万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2159)―兵庫県(5)姫路市・たつの市・相生市―

姫路市

姫路市本町 日本城郭研究センター前万葉歌碑(巻九 一七七六・一七七七)■

姫路市本町 日本城郭研究センター前万葉歌碑(播磨娘子) 20200803撮影

●歌をみていこう。

 

題詞は、「石川大夫遷任上京時播磨娘子贈歌二首」<石川大夫(いしかはのまへつきみ)、遷任して京に上(のぼ)る時に、播磨娘子(はりまのをとめ)が贈る歌二首>である。

(注)石川大夫:石川朝臣吉美候(いしかはのあそみきみこ)(稲岡耕二 編 別冊國文學万葉集必携 學燈社

(注の注)霊亀元年(715年)播磨守になった石川朝臣君子か。(伊藤脚注)

(注)播磨娘子:播磨の遊行女婦か。(伊藤脚注)

 

◆絶等寸笶 山之峯上乃 櫻花 将開春部者 君之将思

           (播磨娘子 巻九 一七七六)

 

≪書き下し≫絶等寸(たゆらき)の山の峰(を)の上(へ)桜花咲かむ春へは君を偲はむ

 

(訳)絶等寸(たゆらき)の山の峰のあたりの桜花、その花が咲く春の頃には、いつも花によそえてあなた様を思うことでしょう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)絶等寸(たゆらき)の山:播磨の国府付近の山と見られるが、所在未詳。・・・[捕遺]播磨国府は、姫路総社本町の姫路郵便局の場所で発掘調査された本町遺跡である。(犬養 孝著「万葉の旅 下」 平凡社ライブラリー

(注)いうこうじょふ【遊行女婦】:各地をめぐり歩き、歌舞音曲で宴席をにぎわした遊女。うかれめ。

 

◆君無者 奈何身将装餝 匣有 黄楊之小梳毛 将取跡毛不念

         (播磨娘子 巻九 一七七七)

 

≪書き下し≫君なくはなぞ身(み)装(よそ)はむ櫛笥(くしげ)なる黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)も取らむとも思はず

 

(訳)あなた様がいらっしゃらなくては、何でこの身を飾りましょうか。櫛笥(くしげ)の中の黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)さえ手に取ろうとは思いません。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)くしげ【櫛笥】名詞:櫛箱。櫛などの化粧用具や髪飾りなどを入れておく箱。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 

 

姫路市的形町 湊神社万葉歌碑(巻七 一一六二)■

姫路市的形町 湊神社万葉歌碑(作者未詳) 20200803撮影

●歌をみていこう。

 

◆圓方之 湊之渚鳥 浪立也 妻唱立而 邊近著毛

         (作者未詳 巻七 一一六二)

 

≪書き下し≫円方(まとかた)の港(みなと)の洲鳥(すどり)波立てや妻呼び立てて辺(へ)に近(ちか)づくも

 

(訳)円方(まとかた)の港の洲に群れている鳥、この鳥は、沖の方の波が高くなってきたからか、妻を呼び立てては岸に近づいてくる。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)円方(まとかた):三重県松阪市東黒部町(松阪市HP「万葉遺跡 円方(まとかた)」では異論があるとしている)

(注)すどり【州鳥】 州にいる鳥。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

 

 一七六六・一七七七歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その691)」で、一一六二歌ならびに歌碑については、同「同(その690)」で紹介している。

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■津田天満神社御旅所万葉歌碑(巻六 九四三)■

津田天満神社御旅所万葉歌碑(山部赤人) 20200803撮影

●歌をみていこう。

 

◆風吹者 浪可将立跡 伺候尓 都太乃細江尓 浦隠居

        (山部赤人 巻六 九四五)

 

≪書き下し≫風吹けば波か立たむとさもらひに都太(つだ)の細江(ほそえ)に浦隠(うらがく)り居(を)り

 

(訳)風が吹くので、波が高く立ちはせぬかと、様子を見て都太(つだ)の細江(ほそえ)の浦深く隠(こも)っている。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)さもらふ【候ふ・侍ふ】自動詞:ようすを見ながら機会をうかがう。見守る。(学研)

(注)都太(つだ)の細江(ほそえ):姫路市船場川河口の入江。(伊藤脚注)

(注)うらがくる【浦隠る】自動詞:(船が風や波を避けて)入り江に隠れる。(学研)

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その689)」で紹介している。

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 津田天満神社境内社に「山部赤人神社」がある。



 

 

たつの市

たつの市御津町室津 藻振鼻万葉歌碑(巻六 九四三)■

たつの市御津町室津 藻振鼻万葉歌碑(山部赤人) 20201028撮影

●歌をみていこう。

 

◆玉藻苅 辛荷乃嶋尓 嶋廻為流 水烏二四毛有哉 家不念有六

       (山部赤人 巻六 九四三)

 

≪書き下し≫玉藻(たまも)刈る唐荷(からに)の島に島廻(しまみ)する鵜(う)にしもあれや家(いへ)思はずあらむ

 

(訳)この私は、玉藻を刈る唐荷の島で餌を求めて磯をめぐっている鵜ででもあるというのか、鵜ではないのだから、どうして家のことを思わずにいられよう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)しもあれ 分類連語:全く…もあるというのに。 ※なりたち:副助詞「しも」+ラ変動詞「あり」の已然形(学研)

(注)や 係助詞《接続》種々の語に付く。活用語には連用形・連体形(上代には已然形にも)に付く。文末に用いられる場合は活用語の終止形・已然形に付く。〔反語〕…(だろう)か、いや、…ない。(学研)

(注)唐荷の島:揖保郡御津町室津の藻振鼻から南西約1.8kmの間に、地(じ)ノ唐荷(からに)・中ノ唐荷・沖ノ唐荷と三島ならぶ無人の小島である。『播磨風土記』に、韓人の船が難破して、漂流物がこの島に着いたので韓荷島というとの伝説が出ている。(犬養 孝著「万葉の旅 下」 平凡社ライブラリー

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その806)」で紹介している。

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あずまや、藻振観音堂跡の碑、万葉歌碑 20201028撮影

 

 

相生市

相生市相生金ヶ崎「縄の浦山部赤人万葉歌碑」(巻三 三五七)■

相生市相生金ヶ崎「縄の浦山部赤人万葉歌碑」 20200803撮影

●歌をみていこう。

 

題詞は、「山辺宿祢赤人歌六首」<山辺宿禰赤人が歌六首>である。

 

◆縄浦従 背向尓所見 奥嶋 榜廻舟者 釣為良下

         (山部赤人 巻三 三五七)

 

≪書き下し≫縄(なは)の浦ゆそがひに見ゆる沖つ島漕(こ)ぎ廻(み)る舟は釣りしすらしも

 

(訳)縄の浦からうしろに見える沖合の島、その島のあたりを漕ぎめぐっている舟は、まだ釣りをしているまっ最中らしい。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

(注)そがひ【背向】名詞:背後。後ろの方角。後方。(学研)

(注)らし(読み)助動 活用語の終止形、ラ変型活用語の連体形に付く。:① 客観的な根拠・理由に基づいて、ある事態を推量する意を表す。…らしい。…に違いない。②根拠や理由は示されていないが、確信をもってある事態の原因・理由を推量する意を表す。…に違いない。 [補説]語源については「あ(有)るらし」「あ(有)らし」の音変化説などがある。奈良時代には盛んに用いられ、平安時代には1の用法が和歌にみられるが、それ以後はしだいに衰えて、鎌倉時代には用いられなくなった。連体形・已然形は係り結びの用法のみで、また奈良時代には「こそ」の結びとして「らしき」が用いられた(コトバンク デジタル大辞泉

(注)「縄の浦」は相生湾。「奥つ島」は「沖つ島」で「鬘島」か。(相生市HP「万葉の岬」)

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その685)」で紹介している。

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相生市相生金ヶ崎 「辛荷島山部赤人万葉歌碑」(巻六 九四二~九四五)■

相生市相生金ヶ崎 「辛荷島山部赤人万葉歌碑」

●歌をみていこう。

この歌群の九四五歌については、前述の津田天満神社御旅所万葉歌碑のところで、九四三歌については、同藻振鼻万葉歌碑のところで紹介しており、重複いたしますが、ここであらためて九四二から九四五歌まで歌群一通で紹介いたします。

 

九四二から九四五歌の題詞は、「過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首并短歌」<唐荷(からに)の島を過し時に、山部宿禰赤人が作る歌一首并せて短歌>である。

(注)唐荷の島:揖保郡御津町室津の藻振鼻から南西約1.8kmの間に、地(じ)ノ唐荷(からに)・中ノ唐荷・沖ノ唐荷と三島ならぶ無人の小島である。『播磨風土記』に、韓人の船が難破して、漂流物がこの島に着いたので韓荷島というとの伝説が出ている。(犬養 孝著「万葉の旅 下」 平凡社ライブラリー

 

◆味澤相 妹目不數見而 敷細乃 枕毛不巻 櫻皮纒 作流舟二 真梶貫 吾榜来者 淡路乃 野嶋毛過 伊奈美嬬 辛荷乃嶋之 嶋際従 吾宅乎見者 青山乃 曽許十方不見 白雲毛 千重尓成来沼 許伎多武流 浦乃盡 徃隠 嶋乃埼ゝ 隈毛不置 憶曽吾来 客乃氣長弥

        (山部赤人 巻六 九四二)

 

≪書き下し≫あぢさはふ 妹(いも)が目離(か)れて 敷栲(しきたへ)の 枕もまかず 桜皮(かには)巻(ま)き 作れる船に 真楫(まかぢ)貫(ぬ)き 我(わ)が漕(こ)ぎ来(く)れば 淡路(あはぢ)の 野島(のしま)も過ぎ 印南都麻(いなみつま) 唐荷(からに)の島の 島の際(ま)ゆ 我家(わぎへ)を見れば 青山(あをやま)の そことも見えず 白雲(しらくも)も 千重(ちへ)になり来(き)ぬ 漕ぎたむる 浦のことごと 行き隠る 島の崎々(さきざき) 隈(くま)も置かず 思ひぞ我(わ)が来(く)る 旅の日(け)長み

 

(訳)いとしいあの子と別れて、その手枕も交わしえず、桜皮(かにわ)を巻いて作った船の舷(ふなばた)に櫂(かい)を通してわれらが漕いで来ると、いつしか淡路の野島も通り過ぎ、印南都麻(いなみつま)をも経て唐荷の島へとやっと辿(たど)り着いたが、その唐荷の島の、島の間から、わが家の方を見やると、そちらに見える青々と重なる山のどのあたりがわが故郷なのかさえ定かでなく、その上、白雲までたなびいて幾重にも間を隔ててしまった。船の漕ぎめぐる浦々、行き隠れる島の崎々、そのどこを漕いでいる時もずっと、私は家のことばかりを思いながら船旅を続けている。旅の日数(ひかず)が重なるままに。(同上)

(注)あぢさはふ 分類枕詞:①「目」にかかる。語義・かかる理由未詳。②「夜昼知らず」にかかる。語義・かかる理由未詳。(学研) ※ここでは①

(注)しきたへの【敷き妙の・敷き栲の】分類枕詞:「しきたへ」が寝具であることから「床(とこ)」「枕(まくら)」「手枕(たまくら)」に、また、「衣(ころも)」「袖(そで)」「袂(たもと)」「黒髪」などにかかる。(学研)

(注)かには(桜皮):船で使う場合は、木材の接合部分に用い、防水の役目もしていた。(「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著)

(注)まかぢ【真楫】名詞:楫の美称。船の両舷(りようげん)に備わった楫の意とする説もある。「まかい」とも。(学研)

(注)印南都麻:加古川河口の島か。(伊藤脚注)播磨風土記に記載がある。

(注)こぎたむ【漕ぎ回む・漕ぎ廻む】自動詞:(舟で)漕ぎめぐる。(学研)

 

 

◆玉藻苅 辛荷乃嶋尓 嶋廻為流 水烏二四毛有哉 家不念有六

        (山部赤人 巻六 九四三)

 

≪書き下し≫玉藻(たまも)刈る唐荷(からに)の島に島廻(しまみ)する鵜(う)にしもあれや家(いへ)思はずあらむ

 

(訳)この私は、玉藻を刈る唐荷の島で餌を求めて磯をめぐっている鵜ででもあるというのか、鵜ではないのだから、どうして家のことを思わずにいられよう。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)鵜にしもあれや:鵜ででもあるというのか、鵜ではないのだから家を思わずにいられようか。(伊藤脚注)

(注)しもあれ 分類連語:全く…もあるというのに。 ※なりたち:副助詞「しも」+ラ変動詞「あり」の已然形(学研)

(注)や 係助詞《接続》種々の語に付く。活用語には連用形・連体形(上代には已然形にも)に付く。文末に用いられる場合は活用語の終止形・已然形に付く。〔反語〕…(だろう)か、いや、…ない。(学研)

 

 

◆嶋隠 吾榜来者 乏毳 倭邊上 真熊野之船

       (山部赤人 巻六 九四四)

 

≪書き下し≫島隠(しまがく)り我(わ)が漕ぎ来(く)れば羨(とも)しかも大和へ上る ま熊野の船

 

(訳)島陰を伝いながらわれらが漕いで来ると、ああ、何とも羨(うらや)ましい。家郷大和の方へ上って行くよ、ま熊野(くまの)の船が。(同上)

(注)ともし【羨し】形容詞:慕わしい。心引かれる。(学研)

(注)ま【真】接頭語:〔名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞などに付いて〕①完全・真実・正確・純粋などの意を表す。「ま盛り」「ま幸(さき)く」「まさやか」「ま白し」。②りっぱである、美しい、などの意を表す。「ま木」「ま玉」「ま弓」(学研)

(注)熊野の船:熊野製の船。熊野は良船の産地。(伊藤脚注)

 

 

◆風吹者 浪可将立跡 伺候尓 都太乃細江尓 浦隠居

        (山部赤人 巻六 九四五)

 

≪書き下し≫風吹けば波か立たむとさもらひに都太(つだ)の細江(ほそえ)に浦隠(うらがく)り居(を)り

 

(訳)風が吹くので、波が高く立ちはせぬかと、様子を見て都太(つだ)の細江(ほそえ)の浦深く隠(こも)っている。(同上)

(注)さもらふ【候ふ・侍ふ】自動詞:ようすを見ながら機会をうかがう。見守る。(学研)

(注)都太(つだ)の細江(ほそえ):姫路市船場川河口の入江。唐荷の島より東の地。(伊藤脚注)

(注)うらがくる【浦隠る】自動詞:(船が風や波を避けて)入り江に隠れる。(学研)

 

 九四三から九四五歌に関して、伊藤 博氏は脚注で、「九四三歌が唐荷の島を現在点とし、前歌が唐荷の島までの体験を通しての感慨を述べるのに対し、この歌(九四五歌)は中途の具体的な土地での体験を描くことで海路の恐ろしさを述べたものか。」と書いておられる。

 

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この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その687)」で紹介している。

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相生市相生金ヶ崎「鳴島万葉歌碑」(巻十二 三一六四)■

相生市相生金ヶ崎「鳴島万葉歌碑」(作者未詳) 20200803撮影

●歌をみていこう。

 

◆室之浦之 瑞門之埼有 鳴嶋之 磯越浪尓 所沾可聞

        (作者未詳 巻十二 三一六四)

 

≪書き下し≫室(むろ)の浦(うら)の瀬戸(せと)の崎(さき)なる鳴島(なきしま)の磯(いそ)越す波に濡れにけるかも

 

(訳)室の浦の瀬戸の崎にある鳴島、その島の泣く涙だというのか、磯を越す波にすっかり濡れてしまった。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)室の浦:兵庫県たつの市御津町。(伊藤脚注)

(注)鳴島:「泣く島」を懸ける。(伊藤脚注)

 

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この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その686)」で紹介している。

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相生市矢野町森 磐座神社万葉歌碑(巻十 二一七八、二一七九)■

相生市矢野町森 磐座神社万葉歌碑(柿本人麻呂歌集) 20200803撮影

●歌をみていこう。

 

題詞は、「詠黄葉」<黄葉(もみち)を詠む>である。

(注)黄葉(もみち):ここでは、山野の草木の色づきの意。(伊藤脚注)

 

妻隠 矢野神山 露霜尓 々寶比始 散巻惜

       (柿本人麻呂歌集 巻十 二一七八)

 

≪書き下し≫妻ごもる矢野(やの)の神山(かみやま)露霜(つゆしも)ににほひそめたり散らまく惜(を)しも

 

(訳)妻と隠(こも)る屋(や)というではないか、矢野の神山は、冷え冷えとした露が降りて美しく色づきはじめた。このもみじの散るのが、今から惜しまれてならぬ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)つまごもる【夫籠もる・妻籠もる】( 枕詞 ):①物忌みなどのため「つま」のこもる屋の意で、「屋上(やかみ)の山」「矢野の神山」にかかる。②地名「小佐保(おさほ)」にかかる。かかり方未詳。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)矢野:所在未詳。諸所に見える地名。(伊藤脚注)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:美しく染まる。(草木などの色に)染まる。(学研)

 

◆朝露尓 染始 秋山尓 鍾礼莫零 在渡金

        (柿本人麻呂歌集 巻十 二一七九)

 

≪書き下し≫朝露(あさつゆ)ににほひそめたる秋山にしぐれな降りそありわたるがね

 

(訳)朝露に濡れて色付きはじめた秋の山に、時雨よ降らないでおくれ。この見事な風情がいついつまでも続くように。(同上)

(注)ありわたる【在り渡る】自動詞:ずっとそのままの状態で時を過ごす。(学研)

(注)がね 接続助詞:《接続》動詞の連体形に付く。①〔理由〕…であるから。…だろうから。②〔目的〕…ために。…ように。 ※参考「がね」は文末に置かれるので、「終助詞」という説もあるが、倒置と考えられるので、接続助詞とする説に従う。上代語。(学研)

 

 左注は、「右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出」<右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ>である。

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その684)」で紹介している。

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「磐座神社」については、「相生歴史資料マップ3 磐座神社(兵庫県教育委員会)」に詳しく書かれている。 これに目を通しておけば磐座神社への見方も変わったであろう。

 そのまま転用させていただきます。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著

★「万葉の旅 下」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「松阪市HP」

★「相生歴史資料マップ3 磐座神社(兵庫県教育委員会)」

★「相生市HP]