをした。



 

 

 

滋賀県竜王町 妹背の里(1)万葉歌碑(巻一 二〇)■

滋賀県竜王町 妹背の里(1)万葉歌碑(額田王

●歌をみていこう。

 

◆茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流

      (額田王 巻一 二〇)

 

≪書き下し≫あかねさす紫野行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る

 

(訳)茜(あかね)色のさし出る紫、その紫草の生い茂る野、かかわりなき人の立ち入りを禁じて標(しめ)を張った野を行き来して、あれそんなことをなさって、野の番人が見るではございませんか。あなたはそんなに袖(そで)をお振りになったりして。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)あかねさす【茜さす】分類枕詞:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。(学研)

(注)むらさき 【紫】①草の名。むらさき草。根から赤紫色の染料をとる。②染め色の一つ。①の根で染めた色。赤紫色。古代紫。古くから尊ばれた色で、律令制では三位以上の衣服の色とされた。(学研)

(注)むらさきの 【紫野】:「むらさき」を栽培している園。(伊藤脚注)

(注)しめ【標】:神や人の領有区域であることを示して、立ち入りを禁ずる標識。また、道しるべの標識。縄を張ったり、木を立てたり、草を結んだりする。(学研)

(注)野守:天智天皇を寓したもの。額田王が天智妻であることを匂わせる。(伊藤脚注)

(注の注)のもり【野守】名詞:立ち入りが禁止されている野の番人。(学研)

 

 

 

滋賀県竜王町 妹背の里(2)万葉歌碑(巻一 二一)■

滋賀県竜王町 妹背の里(2)万葉歌碑(大海人皇子

●歌をみていこう。

 

◆紫草能 尓保敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓 吾戀目八方

       (大海人皇子 巻一 二一)

 

≪書き下し≫紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎(にく)くあらば人妻(ひとづま)故(ゆゑ)に我(あ)れ恋(こ)ひめやも

 

(訳)紫草のように色美しくあでやかな妹(いも)よ、そなたが気に入らないのであったら、人妻と知りながら、私としてからがどうしてそなたに恋いこがれたりしようか。(伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。(学研)ここでは④の意

(注)めやも 分類連語:…だろうか、いや…ではないなあ。 ⇒なりたち:推量の助動詞「む」の已然形+反語の係助詞「や」+終助詞「も」(学研)

 

 額田王そして大海人皇子の歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1702,1703)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 



 

蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干万葉歌碑(プレート)(巻一 二〇)■

蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干万葉歌碑(プレート)(額田王

●歌は「妹背の里」と同じであるので省略させていただきます。

 

 続いて、大海人皇子の歌碑をみてみよう。

 

蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干万葉歌碑(プレート)(巻一 二一)■

蒲生郡竜王町 雪野山大橋欄干万葉歌碑(プレート)(大海人皇子

●歌は「妹背の里」と同じであるので省略させていただきます。

 

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感想(1件)

 額田王ならびに大海人皇子の歌と歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その420,421)」で紹介している。

 ➡ こちら420,421

 

 

 

 雪野山大橋には、額田王大海人皇子の立像が立てられている。

 

 

彦根市肥田町 宇曽川堤防万葉歌碑(巻十二 三〇九二)■

彦根市肥田町 宇曽川堤防万葉歌碑(作者未詳)

●歌をみていこう。

 

◆白檀 斐太乃細江之 菅鳥乃 妹尓戀哉 寐宿金鶴

        (作者未詳 巻十二 三〇九二)

 

≪書き下し≫白真弓(しらまゆみ)斐太(ひだ)の細江(ほそえ)の菅鳥(すがとり)の妹(いも)に恋ふれか寐(い)を寝かねつる          

 

(訳)斐太の細江に棲む菅鳥が妻を求めて鳴くように、あの子に恋い焦がれているせいか、なかなか寝つかれないでいる。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)しらまゆみ【白真弓・白檀弓】名詞:まゆみの木で作った、白木のままの弓。

(注)しらまゆみ【白真弓・白檀弓】分類枕詞:弓を張る・引く・射ることから、同音の「はる」「ひく」「いる」などにかかる。(学研)

(注)上三句は序。「恋ふ」を起す。(伊藤脚注)

(注)すがどり【菅鳥】:鳥の名。オシドリとも,一説に「管鳥(つつどり)」の誤りかともいう。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)いもねられず 【寝も寝られず】分類連語:眠ることもできない。 ※なりたち名詞「い(寝)」+係助詞「も」+動詞「ぬ(寝)」の未然形+可能の助動詞「らる」の未然形+打消の助動詞「ず」(学研)

(注)かぬ 接尾語 〔動詞の連用形に付いて〕:①(…することが)できない。②(…することに)耐えられない。(学研)

 

 肥田町のこの歌碑の近くに戦国時代、高野瀬氏によって築かれたという平城の肥田城跡がある。万葉歌碑との時代の乖離ははなはだしい。

ここ、宇曽川の堤防に歌碑が建てられているが、「斐太乃細江」の「斐太」を肥田町としたからであろう。しかし、あまりにも説明資料がなく、さみしいかぎりである。もっとも「斐太」は所在未詳ではあるが。

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その413)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

「斐太」を「飛騨」とした歌碑が、飛騨市古川町杉崎 細江歌塚にある。これついては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1931)」で紹介している。

➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

彦根市正法寺町 大堀山登口万葉歌碑(巻四 四八七・巻一二 三〇九二)■

彦根市正法寺町 大堀山登口万葉歌碑(崗本天皇・作者未詳)

●歌をみていこう。

 

◆淡海路乃 鳥籠之山有 不知哉川 氣乃己呂其侶波 戀乍裳将有

       (崗本天皇 巻四 四八七)

 

≪書き下し≫近江道(あふみぢ)の鳥籠(とこ)の山なる不知哉川(いさやがは)日(け)のころごろは恋ひつつもあらむ

 

(訳)近江路(おうみじ)の鳥籠(とこ)の山裾を流れる不知哉川(いさやがわ)、その不知(いさ)というではないが、先のことはいざ知らず、ここしばらくのあいだは恋い慕いながら生きていよう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)とこのやま【鳥籠の山】:近江国の不知哉(いさや)川近辺にあった山。現在のどの山にあたるかは未詳。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)不知哉川:分類地名 歌枕(うたまくら)。今の滋賀県にある川。和歌で多く、「いさ」を導き出すための序詞(じよことば)に使われる。(学研)

(注)こ ろ【頃・比】名詞:①時分。ころ。おおよその時をいう語。②季節。時節。折。ころ。(学研)

 

 

 もう一首の方をみてみよう。

 

◆狗上之 鳥籠山尓有 不知哉河 不知二五寸許瀬 余名告奈

        (作者未詳 巻十一 二七一〇)

 

≪書き下し≫犬上(いぬかみ)の鳥籠(とこ)の山にある不知哉川(いさやがは)いさとこ聞こせ我(わ)が名告(の)らすな

 

(訳)犬上の鳥籠の山辺の不知哉川、その名の“いさ―――さあね”とぐらいにおっしゃって下さい。私の名前だけは人におっしゃらないでね。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)犬上の鳥籠の山:彦根市東南の山。上三句は序。(伊藤脚注)

(注)いさ 感動詞:さあねえ。ええと。(学研)

 

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その412)」で紹介している。

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滋賀県彦根市 JR彦根駅東口万葉歌碑(巻四 四八七)■

滋賀県彦根市 JR彦根駅東口万葉歌碑(崗本天皇) 20200203撮影

●この歌は、先の大堀山登口万葉歌碑と同じであるので省略させていただきます。

 

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この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その411)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 



 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉