●歌は、「筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも (作者未詳 14-3351)」である。
【筑波嶺】
「東歌(巻十四‐三三五一)(歌は省略)・・・古代には筑波の山の深い信仰に結ばれて農村の集落が展開していたらしい。常陸の東歌一二首の中で一一首、防人歌一〇首の中で三首までが「筑波」を歌っている。それも景観を主題とするものではなくて、あくまで生活と結びついた親しい郷土の山としての『筑波』である。常陸は武蔵にも増して布の貢納の多かったところだから、布さらしは筑波おとめの仕事でもあっただろう。“筑波山に雪が降ったのかな、いやいや、かわいいあの娘(こ)が布をほしているのかな”といった民謡の行われるのも当然だ。フラル・ホサルはともにフレル・ホセルの訛(なまり)、『否を』の『を』は感動の助詞、『児ろ』の『ろ』は愛称、ニノはヌノの東国方言だ。布の干してあるのを見て、“雪かな”ととぼけ戯れた呼吸で、内容の単純類型的な表現といい、フラル・ホサルの対応、カモの繰り返しといい、田舎言葉の土くささのままにころころとはずむような快調となって郷土の生産生活のあいだにうたわれ、所をかえて流伝をもみたものであろう。」(「万葉の旅 中 近畿・東海・東国」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)
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巻十四 三三五一歌をみていこう。
■巻十四 三三五一歌■
◆筑波祢尓 由伎可母布良留 伊奈乎可母 加奈思吉兒呂我 尓努保佐流可母
(作者未詳 巻十四 三三五一)
≪書き下し≫筑波嶺(つくはね)に雪かも降(ふ)らるいなをかも愛(かな)しき子(こ)ろが布(にの)乾(ほ)さるかも
(訳)筑波嶺に雪が降っているのかな、いや、違うのかな。いとしいあの子が布を乾かしているのかな。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
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(注)降らる:「降れる」の東国形。(伊藤脚注)
(注)いなをかも【否をかも】分類連語:いや、そうではないのかな。違うのだろうか。 ⇒なりたち 感動詞「いな」+間投助詞「を」+係助詞「かも」(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)ニノ:「ヌノ」の訛り。(伊藤脚注)
(注)乾さる:「乾せる」の東国形。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2455)」で、茨城県つくば市大久保つくばテクノパーク大穂の万葉歌碑とともに紹介している。
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犬養著の解説の中で「常陸の東歌一二首」とあるのは、東歌巻頭五首のうち、三三五〇、三三五一歌が「常陸の国の歌」であり、三三八八歌から三三九七歌とあわせて一二首となっている。
この中で一一首が「筑波」(筑波嶺、筑波山、小筑波嶺、小筑波)をうたっているのである。
「常陸の東歌一二首」のうち『筑波』をうたった一一首のうち撮影できた歌碑は次の歌碑九基であった。
■三三五〇歌:筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも■
拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2454)」で紹介している。
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■三三五一歌:筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも ■
本稿上述の通りです。
■三三八八歌:筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに息づく君を率寝て遣らさね■
同「同(その2456)」で紹介している。
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茨城県つくば市大久保 つくばテクノパーク大穂万葉歌碑(作者未詳) 20230927撮影
■三三八九歌:妹が門いや遠そきぬ筑波山隠れぬほとに袖ば振りてな ■
同「同(その2457)」で紹介している。
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茨城県つくば市大久保 つくばテクノパーク大穂万葉歌碑(作者未詳) 20230927撮影
■三三九〇歌:筑波嶺にかか鳴く鷲の音のみをか泣きわたりなむ逢ふとはなしに■
同「同(その2458)」で紹介している。
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■三三九一歌:筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに
同「同(その2459)」で紹介している。
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茨城県つくば市大久保 つくばテクノパーク大穂万葉歌碑(作者未詳) 20230927撮影
■三三九三歌:筑波嶺のをてもこのもに守部据ゑ母い守れども魂ぞ合ひにける
同「同(その2460)」で紹介している。
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■三三九四歌:さ衣の小筑波嶺ろの山の崎忘ら来ばこそ汝を懸けなはめ■
同「同(その2461)」で紹介している。
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■三三九五歌:小筑波嶺の嶺ろに月立し間夜はさはだなりのをまた寝てむかも■
同「同(その2462)」で紹介している。
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三三九二、三三九六歌、三三九七歌については、歌のみを同「同(その2463)」で紹介している。
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(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉の旅 中 近畿・東海・東国」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」