●歌は、「石上布留の高橋高々に妹が待つらむ夜ぞ更けにける(作者未詳 12-2997)」である。
【布留川】
「(作者未詳 巻十二‐二九九七)(歌は省略) 石上神宮の北側の布留川に沿うて東方の山中へ県道(もとの布留街道)が、都介(つげ)の高原から名張へと通じている。・・・天理市街地を横切って末は初瀬川に流れている。・・・布留の高橋が高いように高々と背のびして、あの女(ひと)は待っているだろうに、夜はふけてしまったという、女のところに通う夜の、男の気持をうたったものである。これも・・・この付近での民謡ででもあろう。」(「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)
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二九九七歌をみてみよう。
■巻十二 二九九七歌■
◆石上 振之高橋 高ゝ尓 妹之将待 夜曽深去家留
(作者未詳 巻十二 二九九七)
≪書き下し≫石上(いそのかみ)布留(ふる)の高橋(たかはし)高々(たかたか)に妹(いも)待つらむ夜(よ)ぞ更(ふ)けにける
(訳)石上の布留の高橋、その高橋のように、高々と爪立(つまだ)つ思いであの子が今頃待っているだろうに、夜はもうすっかり更けてしまった。(伊藤 博著「万葉集 三」角川ソフィア文庫より)
(注)上二句は序。「高々に」(爪先立てて)を起す。(伊藤脚注)
(注の注)たかだかなり【高高なり】形容動詞:(待ち望んで)高く背のびをして見ている。(学研)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その51改)」で紹介している。
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石上神宮、石上神宮外苑公園、天理駅、布留川、布留山の位置関係は下記のマップのとおりである。
「神宮の付近は・・・静寂峡で、『布留の山なる杉群』(巻三‐四二二)も、『布留山の瑞垣(みずがき)』(巻四‐五〇一)なども・・・『布留の早稲田(わさだ)』(巻七‐一三五三)も、古代が今にいきづいているような田舎である。」(同著)
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これらの歌をみてみよう。
■巻三 四二二歌■
◆石上 振乃山有 杉村乃 思過倍吉 君尓有名國
(丹生王 巻三 四二二)
≪書き下し≫)石上 布留の山なる 杉群(すぎむら)の 思ひ過ぐべき 君にあらなくに
(訳)石上の布留の山にある杉の木の群れ、その杉のように、私の思いから過ぎ去って忘れてしまえるお方ではけっしてないのに。(伊藤 博著「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)
(注)石上布留:天理市石上神宮付近。上三句は序。「思ひ過ぐ」を起す。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その54改)」で紹介している。
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■巻四 五〇一歌■
◆未通女等之 袖振山之 水垣之 久時従 憶寸吾者
(柿本人麻呂 巻四 五〇一)
≪書き下し≫ 未通女(をとめ)らが袖(そで)布留山(そでふるやま)の瑞垣(みづかき)の久しき時ゆ思ひき我(わ)れは
(訳)おとめが袖を振る、その布留山の瑞々しい垣根が大昔からあるように、ずっとずっと前から久しいこと、あの人のことを思ってきた、この私は。(同上)
(注)「未通女等之袖」までが「布留」を、上三句が「久しき」を起こす二重の序。(伊藤脚注)
(注)布留山(ふるやま):布留山当神宮の東方にある円錐形の山、標高266m。古代には、当神宮の神奈備(かんなび)であったともいわれ、山中には岩石からなる磐座(いわくら)が現存しています。(石上神宮HP)
この歌は、題詞「柿本朝臣人麻呂歌三首」(五〇一~五〇三歌)の一首である。
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その50改)」で紹介している。
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■巻七 一三五三歌■
◆石上 振之早田乎 雖不秀 縄谷延与 守乍将居
(作者未詳 巻七 一三五三)
≪書き下し≫石上(いそのかみ)布留(ふる)の早稲田(わさだ)を秀(ひ)でずとも縄(なは)だに延(は)へよ守(も)りつつ居(お)らむ
(訳)石上の布留の早稲を植えた田、この田にはまだ穂が出揃っていなくても、せめて標縄(しめなわ)だけは張っておいてください。私がよく見守っていますから。(伊藤 宏著「万葉集 二 角川ソフィア文庫より」
(注)早稲田:年ごろになる前の女の譬え。(伊藤脚注)
(注)秀づ:穂出ヅの約か。年頃になる意。(伊藤脚注)
(注の注)ひづ【秀づ】自動詞:①穂が出る。②他よりまさる。ひいでる。 ※「ほ(秀)い(出)づ」→「ひいづ」→「ひづ」と変化した語。(学研)
(注)縄だに延へよ:約束だけしておいてほしい。親の立場。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その52改)」で紹介している。
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(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「石上神宮HP」
★「グーグルマップ」